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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第3章 帝都成長編

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第27話 「回復水の価値」

若手交流大会の翌週。リリアは呼び出されていた。


「また?」


開口一番だった。エリス教官がため息をつく。


「またよ」


最近少し慣れてきた。リリアが何かすると、呼び出しが発生する。本人は不思議だった。


「私は何もしてない」

「迷子になった」

「ちょっと」

「食堂でデザートを三つ取った」

「ちょっと」

「訓練場の壁に登った」

「降りなさい」


いつもの流れだった。


---


職員室へ入る。そこには見知らぬ人物がいた。白衣を着ている。年配の男性だった。眼鏡をかけている。いかにも研究者だった。


「この子ですか」

「そうです」


エリス教官が答える。嫌な予感がした。昔も似たことがあった。故郷で。回復水を調べられた時だ。


「座ってください」

研究者が言う。

「帰りたい」

「まだ始まってません」


正論だった。リリアは座った。隣にはミレーユもいる。なぜか毎回付き添いである。


「証人だから」


エリス教官が言った。最近その役目が定着していた。


---


研究者は紙を取り出した。そして言った。


「回復水について調査したい。以前、故郷の学校でも調査記録があるようですが」

「知ってる。カイルさん」

「その記録も引き継いでいます」


研究者は頷きながら続けた。


「今日確認したいのは、当時からの変化についてです。あなたは十一歳、当時の記録から、レベルも大きく上がっています」

「変わってるの?」

「それを、今から確かめます」


初めて聞く視点だった。エリス教官も、少し興味深そうに耳を傾けていた。


---


実験開始。まず植物。ぽたっ。以前の記録より、明らかに早く葉が起き上がった。次は傷付いた鳥。ぽたっ。傷が、ほとんど跡形もなく消えた。次は枯れかけた薬草。ぽたっ。ただ元気になるだけでなく、色つやまで戻った。


研究者が固まる。何度もメモを書く。以前の記録と、今の結果を交互に見比べる。手が止まらなかった。


「どうですか?」

エリス教官が聞く。


研究者は黙り込む。そして、


「上がっている」


第一声だった。


「何が?」

リリアが聞く。

「効果です。当時の記録と比べて、明らかに」


研究者は数字を書き出しながら言う。


「レベルの上昇に比例するように、回復水の性能も上がっている。つまり、あなたが成長するほど、この力も成長し続けているということです」


---


「治癒魔法ではありません」

「水魔法でもありません」

「どちらとも違う。そして、成長を続ける未知の力です」


静かになる。リリアだけ分かっていない。


「強い?」

「ものすごく貴重です。しかも、まだ上限が見えていない」


即答だった。研究者は真面目な顔になる。


「リリアさん」

「うん」

「その力は、これから先、多くの人を救えるようになるかもしれません」


静かな声だった。


「戦争でも」

「災害でも」

「病気でも」


少し重い話だった。十一歳の少女には。研究者は慌てて言葉を換える。


「つまり、これからもっと凄くなる、ということです」

「おお」


そっちは分かった。


---


そこで、研究者がふと思いついたように言う。


「一つ、試していないことがあります」

「なに?」

「今までは、一滴だけで効果を見てきました。もし、たくさん出せるとしたら、どうなるか」


リリアは首をかしげた。


「いっぱい出す?」

「試したことは?」

「ない、と思う」


いつも、ぽたっ、で終わっていた。それ以上、という発想自体がなかった。


「やってみられますか」

「うん」


用意されたのは、大きめの木桶だった。リリアは両手をかざす。いつも通り、集中する。


ぽたっ。


まずは一滴。いつも通りだった。研究者が頷く。


「そこから、もう少し」


リリアは目を閉じる。もう少し、もう少し、と念じてみる。何がどう変わるのか、自分でもよく分からなかった。ただ、これまでよりも、少しだけ強く念じた。


ぽこん。


大きな水球が生まれ、桶の中へ落ちた。一滴どころではない。顔ほどの大きさの水の塊が、そのまま桶いっぱいに広がった。


「……え」


リリアが一番驚いていた。研究者は完全に固まっていた。エリス教官も、珍しく声を失っていた。


「今の、何?」

リリアが自分の手を見る。

「今のが、答えです」


研究者の声が震えていた。


「一滴しか出せない、という前提自体が、間違っていたのかもしれません」


これまで誰も、一滴以上を試そうとしなかった。故郷でも、帝都でも。回復水は「少しだけ出るもの」という前提で、ずっと扱われてきた。だが、今、目の前で、その前提が崩れた。


