第31話 「神のイタズラと神器」
前回までのあらすじ
帝都へやって来たリリアたちは、新しい学校生活を送りながら少しずつ実力を伸ばしていた。同盟国からの留学生フィアナと出会い、友情を育み、帝都近郊の森では弓の名手ノアとも知り合った。
一方で、リリアの持つ特殊な回復水は帝都の研究者たちから注目を集め始める。若手交流大会での活躍もあり、その名前は少しずつ帝国上層部へ届いていた。
そんな中、帝都近郊で発見された古代遺跡の調査任務が発生する。リリアたちは調査中に隠し通路を発見し、遺跡最奥部に存在する謎の台座へたどり着いた。その時、リリアが触れた台座が反応。七百年以上沈黙していた遺跡が起動した。
追加調査隊が編成され、再び遺跡へ向かったリリアたち。しかし最奥部で見つけた奇妙な石の突起に興味を持ったリリアは、「絶対に押さないでください!」という研究者たちの叫びも虚しく、その石に触れてしまう。
瞬間、世界を揺るがす閃光が放たれた。そして遥か彼方、人の届かぬ神域にて、長い眠りについていた何かが静かに目を覚ました。
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眩しかった。何も見えない。白。ただ白だけが広がっている。
「うわぁぁぁ!?」
誰かが叫んでいる。ルシェだった。間違いない。よく聞く声だった。
リリアは目を開けようとする。少しずつ、ゆっくり、視界が戻る。最初に見えたのは天井だった。石造り。見覚えがある。遺跡だ。
「生きてる」
第一声だった。
「リリア!」
ミレーユが飛び付いてくる。珍しく本気で心配していたらしい。
「無事!?」
「たぶん」
「その返事やめて!」
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周囲を見る。全員いた。ミレーユ、セリナ、フィアナ、エレノア、ノア、ルシェ、エリス教官、研究者たち、軍人たち。怪我人はいない。ひとまず安心だった。
しかし、遺跡は変わっていた。明らかに。
「光ってる」
壁だった。通路だった。床だった。古代文字が青白く輝いている。まるで別の場所みたいだった。
研究者たちは大慌てで記録を取っている。
「あり得ない!」
「古代魔法回路だ!」
「なぜ起動した!?」
興奮と混乱が同時に押し寄せているらしく、手元の紙にまともな文字が書けていない者もいた。
エリス教官が振り返る。
「リリア」
「なに?」
「二度と勝手に押さないで」
真面目な顔だった。
「ごめん」
「反省してる?」
「少し」
本当に少しだった。
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その時、軍人の一人が、指揮官らしき男に駆け寄り、何かを耳打ちした。指揮官の表情が変わる。
「今、何と言った」
「はい。周辺の索敵中、隠れていた者たちを発見、確保しました」
全員が振り返る。少し離れた場所、護衛の兵士たちに囲まれて、粗末な身なりの男が数人、地面に座らされていた。
「盗賊の一味のようです。以前から、この一帯で消息不明になっていた行商人たちの荷を狙っていたと」
ノアが小さく息を吐いた。
「あの獣道」
「間違いない。この遺跡を隠れ家にしていたようだ」
指揮官が頷く。
「よく気付いたな」
ノアの方を見て、はっきりとそう言った。ノアは少し照れたように視線を逸らす。
「たまたま」
「たまたまじゃない。あの日の報告がなければ、この一団はもっと長く見逃されていた」
短いやり取りだったが、ノアにとっては、初めて大人からきちんと実力を認められた瞬間だった。フィアナが横で小さく微笑んでいた。
盗賊たちは、そのまま護衛の兵士たちに連行されていった。獣道の謎は、こうして呆気なく解けた。遺跡の異変とは関係のない、けれど確かにこの森に潜んでいた、もう一つの小さな事件だった。
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その時、ごごごごごっ。遺跡全体が震えた。全員が止まる。研究者たちも黙る。静寂。
そして、台座の奥、閉ざされていた石壁がゆっくり開いた。重々しい音を立てながら。誰も動かない。動けない。ようやく見つかった。七百年間隠され続けた場所だった。
「前進する」
軍人が言った。
護衛たちが前へ出る。慎重に進む。リリアたちも後ろから付いて行く。通路は長かった。今までの遺跡より深い。古い。そして、どこか神聖だった。空気が違う。不思議な感覚だった。
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やがて、大広間へ出る。全員が息を呑んだ。広い。想像以上だった。神殿のような空間。巨大な柱。天井いっぱいに描かれた紋様。そして中央、そこに一つだけ、台座があった。
何かが置かれている。剣ではない。杖でもない。宝石でもない。銀色の小箱だった。不思議な輝きを放っている。
「神器……?」
研究者の一人が呟く。静かになる。誰も否定できなかった。伝承に似ていた。神代の遺物。神々が残した道具。存在するかも分からないおとぎ話。それが目の前にある。
「触るな」
軍人が言った。
誰も反論しない。その空気だった。ただ一人を除いて。
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リリアだった。
「綺麗」
止める暇もなかった。一歩、二歩、三歩、近付く。
「待って!」
ミレーユが叫ぶ。
リリアが振り返る。そして、その瞬間だった。小箱が光った。眩しいほどに。強く。大広間全体を包む。風が吹く。魔力が渦巻く。研究者たちが後退する。軍人さえ顔色を変える。明らかに異常だった。
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そして、声が響いた。誰も聞いたことのない声。高く。美しく。どこか楽しそうな声。
『見つけた』
全員が凍り付く。誰の声だ。どこから聞こえる。分からない。だが聞こえた。確かに。
『ようやく見つけた』
光がさらに強くなる。リリアだけが立っていた。不思議と怖くなかった。むしろ、懐かしい気がした。なぜか。理由はない。
声が笑う。
『面白そうな子』
その瞬間、小箱が開いた。眩い光が溢れ出す。誰も目を開けていられない。轟音。衝撃。世界が揺れる。
そして最後に、その声はこう告げた。
『少しだけ遊ぼうか』
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光がすべてを包み込む。誰も知らない。何が始まるのか。神器とは何なのか。そして、神のイタズラが、どれほど非常識なものなのかを。
リリアだけは、光の中で思っていた。
「なんか面白そう」




