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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

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第48話 「一週間違いの誕生日」

朝、帝都冒険者育成学校、女子寮の廊下。いつもより少し早い時間だった。


「ミレーユ」


リリアが部屋の扉を叩く。返事はない。もう一度叩く。


「起きてる?」


しばらくして、扉が開いた。ミレーユが眠そうな顔で立っている。


「なに、こんな朝早くから」

「誕生日だから」


即答だった。ミレーユは一瞬きょとんとした。それから、少し照れたように視線を逸らす。


「覚えてたのね」

「当たり前」


今日は、ミレーユが十三歳になる日だった。


---


食堂へ向かう道すがら、すでに周囲は騒がしかった。セリナ、エレノア、フィアナ、ルシェ、ノア。全員が待ち構えていたらしい。


「おめでとうございます!」


ルシェが真っ先に声を上げる。ミレーユは少し気圧されたように後ずさった。


「大袈裟よ」

「大袈裟じゃないですわ」


エレノアがきっぱりと言った。


「あなたはいつも、私たちの世話を焼いてばかりですもの。今日くらい、主役でいてくださいな」


その言葉に、ミレーユは何も言い返せなかった。確かに、思い当たる節が多すぎた。


---


食堂の隅、いつもの席には、すでに小さな飾り付けがされていた。花が数輪、テーブルの端に活けられている。


「これ、いつの間に」

「昨日の夜、こっそり」


フィアナが笑う。


「あなた、寝つきいいから、全然気付かなかったでしょう」

「一言もなかったじゃない」

「秘密にしてたから」


席に着くと、まずセリナが小さな包みを差し出した。


「これを」


開けると、丈夫な革の手帳が入っていた。表紙には、簡素だが上品な刻印が施されている。


「被害者の会の記録、いつも紙切れに書いてるだろう」

「よく見てるのね」

「散らかってるのが、気になっただけだ」


ぶっきらぼうな言い方だったが、ミレーユは嬉しそうに手帳を撫でた。


---


続いて、エレノアが優雅な仕草で包みを差し出す。


「わたくしからは、これを」


紅茶の茶葉だった。上質な香りが、開けた瞬間に漂う。


「あなた、いつも紅茶を淹れて、みんなに配ってくれますでしょう。だから、あなた自身が飲む分も、少し贅沢な物を」


ミレーユは少し目を潤ませた。


「気付かれてないと思ってたのに」

「気付きますわ、それくらい」


---


ルシェは、少し得意げに包みを開いた。


「これ、商人科の伝手で仕入れたんです!」


中身は、計算がしやすいよう目盛りが刻まれた、小さな携帯用の算盤だった。


「被害者の会の会計、たまに手伝ってくれるので。あると便利かと」

「本当に助かるわ、これ」


ミレーユは、その場で早速使い方を確かめていた。


---


ノアは、小さな布袋を差し出す。中には、香りのよい乾燥した薬草が詰まっていた。


「これ、飲むと落ち着く。森でよく採れる」

「疲れた時に飲めってこと?」

「いつも、みんなのこと気にしてる。たまには、自分を休めてほしい」


短い言葉だったが、ノアなりの精一杯の気遣いだった。ミレーユは、その薬草の匂いを確かめるように、そっと鼻を近づけた。


---


「それと、ティアからも預かっているわ」


エレノアが最後に、もう一つの包みを取り出す。


「今日は工房の納品日で、どうしても抜けられないんですって。代わりに渡してほしいと」


包みの中には、小ぶりの文鎮が入っていた。会議記録の紙が風で飛ばされないように、という気遣いらしい。手紙には、いつもの通り、あまり上手くない字で一言だけ添えられていた。


