第32話 「自称 神様」
眩しかった。ただ、白い光だけが広がっていた。
「うぅ……」
最初に声を出したのはルシェだった。次にミレーユ。フィアナ。エレノア。セリナ。ノア。順番に目を覚ます。リリアもゆっくり起き上がった。
「終わった?」
「何も終わってないと思う」
ミレーユが言う。全員同意だった。
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辺りを見回す。遺跡。広間。銀色の小箱。そのままだった。だが、何かがおかしい。
「静かだな」
セリナが言った。
確かにそうだった。研究者たちが騒いでいない。軍人も動いていない。全員固まっている。まるで時間が止まったみたいだった。
「え?」
ルシェが近付く。研究者の前で手を振る。反応なし。完全に止まっていた。
「怖いです!」
心の底からの声だった。ノアも警戒するように、周囲の気配を探っていた。
「動いてるのは、私たちだけ」
「みたいだね」
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その時、ぱちぱち。小さな拍手が聞こえた。全員が振り返る。そこに、少女がいた。知らない少女だった。銀色の髪。金色の瞳。年齢はリリアたちと同じくらい。真っ白な服。裸足。そして、圧倒的な存在感。誰も言葉が出ない。少女だけが楽しそうに笑っていた。
「はじめまして」
少女が言う。綺麗な声だった。
「そして久しぶり」
意味が分からなかった。
「誰?」
リリアが聞く。
少女は少し考える。そして答えた。
「神様」
静かになる。
「神様?」
「うん」
「本物?」
「たぶん」
その返事でいいのだろうか。本人が言うな。
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フィアナが額を押さえる。エレノアも混乱している。ミレーユは完全に固まっていた。ルシェは現実逃避を始めていた。セリナとノアだけが、まだ冷静に距離を保っていた。
「証明できるか?」
セリナが言う。少女が笑う。
「できるよ」
ぱちん。指を鳴らす。次の瞬間、セリナの頭に花が咲いた。
「……」
「……」
「……」
本当に咲いた。綺麗な黄色い花だった。
「取れない」
セリナが言った。
取れなかった。根付いていた。なぜか。
リリアは大喜びだった。
「可愛い」
「嬉しくない」
即答だった。少女は楽しそうに笑う。
「信じた?」
全員少し信じてしまった。嫌でも。常識が通じなかった。
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少女は広間を歩く。くるりと回る。機嫌が良さそうだった。
「退屈だったんだよね」
独り言のような声。
「ずっと寝てたから」
何年だろう。何十年だろう。誰にも分からない。
「君が起こしてくれた」
少女がリリアを見る。金色の瞳が細くなる。
「ありがとう」
リリアは少し照れた。
「どういたしまして?」
疑問形だった。
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その後、少女はみんなの周りを歩く。ミレーユを見る。
「真面目」
ミレーユが固まる。フィアナを見る。
「負けず嫌い」
フィアナも固まる。エレノアを見る。
「努力家」
エレノアが少し驚く。ルシェを見る。
「働き者」
ルシェが照れる。セリナを見る。
「かっこいい」
セリナの頭の花が少し揺れた。ノアの前で足を止める。じっと見つめる。
「弓、うまいね」
短い一言だった。だが、ノアは驚いたように目を見開いた。
「見てたの?」
「見てたよ、ずっと」
その言葉の重みに、ノアは少し言葉を失った。祖父以外に、こんな風に技量を見られていたとは思っていなかった。
最後に、リリアを見る。しばらく見る。長かった。
「変」
「よく言われる」
即答だった。少女が吹き出す。楽しそうだった。本当に。
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その時だった。広間が揺れる。一度。二度。三度。地震ではない。何か違う。
少女が首を傾げた。
「あ」
嫌な予感がした。全員が同じことを思った。
「あ、じゃない」
ミレーユが言う。
少女は笑顔だった。そして言った。
「ちょっと失敗した」
静かになる。非常に嫌な言葉だった。
「何を?」
セリナが聞く。
「封印」
少女が答える。軽かった。とても軽かった。言い方が。
「封印?」
「うん」
「この遺跡の?」
「そう」
さらに笑顔になる。
「たぶん半分くらい壊れた」
ルシェが座り込んだ。
「終わったぁ……」
気持ちは分かる。かなり。少女は全く気にしていなかった。むしろ、楽しそうだった。
「大丈夫大丈夫」
「大丈夫じゃなさそうなんだけど」
フィアナが言う。正論だった。
少女は少し考える。それから、満面の笑みで言った。
「まあ何とかなるよ!」
信用できなかった。誰一人。
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しかし、その時すでに、遺跡の遥か地下では、長い眠りについていた何かが静かに目覚め始めていた。神様の言う「失敗」が、帝国中を巻き込む大事件の始まりになるとは、この時はまだ、誰も知らなかった。
そして、神を名乗る少女と、リリアの奇妙な縁が、ここから本格的に始まろうとしていた。
少女は笑う。とても無邪気に。そして一言。
「そうだ」
全員が嫌な予感を覚える。
「君たちの名前、もう一回教えて?」
どうやら、神様は、かなり自由な性格らしかった。




