第44話 「ティアの誇り」
休日、帝都の鍛冶工房。かんっ。かんっ。鉄を打つ音が響く。ティアだった。額に汗を浮かべながら、ひたすら槌を振るう。
「凄い」
リリアが言った。五回目だった。
「だから毎回言うな」
ティアが言う。少し照れていた。今日は、ティアが十三歳になる日だった。
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今日はティアの工房見学である。リリア、ミレーユ、セリナ、ルシェ、フィアナ。みんなで来ていた。ノアは静かな場所が好きなので留守番。エレノアは貴族の用事があったが、この日は特別に、少しだけ時間を作って顔を出すことになっていた。
ティアは炉へ鉄を入れる。赤く染まる。取り出す。叩く。また叩く。迷いがない。熟練の職人そのものだった。
「楽しい?」
リリアが聞く。
「楽しいぞ」
即答だった。ティアらしい。
「強い武器作れるし」
「お金にもなるし」
ルシェが言う。
「それもある」
ティアは笑った。
「でも一番は違う」
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静かになる。ティアは完成しかけの短剣を見た。優しい目だった。
「爺ちゃんが言ってた」
珍しく昔話だった。
「鍛冶師は人を守る仕事だって」
みんな聞いている。ティアは続けた。
「冒険者が武器で生き残る」
「兵士が剣で帰ってくる」
「だから一本一本手を抜くなってな」
工房が静かになる。その言葉には重みがあった。ティア自身が、大切にしている言葉だから。
セリナが剣を見る。今持っている剣も、ティアが調整した物だった。
「助かってる」
短い言葉。だが本音だった。ティアは少し嬉しそうだった。
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その時、リリアが手を挙げる。
「質問」
「なんだ?」
「夜型対策の武器作れない?」
静かになる。
「無茶言うな」
即答だった。ミレーユが頷く。当然だった。
「朝六時になると勝手に強くなる武器とか」
「もっと無茶だ」
「残念」
残念ではない。全員思った。
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ティアはため息をつく。そして、工房の隅から何かを持ってきた。一本の短剣だった。
「ほら」
リリアへ渡す。
「新しいやつ」
リリアが目を輝かせる。
「私の?」
「お前のだ」
軽い。持ちやすい。風魔法との相性も良さそうだった。
「すごいっ!」
嬉しそうだった。ティアは腕を組む。
「当然だ」
少しだけ胸を張る。職人の誇りだった。
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「あ、待って」
リリアが思い出したように、鞄をごそごそ探る。
「私も、ティアに」
取り出したのは、小さな布包みだった。開くと、綺麗に磨かれた鉱石が一つ入っていた。青みがかった、珍しい石だった。
「これ?」
「森の実習の時、川で見つけた」
ティアが受け取り、光にかざす。職人の目で、しばらくじっと観察していた。
「これ、魔銀鉱じゃないか」
「そうなの?」
「そこそこ珍しい。武器に混ぜると、切れ味が上がる」
驚いたのはティアの方だった。ただの綺麗な石だと思って拾ってきたリリアと、その価値がすぐ分かるティアとの差が、素直に面白かった。
「加工していいか?」
「うん。ティアの武器に使って」
「分かった。今度、これ使って一本打つ」
短いやり取りだったが、ティアの声には、はっきりとした期待が滲んでいた。ただの飾りではなく、実際に役立つ物を渡された、というのが嬉しいらしかった。
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その時、工房の入口から声が聞こえた。
「間に合いましたわ」
息を整えながら入ってきたのは、エレノアだった。
「エレノア!」
「用事、早めに切り上げてきましたの」
エレノアはティアの前に立つと、小さな包みを差し出した。
「先日のお礼ですわ。誕生日、覚えていてくださって、ありがとうございました」
ティアは少し戸惑った顔をする。
「大した物じゃなかっただろ」
「大した物でしたわ。とても」
そう言いながら、包みを開くよう促す。中には、上質な革でできた道具入れが入っていた。槌や小刀を持ち運ぶための、職人向けの品だった。
「今日、あなたの誕生日だと聞きましたの。だから、これを」
ティアは、その道具入れを手に取り、しばらく見つめていた。
「……ちょうど、古いのがぼろくなってきてたところだ」
「良かったですわ」
エレノアが微笑む。
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「そういえば」
ミレーユが思い出したように言う。
「誕生日、今日だったのね」
「言ってなかったからな」
ティアがぶっきらぼうに答える。
「言ってくれれば良かったのに」
フィアナが呆れたように言う。
「わざわざ言うことでもないだろ」
そう言いながらも、まんざらでもなさそうな顔をしていた。
「じゃあ、遅ればせながら」
ルシェが、鞄から小さな包みを取り出した。
「工房の皆さんと相談して、これを」
開けると、丈夫そうな作業用の手拭いと、香りの良い石鹸が入っていた。
「鍛冶場だと、汗をかくって聞いたので」
「気が利くな」
ティアは、素直に受け取った。
セリナも、無言で小さな砥石を差し出す。
「上質な砥石だ。長く使えるだろう」
「助かる」
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かん。工房に再び音が響く。熱い。うるさい。でも、どこか心地よい音だった。
リリアは新しい短剣を眺める。そして、
「ティア」
「ん?」
「格好いい」
ティアは少しだけ顔を赤くした。
「知ってる」
強がりだった。みんな笑う。
「誕生日おめでとう、ティア」
エレノアが改めて言う。他のみんなも続いた。ティアは、道具入れをそっと胸に抱えたまま、少しだけ照れくさそうに頷いた。
「ありがとよ」
短い一言だったが、いつもより柔らかい声だった。工房には、いつまでも賑やかな声が響いていた。




