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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第4章 神のイタズラ編

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第36話 「神様の祝福」

翌日、帝都冒険者育成学校、訓練場。朝から人が多かった。


「増えてる」


リリアが言う。実際増えていた。軍人。研究者。教師。なぜか他の生徒。さらには貴族らしき人までいる。昨日、神様が言ったのだ。


『祝福あげる!』


怖いもの見たさで集まってきたらしい。誰も彼も。


「帰りたい」

ルシェが呟く。

「分かる」


フィアナも頷いた。その隣で、ルナは上機嫌だった。


「楽しみだね!」


楽しみだと思っている者は、この場に一人もいなかった。


---


訓練場中央。エリス教官が疲れた顔で立っていた。


「まず確認するわ」


全員が静かになる。


「何か起きても慌てないこと」


研究者が手を挙げる。


「どの程度までですか?」

「私も分からないわ」


それが一番不安だった。


エリス教官は、それからルナの方へ向き直る。表情を少し改め、丁寧な口調になった。


「ルナ様。恐れ入りますが、祝福の内容について、あらかじめ伺ってもよろしいでしょうか」


生徒たちが一斉に振り返る。エリス教官の、こんな話し方は初めて聞いた。


「ルナ様?」

ミレーユが小声で呟く。


ルナは、その丁寧な言い方に、少しきょとんとした顔をした。


「何それ、変な感じ」

「し、しかし、神と名乗られる方に対して、これまでの口調は失礼にあたるかと」

「別にいいよ、そんなの」


ルナはひらひらと手を振った。


「敬語とか、そういうの、いらない。みんなと同じでいい」

「よろしいのですか」

「うん。かたっ苦しいの、性に合わない」


エリス教官はしばらく黙っていたが、やがて、いつもの調子に戻して咳払いをした。


「……分かったわ。じゃあ、内容は?」

「祝福」

「だから内容よ!」


一瞬で元の空気に戻った。生徒たちの間に、どこか安堵したような笑いが漏れる。


ルナは真剣に考える。十秒ほど。


「忘れた」


全員固まった。


「忘れた?」

ミレーユが聞く。

「うん」

「昨日準備してたんじゃないの?」

フィアナが聞く。

「してたよ」

「じゃあ?」

「途中で忘れた」


神様だった。本当に。


---


隊長が遠い目になる。研究者が頭を抱える。ルシェは泣きそうだった。


「帰りたい」


二回目だった。しかしルナは気にしない。


「大丈夫大丈夫」


誰一人、信用していなかった。


---


ルナは両手を広げる。光が集まる。空気が震える。研究者たちがざわつく。


「高密度神性反応!」

「観測成功!」

「記録しろ!」


楽しそうにしているのは、研究者たちだけだった。


光が大きくなる。そして、ぱんっ。何かが弾けた。静かになる。


「終わり?」

リリアが聞く。

「終わり!」


ルナが答えた。あまりにあっけない終わり方だった。


---


全員が自分の体を見る。特に変化はない。


「何も起きてなくない?」

セリナが聞く。


ルナが首を傾げる。


「そんなはずないけど」


嫌な返事だった。


---


その瞬間、研究者の一人が叫んだ。


「反応が出ました!」


全員が振り向く。水晶板のようなものが光っていた。研究者たちが集まる。解析。測定。計算。三十秒後、全員が固まった。


「どうしたんですか?」

エレノアが聞く。


研究者は震える指で資料を見る。そして、


「神器です」


空気が変わる。ルナも見る。珍しく真面目な顔だった。


---


研究者は説明を始める。


「遺跡の神器について解析結果が出ました」


地図が広げられる。古代文字も並ぶ。誰も読めない。リリア以外。いや、リリアも読めなかった。


「これはユニークスキル付与神器です」


静かになる。


「ユニークスキル?」

ミレーユが聞く。

「極めて特殊な能力です」


研究者は頷いた。


「ただし問題があります」


問題以外は何もなさそうな空気だった。


「神器は既に起動済み」

「うん」


リリアが頷く。


「原因はあなたです」

「うん」


否定できなかった。


---


研究者は続ける。


「本来なら神器は起動後、適格者に選択を与えます」


「適格者?」

フィアナが聞く。


研究者がリリアを指差した。


「この方です」


全員が見た。リリアを見る。リリアはパンを食べていた。いつ持ってきたのか。誰も知らない。


「なんで私?」

「分かりません」


研究者も知らなかった。


「じゃあ神様は?」

ミレーユが聞く。


全員がルナを見る。ルナは笑顔だった。


「知らない!」


神様も知らなかった。悪い意味での安定感があった。


---


研究者は咳払いする。


「重要なのはここからです」


全員真面目になる。


「選択権を持つのはリリアさん一人」


リリアが首を傾げる。


「へぇ」

「そして」


研究者が深呼吸する。


「選ばれた結果は周囲へ共有されます」


沈黙。風が吹く。鳥が鳴く。誰も喋らない。


---


最初に動いたのはルシェだった。


「共有?」


研究者が頷く。


「仲間全員です」


再び沈黙。今度は全員がリリアを見る。強い視線だった。


「え?」


本人だけ分かっていない。


---


セリナが説明する。


「つまり」

「うん」

「あなたが選ぶ」

「うん」

「私たちも巻き添え」


静かになる。


「おお」


全然分かっていなかった。


ミレーユは頭を抱えた。エレノアも頭を抱えた。フィアナも。ルシェも。ノアまで小さく俯いた。何か良くない予感が、全員の間に静かに広がっていた。


ルナだけが笑う。


「面白そう!」


その一言だけで、全員の不安が確信に変わった。


---


研究者が最後の資料を取り出す。


「選択肢は三つです」


全員が見る。そこには、


【昼型】

【夜型】

【何もしない】


三つの文字が浮かび上がっていた。


その内容を聞いた全員が、まだこの時は、これがどれほど厄介な選択になるのか、想像すらできていなかった。

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