『会長業、いつもご苦労』


「相変わらず、そっけないのね」


そう言いながら、ミレーユは小さく笑った。


---


そして最後に、リリアが両手の後ろに隠していたものを取り出した。


「私も」


包みを開くと、小さな鈴が入っていた。銀色に光る、可愛らしい形をしている。


「鈴?」

「うん。ミレーユ、いつも私のこと探してくれるから」


その一言に、その場の空気が少し和らいだ。


「これ付けてたら、迷子になっても、すぐ見つけられる」

「それ、私が助かるためのお守りじゃなくて、あなたが迷子になった時のためのものよね」


ミレーユが呆れたように言う。図星だった。それでも、鈴には小さな刻印があった。


『みれーゆ ありがとう』


字は綺麗だった。丁寧に彫り込まれている。


「彫るの、大変だったんじゃない?」

「ティアに道具借りて、練習した」


ミレーユは、その鈴をしばらく見つめていた。それから、小さく、けれど確かに笑った。


「ありがとう、リリア」

「うん」


いつもは世話を焼く側のミレーユが、今日だけは素直に受け取る側だった。それだけで、なんだか特別な一日に感じられた。


---


それから一週間後。


同じ食堂、同じ席に、今度は違う顔ぶれが集まっていた。ミレーユが早朝から、こっそり準備を進めていたらしい。テーブルには、いつもより少し豪華な朝食が並んでいる。


「今日は誰の誕生日だっけ」


寝ぼけ眼のリリアが、席に着きながら首を傾げた。全員が顔を見合わせる。


「本人が忘れてどうするの」

ミレーユが呆れたように言う。

「リリアの誕生日よ」


リリアは目を丸くした。それから、少し遅れて実感が追いついたように、ぱっと表情を明るくする。


「あ、そうだった!」

「一週間前、覚えてくれてたくせに」

「他の人のは覚えてるの」


理屈になっていないようで、リリアらしい答えだった。


---


まず、セリナが小さな箱を差し出す。


「これを」


開けると、細身の短剣用の鞘だった。丁寧な装飾が施されている。


「今の鞘、傷んできてただろう」

「見てたの?」

「毎日、腰に差してるものだ。嫌でも気付く」


リリアは、早速新しい鞘に短剣を収めてみた。しっくりと収まる感触に、満足そうな声が漏れる。


---


エレノアは、丁寧に包まれた箱を差し出した。


「わたくしからは、これを」


中には、上品な色合いのリボンが数本入っていた。


「あなた、髪をいつも簡単にまとめるだけですもの。たまには、こういう物も」

「似合う?」

「似合いますわ、きっと」


エレノアが優しく微笑む。リリアは早速、そのリボンを一本、髪に結んでみせた。


---


ルシェは、少し照れくさそうに包みを差し出す。


「これ、選ぶの迷ったんですけど」


中身は、小さな貯金箱だった。


「可愛い子を集めるのに、いつもお金を使ってるって聞いたので。少しは貯めた方がいいかと」

「使わないためのお金じゃなくて?」

「使うためのお金です。でも、計画的に」


商人らしい理屈だった。リリアは、よく分からないという顔をしながらも、素直に受け取った。


---


ノアは、小さな包みを差し出した。中には、木の実で作られた小さな首飾りが入っていた。


「森で拾った実を、磨いて繋げた」

「綺麗」

「森を思い出せるように」


短い言葉だったが、その意味はしっかり伝わった。リリアは、早速首にかけてみせた。


---


「ティアからも、これを」


エレノアが最後にもう一つの包みを差し出す。中には、細身の短剣がもう一振り入っていた。以前贈られた物より、さらに軽く仕上げられている。


「前の短剣、成長に合わせて、また作り直したいって言ってたわ」


添えられた手紙には、短く一言だけ。


『次はもっと軽くする。楽しみにしとけ』


「気が早いのね」


リリアは笑いながら、その手紙を大事そうに折りたたんだ。


---


そして最後に、ミレーユが小さな包みを差し出した。


「私からは、これ」


開けると、小さな押し花のしおりが入っていた。リリアがこれまで、みんなに贈ってきたものと、よく似た品だった。


「これ……」

「あなたが、みんなに贈ってたでしょう。だから、今度は私から」


しおりの裏には、丁寧な字で一言添えられていた。


『いつも、ありがとう』


リリアは、しばらくそのしおりを見つめていた。それから、いつもより少しだけ静かな声で言った。


「ありがとう、ミレーユ」

「どういたしまして」


一週間前、渡す側だったリリアが、今日は受け取る側だった。その入れ替わりが、なんだか少しおかしくて、二人は顔を見合わせて笑った。


---


夕方、寮の窓から差し込む光が、少しずつ橙色に変わっていく。二つの誕生日を終えた談話室には、贈り物の包み紙がまだいくつか残っていた。


「二人とも、十三歳ね」


ミレーユが、しみじみと呟く。


「実感ある?」

リリアが聞く。

「あんまり」

「私も」


十三歳になったところで、二人は特に変わらなかった。ミレーユは相変わらずリリアの世話を焼き、リリアは相変わらず、次のご飯のことを考えている。


それでも、テーブルに並んだ贈り物の一つ一つには、この二年間で積み重ねてきた時間が、確かに詰まっていた。


「来年もやりましょう」


ルシェが言う。全員が頷いた。


「来年は十四歳か」

セリナが呟く。

「あっという間ね」

フィアナも笑う。


夕日が窓を橙色に染める中、談話室にはいつもの笑い声が響いていた。仲間が増え、季節が巡り、それぞれが少しずつ大人に近づいていく。それでも、この賑やかな時間だけは、変わらずそこにあり続けていた。

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