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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

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第37話 「被害者の会」

その日の朝、帝都冒険者育成学校の校門前は、いつもと違う賑わいを見せていた。


「着いた……!」


大きな荷馬車から降りてきたのは、赤毛の少女だった。背後には、ハンマーや道具箱を積んだ荷車、そしてドワーフの師匠の姿もある。


「ティア!」


真っ先に駆け寄ったのは、当然リリアだった。


「久しぶり!」

「久しぶりって、そんなに経ってないだろ」


ぶっきらぼうな返事だったが、口元は緩んでいた。ドワーフの師匠も、周囲を見回しながら満足げに頷いている。


「良い街だ。腕が鳴るな」

「じいちゃんも元気そうで良かった」


ティアが少し照れ臭そうに言う横で、ルシェが荷物運びを手伝いながら声を弾ませていた。


「本当に来てくれたんですね!」

「約束、というか、勝手に決まった話だけどな」


工房での正式な招聘、という経緯を思い出しながら、ティアは苦笑した。


「俺は今日から工房の住み込みだ。師匠と一緒に、工房の裏にある宿舎に泊まる」

「じゃあ、ここには住まないの?」

リリアが少し残念そうに聞く。

「学校の生徒でも商人科でもないからな。工房が俺の職場だ」


そう言いながらも、ティアは荷物の中から一枚の紙を取り出した。


「ただ、通いの許可はもらってる。ここの敷地内、出入り自由だ。学生じゃない人間にしては、特別扱いらしいぞ」

「じゃあ、毎日会える?」

「毎日は無理だが、まあ、近いうちには」


満更でもなさそうな口ぶりだった。


---


そこへ、フィアナとノアが顔を覗かせる。


「その子が、噂の鍛冶師?」

「うん!」


リリアが即答する。ティアは初対面の二人を見て、少し身構えた。


「よろしく。ティアだ」

「フィアナ」

「ノア」


短い自己紹介だったが、それだけで場に馴染むのが早いのは、リリアの周りにいる者たちの共通点なのかもしれなかった。


「なんか、すごい面子が増えてるな」


ティアが辺りを見回して呟く。ミレーユが苦笑しながら答えた。


「まだ増えるかもしれないわよ」

「は?」

「実は、ちょっとややこしい話があって」


その一言に、ティアは嫌な予感を覚えたようだった。当たっていた。


---


翌日、帝都冒険者育成学校、会議室。空気は重かった。理由は単純だった。昨日判明したからだ。神器の機能が。


【昼型】

【夜型】

【何もしない】


この三つが。そして、選ぶのはリリア一人。効果を受けるのは全員。理不尽な話だった。


ティアも、事情を聞かされて会議室の隅に座っていた。工房が休みというわけではなかったが、この話には強制的に参加させられた形だった。


「なんで俺までここに?」

「一応、確認しておきたくて」


ミレーユが言う。


「効果は仲間全員に共有される、という話なんです。あなたは、昨日この街に来たばかりですけど……住む場所は工房でも、選択の結果からは逃げられないかもしれません」

「まさか、俺も巻き込まれるのか?」


研究者が困った顔で資料をめくる。


「正直、判定基準が明確ではありません。ですが、リリアさんが心の中で『仲間』だと認識していれば、住んでいる場所や所属に関係なく、対象になる可能性はあります」


全員の視線が、自然とリリアへ向かった。


「ティアは仲間?」

ミレーユが聞く。

「うん」


即答だった。ティアが天を仰いだ。


「今、来たばかりで、しかも寮にすら住んでないのに!?」

「仲間は仲間」


理屈になっていなかった。だが、リリアには十分な理由らしかった。ティアは深いため息をついた。


「聞いてないぞ、こんな話……」


こうして、女子寮の住人でもなければ、この学校の生徒でもないティアも、否応なく巻き込まれることが確定した。


---


「というわけで」

ミレーユが机を叩く。

「何もしないを選びましょう」


即断だった。


「賛成」

セリナ。

「賛成ですわ」

エレノア。

「賛成」

ノア。

「私も賛成」

フィアナ。

「全力で賛成です!」

ルシェ。

「俺もいきなり賛成だ」

