第26話 「若手交流大会、そして新しい制服」
帝都へ来て一か月。リリアたちは少しずつ帝都での生活に慣れていた。迷子を除いて。
「迷った」
朝だった。
「登校中よね?」
「うん」
「どうして?」
「帝都だから」
万能の言い訳だった。エリス教官は深いため息をつく。最近の日課だった。
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「今日は若手交流大会です」
教室がざわつく。リリアも少し反応した。大会。故郷でも出たことがある。帝都へ来るきっかけにもなった。
「今回は帝都校だけではありません」
エリス教官が続ける。
「周辺都市の学校も参加します」
ざわつきが大きくなる。規模が違った。地方大会より遥かに大きい。観客も多い。関係者も多い。成績次第で将来が変わる者もいる。
「緊張する?」
ミレーユが聞いた。
「しない」
リリアは答える。少し考える。
「でも勝ちたい」
珍しく真面目だった。セリナが頷く。
「私もだ」
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翌日、会場は巨大だった。円形の訓練場。観客席。貴族席。来賓席。人が多い。非常に多い。
「酔いそう」
リリアが言った。
「今さら?」
フィアナが呆れる。
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開会式が始まる。帝都校。地方校。同盟国の学校。様々な生徒が集まっていた。その中には、明らかに強そうな者もいる。セリナが剣を握る。ミレーユも緊張している。エレノアは静かだった。リリアだけは、屋台を見ていた。
「終わったら食べたい」
「集中しなさい」
フィアナに怒られた。
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最初の試合はセリナだった。相手は帝都南校の剣士。開始。剣がぶつかる。速い。かなり速い。観客も静かになる。だが、セリナの方が上だった。一瞬の隙。剣が相手の手を打つ。武器が落ちる。勝負あり。歓声が上がる。
「おお!」
リリアが立ち上がる。
「座って」
ミレーユが言った。
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次はフィアナだった。魔法戦。風属性。相手も強い。接戦だった。だが、最後はフィアナが押し切った。勝利。
「やった!」
本人も嬉しそうだった。リリアも拍手する。
「友達すごい」
「友達なんだ」
フィアナが少し笑う。
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そして午後、リリアの番が来た。会場中央へ向かう。相手は大柄な少年だった。剣士。見るからに強い。観客席もざわつく。
リリアは短剣を構える。ティアがくれた短剣だった。開始。少年が突っ込む。速い。力も強い。だが、リリアはさらに速かった。
進化した直感が、体を先に動かす。地面を蹴る。一気に間合いを詰める。観客席がどよめく。
「速い!」
誰かが叫んだ。少年も驚く。目で追えない。右、左、横、後ろ。翻弄される。
だが相手も優秀だった。慌てない。冷静に待つ。そして、大剣を振るう。広範囲攻撃。リリアは避ける。転んだ。まただった。避けたのか、転んだのか、本人も分からない。だが結果的には避けていた。
そして、相手の足元へ滑り込む。少年がバランスを崩す。その瞬間、短剣を首元へ向けた。終了。勝負あり。
静かになる。しばらく静かだった。その後、歓声が上がる。大きな歓声だった。リリアは驚く。こんなに大勢に見られる経験はない。少し照れた。少しだけ。
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試合終了後、エリス教官が近付いてくる。
「よくやりました」
「勝った」
「勝ったわね」
リリアが笑う。純粋だった。嬉しそうだった。
大会は夕方まで続いた。結果、帝都校は好成績。セリナも、フィアナも、リリアも評価された。
そして、観客席の一角、大会を見つめる人物がいた。老紳士だった。高価な服。鋭い目。ただの観客には見えない。手元の資料を見る。
『リリア・フォルネス』
『特殊治癒水魔法』
『レベル21到達』
今日の試合内容も書き加える。静かに笑った。
「面白い」
小さな声だった。誰も聞いていない。もちろん、リリアも知らない。帝都へ来てから、自分を見ている人間が、少しずつ増え始めていることを。
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大会の興奮も冷めやらぬまま、放課後。校門で待っていたのはエリス教官だった。いつもの淡々とした表情に戻っていた。
「リリア・フォルネス、皆さんに話があります」
リリアたちが揃うのを待ち、エリスは一通の書状を取り出した。
「先日の護衛依頼、複数回にわたる森林実習への協力。皆さんの行動を踏まえて、学校側に一つの申請が通りました」
「申請?」
「ノア、という名前に、心当たりがありますね」
その一言に、リリアの顔がぱっと明るくなった。
「まさか」
「特別推薦です。実技での貢献度、狩人としての技量、いずれも規定を満たしていると判断されました」
エリスは、手元の書状をリリアたちに見せる。そこには確かに、ノアの名前があった。
「これは、皆さんの評価が優秀だったから通った話ではありません。ノア自身の実力が認められた結果です。ただ」
一拍置いて、続ける。
「実習のたびに、きちんと連携し、成果を積み重ねてきた記録がなければ、そもそも検討の俎上にも載らなかったでしょう。誰か一人の手柄ではない、ということです」
珍しく、長い言葉だった。ミレーユが小さく頷く。
「エリス先生、それって間接的に褒めてます?」
「事実を述べています」
いつも通りの答え方だった。
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数日後、校門前に、見慣れた銀色の髪があった。
「ノア!」
リリアが真っ先に駆け寄る。ノアは、いつもの森装束ではなく、真新しい帝都校の制服に袖を通していた。少し落ち着かない様子だった。
「変な感じ」
「似合ってる」
「そう?」
照れくさそうに視線を逸らす。だが、悪い気はしていないようだった。
「じいちゃんは?」
「集落のみんなが見てくれてる。心配ない、って」
短い言葉だったが、そこには安堵が滲んでいた。祖父を一人にせずに済んだこと、それでも自分の足で新しい場所へ踏み出せたこと。両方が、ノアの中で確かな形になっていた。
「これから、よろしく」
ノアが、珍しく自分から頭を下げる。全員が笑顔になった。
「よろしく」
「よろしくですわ」
「よろしくお願いします!」
ルシェも駆けつけ、輪に加わる。フィアナも、ミレーユも、セリナも、エレノアも、当たり前のようにノアを迎え入れていた。
こうして、森の射手ノアは、正式に帝都校の一員となった。もう、木の上から見下ろすだけの存在ではない。今日から、リリアたちと同じ地面を、同じ歩幅で歩いていくことになる。
本人は帰り道で、
「屋台行こう」
それしか考えていなかった。もちろん、その隣には、少し戸惑いながらもついてくるノアの姿があった。




