第46話 「ルシェのお金講座」
談話室。机の上に大量の紙が並んでいた。リリアたちは集まっている。そして、ルシェがいた。なぜか眼鏡を掛けて。今日は、ルシェの十三歳の誕生日だった。
「今日は大事なお話があります!」
元気だった。
「なに?」
リリアが聞く。
「お金です!」
全員が静かになる。ルシェだけがやる気だった。机を叩く。
「皆さん」
「私たちは冒険者です」
「うん」
「お金が必要です」
「うん」
「なので講座を開きます!」
誰も頼んでいなかった。しかし始まった。
「誕生日にそれをやるの?」
ミレーユが呆れたように聞く。
「誕生日だからこそ、締まった気持ちで臨みたいんです!」
理屈になっているようで、なっていなかった。
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「まず収入!」
紙を広げる。依頼報酬、素材売却、討伐報酬など細かく書かれている。
「次は支出!」
装備代、食費、宿代、修理費、ルシェは熱弁する。
5分後、ミレーユは聞いていた。フィアナも聞いていた。エレノアも。だが10分程経った時、既にリリアは寝ていた。
「寝てる!」
ルシェが叫ぶ。起こす。
「起きてください!」
「大丈夫」
「何がですか!?」
「聞いてる」
絶対聞いていなかった。
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セリナを見る。
「どう?」
「難しい」
正直だった。
ノアを見る。いない。
「ノア?」
談話室を見回す。いない。いつの間にか消えていた。
「逃げた!」
ルシェが叫ぶ。事実だった。
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その時、工房から抜けてきたティアが顔を出す。書類の山を見て、眉をひそめた。
「何の集まりだ、これ」
「お金の講座です!」
「ちょうどいい。結局いくらあるんだ?」
静かになる。ルシェが固まる。数秒。十秒。そして、
「いっぱいあります!」
ざっくりだった。
「今の講座なんだったのよ」
フィアナが突っ込む。当然だった。
ルシェは慌てる。
「ちゃんと管理してるんですよ!?」
「じゃあ答えなさい」
「えっと」
紙をめくる。さらにめくる。もっとめくる。
「あれ?」
嫌な予感がした。全員。
「ルシェ?」
ミレーユが聞く。
「はい」
「分からないの?」
ルシェは笑った。乾いた笑顔だった。
「分からなくなりました」
沈黙、完全な沈黙。
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その時、リリアが立ち上がる。
「大丈夫」
「何がですか!?」
ルシェが言う。
「今まで何とかなった」
「そうですね」
エレノアが頷く。
「何とかなりましたわね」
「本当にね」
フィアナも笑う。ルシェはしばらく固まっていた。そして、少しだけ笑った。
「そうですね」
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そこへ、談話室の扉がそっと開いた。逃げていたはずのノアだった。両手に、何やら包みを抱えている。
「戻ってきた!」
ルシェが叫ぶ。
「逃げたわけじゃない。準備してた」
ノアはそう言って、包みをテーブルに置いた。
「これ?」
「誕生日、忘れてなかった」
中には、丁寧に編まれた小さな革紐のブレスレットが入っていた。森でよく使う結び方で編まれているらしい。
「毎日、帳簿とか計算とか、手を動かしてるだろ。だから、手首に飾れる物」
「わざわざ編んでくれたんですか」
「森にいた頃、よくやってた」
ノアは、いつもより饒舌だった。逃げていたのではなく、この贈り物を仕上げるために席を外していたらしい。ルシェは、そのブレスレットを、大事そうに手首に通した。
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「あと、私も」
リリアが、鞄から小さな包みを取り出す。ルシェが少し身構えた。これまでの流れを見てきた分、身構えるのも無理はなかった。
包みの中身は、小さな貝殻だった。綺麗に磨かれ、内側が虹色に光っている。
「これ?」
「前に依頼で行った海の街で拾った」
「貝殻ですか」
「うん。お金にはならないけど、綺麗だから」
ルシェは苦笑した。お金の講座の締めくくりとしては、いっそ清々しいくらい実用性のない贈り物だった。だが、裏を返せば添えられた紙には、また整った字で一言書かれていた。
『るしぇ、いつもがんばってる』
その一言に、ルシェは少しだけ言葉を詰まらせた。
「もう、お金の講座、何だったんですかね」
「今日はいいでしょ、誕生日だし」
ミレーユが笑いながら言う。それもそうだった。
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結局、お金の話は難しかった。ただ一つだけ、確かなことがある。これからも、ルシェが頑張る。リリアは寝る。たぶん。間違いなく。
それでも今日だけは、机の上に散らばった帳簿の紙の隅に、贈り物の包み紙が重なっていた。ルシェは思った。それも悪くないかもしれない。
「誕生日おめでとう、ルシェ」
全員の声が揃う。ルシェは、少し照れくさそうに、けれど誰よりも嬉しそうに笑った。