ティア。


満場一致だった。リリア以外。


「えー」


不満そうだった。


「なんで?」


全員が固まる。


「なんでって……」


ミレーユが額を押さえた。説明が必要だった。本当に。


---


研究者が前に出る。


「昼型の場合」


資料を広げる。


「朝六時から夕方六時まで能力二倍」


少しざわつく。強い効果だった。だが、


「午後六時になるとレベル1」


静かになる。


「10分間固定」


さらに静かになる。


「元に戻るまで5時間50分」


誰も昼型を選びたくなかった。


「夜型も同じです」

研究者が続ける。

「18時から能力二倍」

「強いな」


セリナが呟く。


「翌6時でレベル1」

「弱いな」


即座に訂正された。研究者が頷く。


「しかも5日に一回」


全員が再び沈黙する。制限まで重かった。


---


ルシェが震えている。


「これ私たちに必要ですか……?」


正論だった。研究者も答えられない。


その時、「必要!」リリアが手を挙げた。嫌な予感を、全員が同時に覚えた。


「何で?」

フィアナが聞く。


リリアは胸を張る。


「かっこいい」


頭を抱える音が聞こえた。数人分。


「理由がそれ!?」

ミレーユが叫ぶ。


リリアは頷く。


「能力二倍だよ?」

「代償も読んだ!?」

「読んだ!」

「理解した!?」

「たぶん!」


していなかった。


---


ルナが笑い始める。


「あははは!」


神様は非常に楽しそうだった。


「面白い!」

「他人事だからよ!」


フィアナが叫んだ。珍しく大声だった。ルナはにやにやしている。完全に面白がっていた。神様だった。そして困ったことに、悪気はない。もっと困る。


---


研究者が咳払いする。


「まだ決定ではありません」


少し安心する。みんな。


「三日以内に選択してください」


そして希望は消えた。三日。短かった。


---


会議が終わる。リリアたちは食堂へ向かった。いつも通り。らしい。


「何もしない」

ミレーユが言う。

「夜型」

リリアが答える。

「何もしない」

「夜型」

「何もしない」

「夜型」


平行線だった。


エレノアが苦笑する。


「まるで子供ですわね」

「十一歳だし」


フィアナが言った。その通りだった。


---


食後、訓練場。セリナが剣を振っている。リリアが近付く。


「夜型どう思う?」

「選ぶな」


即答だった。


「なんで?」

「朝6時にレベル1になるんだぞ」

「面白そう」

「面白くない」


こちらも平行線だった。


---


夕方、今度はノアが捕まった。


「ノア」

「……なに」

「夜型」

「選ぶな」


早い即答だった。


「即答」

「即答」


会話終了。短かった。


---


夜、女子寮、リリアの部屋。全員集まっていた。緊急会議だった。ティアは工房の宿舎からわざわざ抜け出してきたらしく、少し息を切らせていた。


「なんで俺まで呼ばれるんだ」

「巻き込まれる仲間だから」

「今日知り合ったばかりだぞ」


文句を言いながらも、しっかり部屋の隅に腰を下ろしていた。


ミレーユが立ち上がる。


「被害者の会を結成します」


静かになる。


「被害者?」

リリアが聞く。

「私たち」


即答だった。セリナも頷く。フィアナも頷く。ルシェも頷く。エレノアも。ノアも。そしてティアまで、力強く頷いていた。


「まだ被害受けてないよ?」


リリアは不思議そうだった。ミレーユが言う。


「今から受けるの!」


叫びたくもなる。当然だった。


---


ルナがベッドの上で転がっている。


「被害者の会」


面白かったらしい。


「いい名前」

「元凶が言わないでください」


ルシェが言った。ルナは笑う。


「じゃあ応援する!」


誰も頼んでいなかった。


---


そして翌朝、ついに、神器から声が響く。


【選択期限まで残り二日】


全員が固まる。リリアだけが、


「おおー」


楽しそうだった。ミレーユは思った。絶対に夜型を選ぶ。間違いない。


こうして、被害者の会の戦いが始まった。敵は魔王でも魔物でもない。リリアである。とても厄介だった。

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