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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第3章 帝都成長編

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第29話 「遺跡調査」

夏が近付いていた。

帝都も少しずつ暑くなっている。


「暑い」

リリアが言った。

「五回目よ」


フィアナが言う。


「暑いから」


正論だった。たぶん。


---


朝のホームルーム。エリス教官が教室へ入ってくる。今日も真面目な顔だった。最近そういう日が多い。


「実習依頼です」


全員が前を向く。リリアも向いた。珍しく寝ていない。


「今回は調査任務になります」


黒板へ地図が貼られる。見慣れない場所だった。帝都北西部。森のさらに奥。古い遺跡が描かれている。教室がざわついた。


「遺跡ですか?」

ミレーユが聞く。

「ええ」


エリス教官が頷く。


「最近発見された小規模遺跡です」


冒険者見習いにとって、遺跡という言葉は特別だった。宝物。伝説。未知の魔法。夢が詰まっている。


「冒険だ」


リリアが立ち上がる。


「座りなさい」


即座に怒られた。だが、今回は誰も否定できなかった。確かに冒険だった。


「なお、今回は商人科からも一名同行します」


エリス教官が付け加える。


「発見物の記録と査定の実地訓練を兼ねているそうです」


その言葉に、リリアの顔が明るくなった。誰が来るか、聞かなくても分かった。


---


翌日、早朝。集合場所には、見慣れた顔もあった。


「おはようございます!」


商人科の制服姿のルシェが、記録用の帳面を片手に手を振っていた。


「ルシェも来るの?」

「実習です!ちゃんとした実習です!」


念を押すように繰り返す。以前は勝手についてきていた自覚があるらしい。


「査定の実地訓練だからな」

セリナが確認するように言う。

「そうです!ちゃんと許可取りました!」


胸を張っていた。堂々としていた。


七人は森を歩いていた。リリア、ミレーユ、セリナ、エレノア、フィアナ、ノア、そしてルシェ。いつものメンバーだった。


「ワクワクしますわね」

エレノアが言う。

「少し」


セリナも頷く。珍しかった。セリナも興味があるらしい。フィアナは地図を確認している。ミレーユは周囲を警戒している。ルシェは荷物と帳面の両方を抱えていた。


「重いです」

「頑張れ」

「応援じゃなくて手伝ってください!」


元気だった。いつも通り。


ノアは、他の誰よりも先に周囲の気配を読んでいた。


「この森、獣道が変」

「変?」

「人の出入りが多い。最近」


ぽつりとした一言だったが、誰も見落としていた情報だった。遺跡が発見されたのは最近のことだ。既に何者かがこの道を通っている、ということかもしれない。


「気を付けた方がいい?」

「たぶん」


短いやり取りだったが、全員の緊張が少しだけ引き締まった。


---


昼過ぎ、目的地へ到着する。森の中に、石造りの建物が埋まっていた。半分は崩れている。草も生えている。だが、確かに遺跡だった。


「おおー」


リリアの目が輝く。


「遺跡だ」

「遺跡ですわ」

「遺跡だな」


みんな少しテンションが上がっていた。ルシェも、遺跡の外壁を眺めながら帳面に何やら書き込んでいる。


「石材だけでも、それなりの価値になりそうです」

「もう仕事してる」

「実習ですから!」


慣れた様子で数字を書き付けていた。こういう場面になると、いつもより頼もしく見えた。


---


中へ入る。薄暗い。ひんやりしている。壁には古い文字が刻まれていた。ルシェが読む。


「読めません」


全員読めなかった。当たり前だった。


奥へ進む。一本道だった。罠もない。魔物もいない。少し拍子抜けだった。


「何もないね」

リリアが言う。

「油断しない」


セリナが言う。ノアも無言で、足元や壁の継ぎ目に目を配っていた。狩人の癖なのか、誰かに指示されたわけでもなく、自然と警戒していた。


---


その直後、ガタン。音がした。全員が止まる。天井ではない。壁でもない。床だった。リリアが踏んだ。


「ごめん」

「何やったの!?」


ミレーユが叫ぶ。だが、何も起きなかった。数秒待つ。十秒待つ。何も起きない。


「セーフ?」

「分からない」


非常に不安だった……


「床の継ぎ目、少しずれてた」


ノアが低い声で言う。


「気付いてたなら早く言って!」

「今、言った」


間違ってはいなかった。


---


すると、壁がゆっくり開き始めた。全員が身構える。セリナが前へ出る。フィアナも魔法を準備する。だが、現れたのは魔物ではなかった。隠し通路だった。


