第33話 「名前のない神様」
「というわけで」
銀髪の少女が言った。
「自己紹介をしよう」
誰も頼んでいなかった。だが始まった。神様らしかった。自由である。
遺跡の大広間。研究者たちは固まったままだ。軍人たちも固まっている。時間が止まったような状態らしい。その中で動けるのは、リリアたち七人と、神様を名乗る少女だけだった。
「まず君たちの名前」
少女が言う。
「教えて」
数秒前に聞いた。もう忘れたらしい。
「リリア」
「ミレーユ」
「セリナ」
「エレノア」
「フィアナ」
「ノア」
「ルシェです」
順番に名乗る。少女は満足そうに頷いた。
「覚えた」
全員少し不安になった。本当に覚えたのだろうか。
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すると、少女が胸を張る。
「次は私」
ようやくだった。全員知りたかった。神様を名乗る少女の名前を。
「私の名前は」
少し間を置く。無駄に格好良く。そして、
「忘れた」
静かになる。誰も喋らない。喋れなかった。
「え?」
リリアが聞く。
「忘れた」
二回目だった。聞き間違いではなかった。
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フィアナが頭を抱える。
「神様なのよね?」
「うん」
「名前忘れるの?」
「結構寝てたから」
理由になっていなかった。少なくとも千年単位の話らしい。神様の感覚はよく分からない。
ルシェが震えていた。
「神様ってもっとこう」
「こう?」
「しっかりしてると思ってました」
少女は少し考える。それから笑った。
「期待しすぎだよ」
期待には、まるで応えてもらえそうになかった。
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その時、ミレーユが気付く。
「待って」
「なに?」
「本当に神様なの?」
非常に重要な質問だった。今さらだったが。
少女は頷く。
「本当だよ」
「証拠は?」
「もう見せたと思うけど」
言われて、全員がセリナの頭を見る。黄色い花は、まだそこに咲いたままだった。
「これ、まだ取れないんだが」
セリナが不満げに言う。
「あ、忘れてた」
軽く言いながら、指を鳴らす。花はふっと消えた。セリナは少し安堵の息をついた。
「これで信じた?」
神様が聞く。誰も反論できなかった。少なくとも普通ではない。
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そして、神様は満足そうだった。
「よし」
「何がよしなの?」
フィアナが聞く。
「仲良くなれそう」
即答だった。フィアナが嫌な予感を覚える。全員だった。神様という存在に。仲良くなれそう。その言葉は不安しかない。
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その時、リリアが聞いた。
「本当に名前ないの?」
神様は少し考える。そして、
「今はない」
「じゃあ付ける?」
静かになる。神様が固まる。
「付ける?」
「うん」
当然のように言った。まるで犬や猫みたいだった。神様である。一応。
だが、神様の目が輝き始める。
「いいかも」
すっかり乗り気だった。
「待ちなさい」
エレノアが言う。
「そんな簡単に決めますの?」
「駄目?」
神様が聞く。
「駄目かどうかと言われると……」
エレノアも困った。前例がない。神様に名前を付けた記録など聞いたことがない。
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リリアは真剣だった。珍しく、そして本気の顔だった。
「可愛い名前」
神様が嬉しそうになる。
「いいね」
そこは気にするらしい。全員で考える。数分、真剣な沈黙が続いた。ノアも腕を組んで考え込んでいた。
そして、ルシェが言った。
「ルナとかどうですか?」
静かになる。神様が考える。
「ルナ」
もう一度言う。小さく。
「ルナ」
それから満面の笑みになった。
「気に入った!」
決定だった。早かった。
「今日から私はルナ!」
神様改めルナが宣言する。どこか誇らしげだった。自分の名前なのに。今日初めて付いた。不思議な話だった。
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リリアが笑う。
「ルナ」
「なに?」
「友達?」
全員が止まる。聞いた。ついに聞いた。神様相手に。いつものだった。
ルナは一瞬だけ驚く。そして、声を上げて笑った。楽しそうに。本当に楽しそうに。
「友達!」
即答だった。リリアも笑う。
「やった」
可愛い子リストには、まだ加えていない。神様を勝手にリストへ入れるのは、さすがに躊躇われた。だが、友達であることは、もう疑いようがなかった。歴史的瞬間だった。誰も記録しないけれど。
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その時、ごごごごごっ。大広間が揺れた。全員の顔色が変わる。忘れていた。重要なことを。封印だ。ルナが壊した。正確には失敗した。本人談である。
「ルナ」
ミレーユが聞く。
「なに?」
「封印って何を封印してたの?」
笑顔が消える。初めてだった。ルナの表情が真面目になる。今までで一番。静寂。
そして、ルナはゆっくり答えた。
「私も知らない」
全員が崩れ落ちた。
「知らないの!?」
ルシェが叫ぶ。
「覚えてない」
神様だった。やはり駄目だった。
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だが、次の言葉で空気が変わる。ルナは天井の向こうを見上げる。遥か遠くを。まるで何かを感じ取るように。
そして、小さく呟いた。
「でもね」
全員が息を呑む。
「たぶん」
ルナの金色の瞳が細くなる。
「とても面倒なものが起きた」
その言葉と同時に、遺跡の最深部。誰も知らないさらに地下で、何かが、静かに目を開いた。
本当の意味で、ここから始まる。




