第41話 「それぞれの夢」
季節はもう二度巡っていた。あの遺跡での事件から、そして夜型の一件から、随分と時間が経っている。リリアたちも、少しずつ大人びてきていた。もっとも、中身はあまり変わっていなかったが。
女子寮の談話室。珍しく静かだった。
依頼もない。授業も終わった。夜型の実験もない。研究者も来ない。平和だった。
「暇ね」
ミレーユが言う。
「暇だな」
セリナも頷く。
「暇ですわね」
エレノアも紅茶を飲みながら言った。本当に暇だった。
「暇」
リリアも言う。
全員が見る。
「依頼でも行く?」
フィアナが聞く。
「面倒」
「暇なんでしょ?」
「うん」
意味が分からなかった。
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その時、ベッドに寝転がっていたルナが言う。
「じゃあ夢の話しよう」
「夢?」
ルシェが首を傾げた。
「うん」
ルナは天井を見たまま続ける。
「みんな将来やりたいことあるでしょ?」
静かになる。改めて聞かれると少し恥ずかしい。
「あ、ティアは今日も工房ですわね」
エレノアが辺りを見回して言う。
「呼んでおけばよかったです」
ルシェが少し残念そうに言った。
「じゃあティアの分は今度、直接聞きに行きましょう」
ミレーユがそう言うと、全員が頷いた。
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最初に答えたのはセリナだった。
「私は強くなる」
即答だった。
「どのくらい?」
リリアが聞く。
「誰にも負けないくらい」
迷いはなかった。セリナらしかった。フィアナが笑う。
「本当に剣しかないのね」
「悪いか?」
「いいと思う」
少しだけ、嬉しそうだった。
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次はエレノア。
「私は領地を発展させたいですわ」
優雅に答える。
「お嬢様っぽい」
ルシェが言う。
「お嬢様ですもの」
正論だった。誰も反論できない。
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次はフィアナ。少し考える。珍しかった。
「私は」
静かになる。
「帝国と同盟国が仲良くなってほしいかな」
真面目な夢だった。フィアナらしかった。
「難しそう」
リリアが言う。
「そうね」
フィアナも苦笑する。でも、諦める気はないらしい。
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次はルシェだった。
「私は大商人になります!」
立ち上がる。元気いっぱいだった。
「いっぱい稼ぎます!」
「おお」
リリアが感心する。
「いっぱいご飯食べられる?」
「食べられます!」
「いいね!」
話が噛み合っているようで、噛み合っていなかった。
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その次、全員の視線がノアへ向く。ノアは少し考えた。かなり長い沈黙だった。
そして、「居場所」小さく答える。静かになる。
「自分の居場所が欲しい」
短い言葉だった。だが、とても重かった。ノアらしい願いだった。
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その時、リリアが首を傾げる。
「あるよ?」
ノアが見る。みんなも見る。リリアは当然のように言った。
「ここ」
談話室を指差す。そして、
「みんな」
静かになる。ノアも固まる。ミレーユも。フィアナも。少しだけ驚いていた。リリアは本気だった。冗談ではない。
「だから大丈夫」
笑う。いつもの笑顔だった。しばらくして、ノアが小さく笑った。本当に小さく。珍しかった。
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その空気を変えたのは、当然、リリアだった。
「次!」
元気だった。
「リリアは?」
ミレーユが聞く。
全員が見る。答えは知っている。ほぼ確実に。
リリアは立ち上がった。胸を張る。
「可愛い子十人!」
知っていた。全員。
「まだ言うのね」
フィアナが呆れる。
「大事」
即答だった。
「今何人?」
セリナが聞く。
リリアは数え始める。ミレーユ、セリナ、エレノア、ティア、フィアナ、ルシェ、ノア。そして、自分。指を折る。
「八人」
合っていた。珍しく。
「あと二人!」
元気だった。
ミレーユがため息をつく。
「ちゃんと数えられたのね」
「失礼」
リリアは不満そうだった。
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その時、ルナが笑う。
「あはは」
静かな笑いだった。
「叶うといいね」
珍しく神様らしい言葉だった。
「叶うよ」
リリアが答える。即答だった。迷いはない。その真っ直ぐさに、誰も何も言えなかった。
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夕日が窓から差し込む。帝都の空は赤かった。平和な時間だった。だが、世界は少しずつ動いている。封印。同盟国。そして、まだ出会っていない二人の仲間。未来にはきっと色々なことが待っている。
それでも、今はまだ夢を語る時間だった。
「あと二人!」
リリアがもう一度言う。
「だから先に依頼を頑張りなさい」
ミレーユが言った。
「両方頑張る」
欲張りだった。
そういえば、とミレーユが思い出したように言う。
「もうすぐ、セリナの誕生日じゃなかった?」
「ああ、そうだな」
セリナが頷く。
「今年で十三か」
「私も、もうすぐです」
エレノアも小さく手を挙げた。
「今年は何かやりますの?」
「やりましょうよ!」
ルシェが目を輝かせる。
「ティアの誕生日も、確かこの後だったはずです」
思いがけず、誕生日の話題で盛り上がり始める。こうして、それぞれの夢を胸に、十人への道は、少しずつ前へ進んでいくのだった。そして、これから続く小さなお祝いの日々も、また一つずつ、始まろうとしていた。