静かになる。


「開いた」

リリアが言う。

「開きましたわね」

「開いたな」


罠ではなかったらしい。結果的に発見だった。エリス教官なら頭を抱えたかもしれない。残念ながらいない。


---


通路へ入る。狭かった。そして長い。途中には古い絵もあった。王様らしき人物。剣を持つ騎士。そして、中央に描かれた光る何か。


「宝物?」

ルシェが言う。

「かも」


誰にも分からない。だが、気になる。非常に気になる。ルシェの帳面を持つ手にも、少し力が入っていた。


---


奥へ進む。やがて小部屋へ出た。広くはない。だが中央に台座があった。石でできている。何かを置くための台座。今は空だった。


「終わり?」

リリアが聞く。

「かもしれませんわ」


エレノアが周囲を見回す。少し残念そうだった。宝箱もない。宝石もない。魔法剣もない。


「査定するものが何もないです」


ルシェも肩を落とした。


---


その時だった。ミレーユが壁を見つめる。


「待って」


全員が止まる。壁に文字があった。古代文字だった。だが、少しだけ読める。授業で習ったのだ。


ミレーユがゆっくり読む。


「選ばれし者だけが」


静かになる。続きを読む。


「調和を継ぐ」


意味は分からない。全員そうだった。


「調和?」

フィアナが聞く。

「何でしょう」


エレノアも首を傾げる。ルシェは既に諦めていた。


「分かりません!」


堂々としていた。


---


その時、リリアが台座を見る。何か気になった。理由はない。ただ、気になった。近付く。台座の中央、小さな窪みがある。丸い形。何かをはめ込む場所に見えた。


「変なの」


指で触る。すると、淡い光が走った。一瞬だった。全員が驚く。


「今光りませんでした!?」

ルシェが叫ぶ。

「光ったな」

セリナが言う。

「光りましたわね」


エレノアも頷く。リリアだけが首を傾げていた。


「なんで?」


誰にも分からない。だが、間違いなく反応した。壁の文字も少しだけ輝く。しかし、それだけだった。すぐに元へ戻る。静寂。


「調査報告案件ね」


ミレーユが言う。全員同意だった。


---


夕方、遺跡を後にする。成果は十分だった。隠し通路。古代文字。そして謎の反応。学校も喜ぶだろう。ルシェの帳面にも、しっかりと記録が残されていた。


「良い実習報告になりそうです」

「頑張ったね」

「頑張りました!」


満足そうだった。


帰り道、森を歩く。夕焼けが綺麗だった。


「面白かった」

リリアが言う。

「そうね」


フィアナが笑う。


「また行きたい」

「行くのはいいけど」

ミレーユが言う。

「勝手に触らないで」

「ごめん」


反省はしていた。少しだけ。


ノアが、ふと森の奥を振り返る。


「さっきの獣道、やっぱり変」

「気になる?」

「うん」


小さな呟きだった。だが、誰かがそれを覚えていた。この後もずっと。


---


その頃、誰もいなくなった遺跡では、小部屋の台座が再び淡く光っていた。まるで、何かを待つように。静かに。ゆっくりと。


この遺跡で見つけた小さな異変が、後にどんな意味を持つことになるのか、この時はまだ、誰にも分からなかった。


もちろんリリアは、


「晩ご飯お肉かな」


そんなことを考えていた。


---


その夜、寮の食堂。ルシェが息を切らして駆け込んできた。今日はもう別れたはずなのに、また戻ってきたらしい。


「大ニュースです!」

「また?」


ミレーユが身構える。最近、この前置きの後に平穏なオチが来たことがなかった。


「ティアさんの工房、正式に決まりました!」


一瞬、静寂が落ちる。それから、リリアが弾かれたように顔を上げた。


「ティア!?」

「帝都の一流工房から、正式な招聘状が届いたそうです。師匠のドワーフさんも一緒に、来月には帝都入りするって」


ルシェの声には、隠しきれない興奮があった。


「本当?」

「本当です!父経由で聞いたので確実です!」


リリアは椅子から立ち上がり、そのまま数回、その場で飛び跳ねた。


「やった!」

「落ち着いて」


ミレーユが苦笑しながらも、その顔はどこか嬉しそうだった。ノアとフィアナは、まだ会ったことのない人物の名前に、それぞれ少し首をかしげていた。


「ティアって、どんな人?」

フィアナが聞く。

「鍛冶師。すごい腕」

「あと可愛い」


いつもの評価だった。フィアナは苦笑した。


「また増えるのね、賑やかな仲間が」

「うん!」


満面の笑みだった。来月、また一人。輪はまた、少しずつ大きくなっていく。

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