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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

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第50話 「新規会員」

カレンが初めて談話室へ来てから、数日が経っていた。


「また来ましたね」


ルシェが言う。談話室の扉を開けたのは、案の定カレンだった。今日も紙束を抱えている。


「今日は違う研究です!」

「毎回違うのね」


ミレーユが呆れたように言う。カレンは机に紙を広げながら、興奮した様子で続けた。


「回復水の件、あれから色々調べたんですけど、どうしても分からないことがあって」

「また分からないの?」

フィアナが聞く。

「分からないことだらけです! だから面白いんです!」


胸を張って言い切る姿は、前回とまったく変わっていなかった。


---


「それで、今日は何を調べに来たんだ?」


セリナが聞く。カレンは資料を並べながら答えた。


「魔力の質についてです。リリアさんの魔力、普通の水属性とも、治癒属性とも違う反応を示すんです」


真剣な顔だった。回復水の話になると、いつも人が変わる。


「難しい話ですわね」

エレノアが苦笑する。

「難しくないです! 基礎から説明します!」


嫌な予感がした。全員。


そこから小一時間、カレンによる即席の講義が始まった。魔力の分類、属性の相性、既存の理論との矛盾点。聞いているうちに、リリア以外は何となく話についていけていたが、リリアだけは早々に船を漕ぎ始めていた。


「寝てます!」


ルシェが叫ぶ。


「大丈夫」

「何がですか!?」

「聞いてる」


絶対聞いていなかった。もう何度目か分からないやり取りだった。


---


「今日、ノアがいれば興味持ったかもしれませんわね」


エレノアが言う。


「森の生き物の生態にも詳しいから、魔力の話も好きそう」

「今日は実習で外です」


ミレーユが補足した。カレンは残念そうな顔をする。


「今度、紹介してください。話が合いそうです」

「今度ね」


リリアが眠そうな声で答えた。


---


夕方近く、カレンの熱意はまだ衰えていなかった。紙の山はさらに増え、机の上は計算式で埋め尽くされている。


その時だった。カレンの手元で、ぴこん、と小さな音が鳴った。


「あ」


短い声。カレンの視線が宙に固定される。


「どうした?」

セリナが聞く。


カレンは震える指で宙を見る。そこには、文字が浮かんでいた。


【ユニークスキル:夜型】


静寂。誰も喋らない。数秒後、


「え?」

カレンが言う。

「え?」


もう一回言う。


「えぇぇぇぇぇ!?」


大絶叫だった。談話室が揺れた気がした。


「なんですかこれ!?」


知っている。全員。


ミレーユが肩を叩く。優しく。


「落ち着いて」

「落ち着けません!」


当然だった。


フィアナも肩を叩く。


「諦めなさい」

「何をですか!?」

「人生を」

「重いです!」


---


ルシェが近付く。


「ようこそ」

「どこへ!?」

「被害者の会です」


カレンは固まった。


「被害者?」


全員がリリアを見る。カレンもつられて見る。リリアは手を振った。


「こんにちは」

「原因あなたですか!?」


鋭かった。


リリアは少し考える。そして、


「大体そう」


認めた。


ミレーユがため息をつく。フィアナも。エレノアも。全員慣れていた。カレンだけが慣れていない。


「説明してください!」

「無理よ」

ミレーユが言う。

「なんでですか!」

「私たちも分からないから」


それが現実だった。


---


その時、研究者らしい冷静さが、少しずつカレンに戻り始めていた。


「……待ってください」


カレンは震える手で、自分の資料をめくり返す。


「これ、もしかして。共有される力なんですか?」

「そうよ」

ミレーユが頷く。

「リリアが心の中で仲間だと思ってると、共有されるみたい」

「なら私も」


カレンは自分自身を指差した。


「対象に、含まれてしまったということですか」


困惑していたはずの顔に、少しずつ別の色が混ざり始める。


「研究材料が増えたって思ってる?」

フィアナが聞く。

「増えました」


即答だった。もう混乱よりも、好奇心の方が勝っているらしい。


---


ルナが笑う。


「仲間になったんだね」


カレンが振り向く。


「仲間?」

「うん」


カレンはしばらく黙っていた。それから、ゆっくりと紙束を抱え直し、椅子に座り直した。


「……悪くない、かもしれません」


小さな声だった。


「研究対象が、目の前にたくさんいる環境なんて、そうそうありませんから」


研究者らしい理由だった。だが、その顔には、隠しきれない嬉しさも滲んでいた。


ミレーユが小さく笑う。


「ようこそ、被害者の会へ」

「望んでこの名前を受け入れるのは、複雑な気持ちですけど」


そう言いながらも、カレンは帰る素振りを見せなかった。


---


「これで九人目ですわね」


エレノアが呟く。カレンが首を傾げた。


「九人目?」

「なんでもないんです」

ルシェが慌てて誤魔化す。


リリアだけが、指を折って数えていた。ミレーユ、セリナ、エレノア、ティア、フィアナ、ルシェ、ノア、カレン。そして自分。


「九人」


小さく呟く。誰にも聞こえないくらいの声だった。だが、その顔は、いつもより少しだけ嬉しそうだった。


「なにか言った?」

ミレーユが聞く。

「ううん、なんでもない」


リリアは笑って誤魔化した。あと一人。その言葉は、まだ胸の中にしまっておくことにした。


夕日が談話室の窓を橙色に染める。新しい仲間を迎えた被害者の会は、今日もいつも通り、賑やかだった。

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