表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/78

第51話 「リリアの得意料理」

依頼で森へ来ていた。討伐でも護衛でもない、簡単な採取任務だった。今回は薬草だけでなく、鉱石の採取も兼ねていたため、鑑定役としてティアも同行していた。


「工房の仕事、抜けてきたのか」

セリナが聞く。

「師匠に頼まれた。良い鉱脈があるかもしれないってな」


そう言いながら、ティアは道中、何度も地面や岩肌に目を光らせていた。


日帰りでは終わらない距離だったため、久しぶりに野営することになった。


「野営、久しぶりですわね」

エレノアが言う。

「食事どうする?」

ミレーユが聞く。


いつもなら携帯食か、簡単なスープで済ませる。だが今日は、少し違う流れになった。


「私が作る」


リリアが手を挙げた。全員が動きを止める。


「リリアが?」

フィアナが聞き返す。

「うん」

「大丈夫か?」

セリナが心配そうに聞く。


いつもは食べる専門、しかも三人前くらい平気で食べる。作る側に回ったことは、誰の記憶にもなかった。


「大丈夫」


自信満々だった。根拠は不明だった。


---


「見張っておいた方がいいですかね」

ルシェが小声で言う。

「たぶん」

ミレーユも小声で返す。


不安げな空気の中、リリアは焚き火の準備を始めた。薪の組み方に迷いがない。火をおこす手つきも早い。


「あら」

エレノアが少し驚く。

「手慣れてますわね」

「田舎育ちだから」


さらりと答える。それだけでは説明のつかない、妙な安定感があった。


---


持ってきた食材を確認する。携帯用の干し肉、野菜、香辛料。決して豊富ではない。だが、リリアは鍋を火にかけながら、次々と手を動かし始めた。


肉を薄く切る。野菜を刻む。香辛料を少しずつ加える。味見をしては、また少し足す。無駄のない動きだった。


「本当に、あのリリアか?」

ティアが小声でノアに聞く。手元では、拾ってきた石をランタンの光にかざしながらも、視線は鍋の方に釘付けだった。

「たぶん」

ノアも同じくらい戸惑っていた。


普段の食べっぷりからは、まったく想像がつかない繊細な手つきだった。


---


「なんで料理できるの?」


とうとう我慢できず、フィアナが聞いた。リリアは鍋をかき混ぜながら答える。


「母が教えてくれた」

「お母様が?」

「うん。よく手伝ってた」


意外な過去だった。木登りと迷子の印象しかなかった分、余計に意外だった。


「毎日ご飯食べたかったから、頑張って覚えた」

「理由が食い意地なのは変わらないのね」


ミレーユが呆れたように、でもどこか納得したように言った。


---


しばらくして、鍋から良い匂いが漂い始めた。香辛料の効いたスープと、じっくり煮込まれた肉の匂い。全員の視線が、自然と鍋へ吸い寄せられていく。ティアも、とうとう鉱石の選別作業を中断して、鍋の方へにじり寄っていた。


「良い匂いですわ……」

エレノアが呟く。

「思ったより本格的だな」

セリナも鍋を覗き込む。


ルナだけは、興味津々で鍋のすぐ側にしゃがみ込んでいた。


「食べたい」

「もうすぐ」

「今すぐ」

「もうすぐ」


神様相手にも、いつも通りだった。


---


「できた」


リリアが器に盛り分ける。湯気の立つスープと、香ばしく焼かれた肉。見た目からして、野営食の域を超えていた。


「いただきます」


全員が恐る恐る口をつける。そして、次の瞬間、ほぼ同時に目を見開いた。


「美味しい……!」

ルシェが声を上げる。

「本当に美味しいですわ」

エレノアも驚いている。


セリナも無言のまま、二口目、三口目とスプーンを進めていた。カレンだけは、味を確かめながら真剣な顔で分析していた。


「香辛料の配合、絶妙です。この火加減も」

「食べるの遅いよ」

「今、味の構造を解析してるんです」


研究者らしい食べ方だった。


---


ノアは、一口食べて小さく頷いた。


「森の味に近い」

「褒めてる?」

「褒めてる」


短いやり取りだったが、ノアにとっては最上級の評価らしかった。


ティアは、鉱石の入った袋を脇に置いたまま、黙々と食べ進めていた。


「工房の飯より美味い」

「それは師匠に怒られるやつだ」


フィアナが笑いながら突っ込む。


「今日の収穫、良い石は見つかった?」

セリナが聞く。

「ああ、まあまあだ。でも、今はそれより飯の方が気になる」


鉱石鑑定という本来の目的そっちのけでティアは、おかわりを器によそい始めていた。


---


ルナも、一心不乱にスプーンを動かしていた。


「もっと」

「まだあるよ」

「もっと」


神様は、いくらでも食べられるらしい。あるいは、久しぶりの人間の食事が、よほど気に入ったのかもしれない。


「リリア、これ本気で美味しいわよ」


ミレーユが、しみじみと言う。


「知ってる」


自信満々だった。だが、その自信は、いつもの根拠のないものとは少し違って見えた。


---


「なんで、これまで作ってくれなかったの?」


フィアナが聞く。リリアは少し考えて答えた。


「聞かれなかったから」

「聞くようなことだと思わなかったのよ」

「食べるの専門だと思ってた」

「私も専門だと思ってたわ」


ミレーユが素直に白状した。全員が頷く。今まで、誰もリリアに料理を頼んだことがなかった。むしろ、リリアが誰かの料理を横から食べる側だとばかり思っていた。


---


「今度から、たまに作ってほしいですわ」


エレノアが言う。


「いいよ」

「本当ですか」

「みんなで食べる方が美味しい」


即答だった。理由は単純で、だからこそ誰にも否定できなかった。


---


夜が更ける。焚き火を囲みながら、空になった器がいくつも転がっている。誰もが満腹だった。珍しく、リリアのお腹の音も聞こえなかった。


「明日も作ってくれる?」

ルシェが期待を込めて聞く。

「材料あれば」

「じゃあ、依頼のついでに市場寄りましょう」

ミレーユが提案する。


ティアは、腹ごなしとばかりに鉱石の袋を開き、ようやく本来の仕事に戻った。ランタンの光に石をかざしながら、それでも時折、空になった鍋の方をちらちらと見ていた。


星空の下、賑やかな声が森に響いていた。可愛い子を集めたいという理由で始まった冒険者生活は、いつの間にか、こうして仲間と鍋を囲む時間まで運んできていた。


リリアは、空になった鍋を眺めながら、満足そうに笑った。


「また作る」


その一言に、全員が笑顔で頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