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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

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第38話 「夜型になりました」

翌朝、帝都冒険者育成学校、会議室。空気は重かった。理由は神器である。そしてリリアである。


会議室にはリリアたちが集められていた。ミレーユ、セリナ、エレノア、フィアナ、ルシェ、ノア、ティア、そしてルナ。さらに研究者たち。軍の隊長。エリス教官。全員である。


「本日が選択期限です」


研究者が言った。静かになる。とうとう来た。例の選択である。


【昼型】

【夜型】

【何もしない】


リリアだけが選べる。しかし、効果は全員に及ぶ。理不尽な話だった。


ティアは腕を組みながら、隅の椅子に座っていた。


「まだ二日目なのに、俺までこんなことに巻き込まれるとはな」

「今さらよ」


ミレーユが力なく答える。


---


「最終確認を行います」


研究者が資料を広げる。


「昼型」


光る文字が浮かぶ。


「午前6時から午後5時59分59秒まで能力二倍」

「強いな」


セリナが言う。研究者も頷く。


「ですが午後6時になるとレベル1まで低下します」

「弱いな」


即座に評価が変わった。


「10分間固定」


さらに評価が下がる。


「元のレベルへ戻るまで5時間50分」


完全に下がった。誰も欲しくなかった。


---


「夜型も同様です」


今度は夜型。


「午後6時から能力二倍」

「強そう」


リリアが言う。


「翌朝6時にレベル1」

「駄目ね」


フィアナが言った。


「10分間固定」

「駄目ですわね」


エレノアも言う。


「五日間に一回のみ使用可能」

「使いづらい」


ルシェが呟いた。正論だった。


「鍛冶にゃ関係なさそうだが、それでも遠慮したい話だな」


ティアも小さく首を振った。


---


研究者は最後に告げる。


「何もしないを選んだ場合は何も起きません」


全員の目が輝いた。希望だった。


「それにしよう」

セリナ。

「それが良いと思います」

ルシェ。

「同意」

ノア。

「私もね」

フィアナ。

「一択ですわ」

エレノア。

「異論なしだ」

ティア。


全員一致だった。リリア以外。


「うーん」


嫌な声がした。ミレーユが顔を上げる。


「何?」

「夜型楽しそう」


全員が頭を抱えた。やっぱりだった。


「何が楽しいのよ」

ミレーユが聞く。


リリアは少し考える。


「みんなが強くなるの、嫌なの?」

「そうじゃなくて」

「私、まだ他のみんなより弱いところあるし」


意外な言葉だった。ミレーユが少し驚いて顔を上げる。


「短剣は速いけど、力はセリナに勝てないし、魔法もエレノアやフィアナの方が上手い。ちょっとでも強くなれるなら、って思っただけ」


珍しく、筋の通った理由だった。だが、続く一言で、その印象はすぐに崩れる。


「あと、かっこいい」

「結局それも入るの!?」


フィアナが叫んだ。


---


その頃には、研究者たちも諦め始めていた。隊長は窓の外を見ている。おそらく、現実逃避だった。


---


そして正午、鐘が鳴る。その瞬間だった。空中に光が現れる。神器である。全員立ち上がる。


【選択を開始します】


文字が浮かぶ。


【選択者 リリア】


全員がリリアを見る。重たい視線だった。


「緊張するね」

リリアが言った。

「してるの私たちよ」


ミレーユが返す。正論だった。


---


そして、三つの選択肢が現れる。


【昼型】

【夜型】

【何もしない】


静かになる。リリアは見つめていた。珍しく真面目だった。十秒、二十秒、三十秒。誰も喋らない。


ルシェは祈る。フィアナも祈る。セリナも祈る。エレノアも祈る。ノアまで祈っているように見えた。ティアも、腕を組んだまま目を閉じていた。目標は一つ。何もしない。それだけ。


リリアの指先が、【何もしない】の方へ、ゆっくりと近づいていく。全員の心臓が、同じ速さで高鳴った。


---


その時だった。会議室の隅、休憩用に置かれていた焼き菓子の皿に、ルナの目が留まった。


「あ、お菓子」


誰も見ていない隙に、と思ったのだろう。ルナは気配を消すように、テーブルの端へ体を伸ばした。だが、菓子の皿は思ったより遠かった。


「んーっと……」


爪先立ちになり、身を乗り出す。あと少し。あと、ほんの少し。


「わっ」


バランスを崩した。何もない場所のはずが、伸ばした腕の勢いに体が負けたらしい。


「危な——」


セリナが手を伸ばすより早く、ルナの体がリリアの背中にぶつかった。


「ひゃっ!?」


体勢を崩したリリアの手が、大きく前へ流れる。目の前で光っていた文字は三つ。狙いなど、あるはずもなかった。


指先が触れたのは、【夜型】だった。


沈黙。完全な沈黙。風の音しかしない。


「待って」

ミレーユが言った。

「待ちなさい」

フィアナが言った。

「やり直しは?」

ルシェが聞いた。


【選択を確認】


神器が答えた。誰も聞いていないのに。


【夜型を付与します】


「ちょっと待って、今のノーカンでしょ!?」


ミレーユが叫ぶ。だが、光はもう溢れ出していた。リリアを包む。そして、ミレーユ、セリナ、エレノア、フィアナ、ルシェ、ノア、ティア、全員へ広がった。


研究者たちが騒ぐ。


「共有確認!」

「成功した!」

「記録通りです!」


研究者だけ嬉しそうだった。当人たちは違う。


全員の視線が、ゆっくりとルナへ向いた。ルナは、皿から取りこぼした焼き菓子を握りしめたまま、気まずそうに視線を逸らしている。


「お菓子、取ろうとしただけだよ? たぶん」

「たぶんって何! しかもお菓子て!」


フィアナの絶叫が会議室に響いた。


「理由が軽すぎますわ……!」


エレノアも珍しく声を荒らげていた。


---


光が消える。ステータスを確認する。そこには、


【ユニークスキル:夜型】


しっかり書かれていた。


「終わりましたね」

エレノアが言う。

「終わったわね」

フィアナも言う。

「終わった……」

ルシェが呟く。


ノアは無言で頷いた。セリナは天を見上げていた。ミレーユは机に突っ伏した。ティアは、まだ状況が飲み込めていない顔をしていた。


「俺、2日前に来たばかりだよな……?」


誰も答えなかった。答えられなかった。被害者の会、結成から一日。完全敗北だった。原因は神器でも、リリアの選択ですらなく、神様の食い意地だった。


そんな中、リリアだけが、少し複雑そうな顔をしていた。


「何もしない、選ぶつもりだったんだけどな」

「今更!」


全員の声が揃った。だが、次の瞬間には、もう笑顔に戻っていた。


「まあ、いっか。早く使ってみたい!」


切り替えの早さだけは、誰よりも一貫していた。ルナは、口の中の焼き菓子をもぐもぐさせながら、大笑いしている。


「あははは!」


神様も、どこか満足そうだった。


---


こうして、神器がもたらしたユニークスキル、夜型。それはリリアたち全員の運命に刻み込まれた。


そして数日後、彼女たちは知ることになる。この能力は、確かに強い。だが、想像以上に、扱いが面倒だということを。

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