表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第3章 帝都成長編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/58

第25話 「もう一度会いたい」

実習から三日後。リリアは考えていた。珍しく。かなり珍しく。真面目な顔だった。


ミレーユが少し心配する。


「どうしたの?」

「ノア」

「ノア?」

「会いたい」


なるほど。いつも通りだった。安心した。


---


昼休み、食堂。リリアはテーブルに突っ伏していた。


「ノア来ない」

「帝都校の生徒じゃないから」


フィアナが言う。


「遠いし」

「そう」


少し残念そうだった。あの日、木の上から降りてきた横顔を、リリアはよく覚えていた。無口で、少し不器用で、けれど弓を構えた瞬間だけは誰よりも鋭かった。もう一度会いたい、という気持ちは、思ったより強かった。


---


その時、ルシェが走ってくる。商人学校の制服姿だった。最近は時々こうして昼休みに顔を出す。


「皆さん!」


元気だった。非常に。


「面白い話があります!」


嫌な予感がした。主にミレーユが。


ルシェが一枚の紙を広げる。依頼書だった。


「商人科の実習で、依頼の仲介先を探してたんです。そしたら、これを見つけて」


「森の護衛依頼です!」


全員が見る。ベルナルト森林地帯。見覚えのある名前だった。


「ノアの森」

リリアが言う。

「ノアの森じゃないわよ」


フィアナが突っ込む。


「でもいる」


それはそうだった。


「実は」


ルシェが少し声を落とす。


「商隊の一つが、最近あの森を通る時、道案内を頼める狩人を探してるらしくて。もしかしたら、その狩人さんって……」

「ノアだ」


全員の意見が一致した。


---


依頼は初心者向け。商隊護衛。学校から参加者を募っているらしい。リリアは即答した。


「行く」


全員分かっていた。そう言うと思った。


---


数日後、依頼当日。森へ到着する。商隊を護衛しながら進む。順調だった。魔物も少ない。危険もない。


そして、いた。ノアだった。木の上からこちらを見ている。


「いた!」


リリアが叫ぶ。ノアが驚く。明らかに驚く。木の枝から音もなく降りてきて、まじまじとリリアたちを見た。


「なんでいるの」

「依頼」

「そう」


数秒沈黙する。それから、少しだけ笑った。本当に少しだけ。


「変な人」

「よく言われる」


もはや定番だった。


---


その後、ノアも道案内として同行することになった。単なる案内役ではなかった。歩きながら、獣道の見分け方、危険な茂みの気配、風向きから読む魔物の位置。一つ一つ、リリアたちに教えてくれた。


「すごい」

「普通」


謙遜だったが、商人たちは何度も感心の声を上げていた。


途中、小さな群れに遭遇した。三日前とは違い、今度はセリナやフィアナも、ノアの矢の呼吸に合わせて動けた。矢が飛び、剣が振るわれる。連携は、まだ完璧とは言えない。だが確実に、噛み合い始めていた。


「息合ってきた」

セリナが言う。

「そう?」

「そう」


短いやり取りだったが、ノアの表情が少しだけ柔らかくなった気がした。


この一件をきっかけに、ベルナルト方面を通る護衛依頼のたびに、ノアが同行することが増えていった。回数を重ねるごとに、連携はますます滑らかになり、リリアたちの間でも「ノアがいると安心する」というのが、いつしか共通の認識になっていた。


---


依頼終了。夕方、森が赤く染まっていた。帰る時間だった。


商人達を見送った後、六人とノアは、森の入り口でしばらく立ち話をしていた。


「ノアはずっとここで暮らしてるの?」

「うん」

「お祖父さんと?」


ノアは頷いた。


「じいちゃんは、もう歳だから。狩りはあまりできない。だから、私が」


短い言葉の中に、色々なものが詰まっていた。ノアにとって森は、好きな場所であると同時に、離れられない場所でもあった。


リリアはしばらく考える。それから、思い切ったように言った。


「帝都来ない?」


全員が止まる。ノアも止まる。


「え?」


さすがに戸惑った顔だった。


「楽しいよ。人多いけど、みんないるし」


単純だった。実にリリアらしい誘い方だった。だが、ノアはすぐには頷けなかった。


「じいちゃんを、一人にできない」


静かな声だった。それが、一番大きな理由だった。


その時、フィアナが口を開く。


「森を出る決心なら、私も少し分かるかも」


同盟国から一人で来た自分の経験を、重ねているようだった。


「離れるのが怖いんじゃなくて、置いていくみたいで嫌なんでしょ」


ノアは驚いたように顔を上げた。図星だったらしい。


「帝都校には、定期的に近郊の実習がある。今日みたいに、この森へ戻る機会も、たぶんまだあると思う」


ミレーユが冷静に付け加えた。


「それに、狩人の腕があれば、帝都でも仕事はいくらでもある」


「でも、入学とか、住む場所とか」


ノアがぽつりと呟いた。誘いは嬉しい。それでも、具体的なことを考えると、簡単には頷けなかった。帝都校への入り方も分からない。祖父を残していくわけにもいかない。かといって、祖父を連れていくあてもない。


その時、森の奥から低い声が響いた。


「その話、聞かせてもらったよ」


木々の間から、白髪の老エルフが姿を見せた。ノアの祖父だった。杖をつきながらも、足取りはしっかりしていた。


「じいちゃん」

「盗み聞きするつもりはなかったんだが、声が届いてな」


老人は、リリアたちを一人ずつ見渡した。それから、優しく目を細める。


「ノア、儂のことなら心配いらん。この森には、まだ他にもウッドエルフの集落がある。儂の古い知り合いも何人かおる。頼めば、面倒を見てもらえるだろう」


「でも」

「お前はもう、十分に儂の面倒を見てくれた。今度は、お前が自分の道を選ぶ番だ」


ノアはしばらく黙っていた。祖父の顔、それからリリアたちの顔を、順に見る。


「一度、じいちゃんに聞いてみる、って言おうと思ってたのに」

「もう答えたようなものだろう」


老人は静かに笑った。


「入学のことも、住む場所のことも、すぐには決まらんだろう。だが、道はあるはずだ。帝都校には、特別な推薦の仕組みもあると聞く」


その言葉に、ミレーユが小さく反応した。


「特別推薦……」


何か思い当たることがあるような顔だった。だが、この場では、それ以上は口にしなかった。


---


「一度、じいちゃんに聞いてみる」


さっきと同じ言葉を、ノアはもう一度口にした。だが、その響きは、さっきよりずっと軽かった。


リリアは満足そうに笑う。


「うん」


いつか、また一緒に歩ける気がした。ノアも少しだけそう思った。木の上からではなく、隣を歩く日が来るかもしれない。そんな予感が、初めて胸の中に、はっきりとした形で芽生えていた。


こうして、森の射手ノアは、少しずつリリアたちの輪の中へ近付いていく。まだ仲間ではない。けれど、もう他人でもなかった。そして、その先に続く道が、少しずつ見え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