「もう一回」

「待ってください、記録を」


研究者は慌ててペンを走らせる。手が追いついていなかった。


---


実験終了。リリアは解放された。職員室を出る。廊下を歩く。ミレーユは少し考えていた。


「リリア」

「なに?」

「すごい力なんだね。しかも、まだ伸びてるって。しかも、いっぱい出せるって」

「そうなの?」

「そうだと思う」


リリアは少しだけ黙る。珍しかった。そして聞く。


「怖い?」


ミレーユは驚く。リリアがそんなことを聞くとは思わなかった。


「ううん」


笑う。


「リリアだから」


その答えに、リリアも笑った。少し安心したらしい。


---


放課後、いつもの場所、中庭のベンチ。フィアナ、セリナ、エレノア、ルシェ、そしてノア。全員集まっていた。制服姿のノアが、まだ少し慣れない様子で端の方に座っている。


「遅いです!」

ルシェが言う。

「研究されてた」

「また?」


全員が納得した。もう慣れている。完全に。ノアだけが少し不思議そうな顔をしていたが、フィアナが小声で「よくあること」と説明すると、それだけで納得したようだった。


「結果どうでしたの?」

エレノアが聞く。


リリアは少し考える。三秒、五秒。そして答えた。


「いっぱい出せるようになったらしい」


全員が固まった。


「いっぱいって?」

セリナが聞く。

「桶いっぱい」

「今までは?」

「一滴」


全員笑った。絶対説明不足だった。だが、大まかな凄さだけは、なんとなく伝わったようだった。


---


その後、ルシェが持ってきた焼き菓子を食べる。セリナが訓練の話をする。フィアナが授業の愚痴を言う。エレノアが紅茶を飲む。ノアは黙って皆の会話を聞きながら、時々小さく頷いていた。いつもの、けれど少し増えた、賑やかな時間だった。


リリアは思う。凄い力。そうなのかもしれない。もっと伸びるのかもしれない。桶いっぱいの水が、これからどうなるのかも、まだ分からない。でも、今はまだ実感がなかった。それよりも、友達と過ごす時間の方が大事だった。


---


その時、ルシェが思い出したように声を上げた。


「そういえば、聞きました?」

「何を?」

「工房の話です。前に少しお世話になった、ティアさんのところ」


その名前に、リリアがぱっと顔を上げた。


「ティア?」

「商人科の授業で、帝都の武具卸商の方と話す機会があって。そこで聞いたんですけど」


ルシェは少し得意げに続けた。


「帝都の一流工房が、腕のいい若手職人を探してるらしくて。故郷のドワーフの工房が、候補に挙がってるみたいなんです」


「ティアの工房?」

「はっきりとは聞いてませんけど、たぶん。あの安物でも手を抜かない仕事ぶり、噂になってたみたいで」


リリアの目が輝いた。


「ティアも帝都来る?」

「まだ分かりません。話が来ただけで」


それでも、リリアには十分な情報だった。


「会いたい」

「気が早いです」


ルシェが苦笑する。だが、その顔にも、少し期待するような色が浮かんでいた。ノアが編入し、輪はまた少し広がった。もしティアも帝都に来ることになれば、さらに賑やかになる。そんな未来を、誰もがなんとなく想像していた。


---


夕日が沈む。帝都の空が赤く染まる。


その頃、帝都の別の場所。若手交流大会を見ていた老紳士が、新しい報告書を読んでいた。


『回復水、レベル上昇と連動して性能向上を確認』

『本日、初めて大量生成に成功。一滴から、桶一杯規模へ』

『成長の上限、未だ不明』

『帝国としての取り扱いを、改めて検討する必要あり』


老紳士は、ペンを止めたまま、しばらく報告書を見つめていた。そして、ひとりごとのように呟いた。


「桶一杯、か」


その声には、これまでとは少し違う響きがあった。興味だけではない、何か別の感情が混じっているようだった。


だが、今のリリアは知らない。自分の価値が、少しずつ、けれど確実に、帝都の上層部の中で大きくなり始めていることを。


本人は帰り道で、


「明日のデザート何かな」


そして、


「ティア、いつ来るかな」


その二つを、同じくらいの重さで考えていた。

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