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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第3章 帝都成長編

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第24話 「森の射手」

帝都へ来て二週間。ようやく帝都校の生活にも慣れてきた。リリア以外は。


「迷った」


朝一番だった。


「まだ登校中よね?」

「うん」

「どうして迷うのよ」

「帝都だから」


万能の言い訳だった。


「今日は校外実習です」


エリス教官が言った。全員が前を向く。この二週間で、生徒たちも少しずつ分かってきていた。エリスの声のトーンが変わる時は、何かしら気を引き締めるべき時だった。


「帝都近郊のベルナルト森林地帯へ向かいます」


森。調査依頼だった。帝都周辺で小型魔物の目撃情報が増えている。危険度は高くない。だが確認は必要だった。


「冒険だ」


リリアの目が輝く。


「調査よ」

「冒険だ」


もう聞いていなかった。エリスは小さくため息をついた。


「リリア・フォルネス。調査と冒険の違いは、次の座学で説明します」

「楽しみ」

「そういう意味ではありません」


短いやり取りだったが、それでもエリスの口元は、ほんの少しだけ緩んでいた。


---


翌日、ベルナルト森林地帯。帝都から半日ほどの距離にある大きな森だった。木漏れ日が揺れる。風も気持ち良い。故郷の森によく似ていた。


「落ち着く」

リリアが言う。

「分かる」


ミレーユも頷く。フィアナは少し不思議そうだった。


「あなたたち森に慣れてるのね」

「村育ちだから」

「納得したわ」


六人で進む。調査は順調だった。魔物の痕跡を確認する。足跡。爪痕。食べ残し。セリナが観察する。フィアナも周囲を警戒していた。腰には、実習用に貸し出された鋼の剣が下がっていた。


---


その時、ひゅっ。何かが飛んだ。矢だった。全員が足を止める。矢は木に突き刺さった。正確だった。かなり。狙いを外したのではなく、明らかに、警告として狙って撃ち込んだ一射だった。


「止まって」


声が降ってくる。上だった。木の枝の上に、少女が立っていた。銀色がかった髪、少し尖った耳。長弓を構えている。ハーフエルフだった。


構えは崩れていない。矢筒には、まだ何本も矢が残っている。全員がそれに気付き、動きを止めた。


「誰?」

リリアが聞く。

「それはこっち」


少女が言う。警戒していた。明らかに。人慣れしていない、というより、人そのものに慣れていないような目だった。


セリナが一歩前へ出る。両手を軽く上げ、敵意のないことを示しながら。


「帝都校の実習だ。調査で来ている」


少女はしばらく観察する。嘘かどうか確かめているらしい。矢先が、ゆっくりとリリアたちの制服、それから森の入り口の方角へ動く。確認するように何度か視線を往復させた。やがて、静かに弓を下ろした。


「そう」


短い返事だった。それでも、明らかに警戒が緩んだのが分かった。


---


リリアが近付く。


「可愛いね」

「え」


少女が固まる。いつものだった。フィアナが吹き出す。ミレーユは諦めた顔をしている。


「初対面なのよね?」

少女が言う。

「うん」

「そう」


処理を放棄したらしい。正しい判断だった。


---


事情を聞く。少女の名前はノア。森の近くで祖父と二人で暮らしている。狩人見習い。弓の腕は相当なものらしい。実際、矢の精度は見ただけでも分かった。


「一人で森にいるの?」

「いつも」

「怖くない?」

「森の方が、慣れてる」


ぽつりとした返事だった。それ以上は、あまり多くを語らなかった。ただ、その言い方には、どこか含みがあった。人里よりも、森の方が過ごしやすい。そう聞こえた。


「すごい」

リリアが言う。

「普通」


ノアが答える。謙遜だった。全員がそう思った。


---


その時、茂みが大きく揺れた。全員が反応する。小型魔物、三体。ウルフ系だった。飛び出してくる。


セリナが剣を抜く。刃が陽の光を弾いた。フィアナも前へ出る。だが、一番早かったのはノアだった。


矢を三本、指の間に挟んで一気に構える。呼吸を整える間もなく、放った。


ひゅっ。ひゅっ。ひゅっ。


ほぼ同時。三体とも、狙い違わず足を撃ち抜かれる。動きが止まる。恐ろしいほどの精度だった。狙いを一体ずつ変えながら、三本を瞬時に放つなど、並の狩人にできる芸当ではなかった。


その隙を逃さず、セリナが飛び込む。


がきん。がきん。がきん。


刃が確実に急所を捉える。終了。全員が固まった。綺麗すぎた。連携したわけではない。初対面同士の、たまたま噛み合った動きだった。だが、まるで何年も一緒に戦ってきたかのような完璧さだった。


「すごい!」


リリアが拍手する。ノアが少し照れた。分かりやすかった。


「別に」


全然別にではなかった。


「今の、いつも一人でやってるの?」

「うん」

「連携する人いなかったの?」


ノアは少し黙った。それから、小さく答えた。


「いない」


短い言葉だったが、その一言には、思ったより重いものが含まれている気がした。リリアはそれ以上、深くは聞かなかった。


---


調査終了後、六人は森の出口までノアと一緒に歩いた。会話はあまり続かない。ノアは元々無口だった。だが、沈黙は嫌ではなかった。不思議な空気だった。


「今日の記録、教官に見せたら褒められるかも」

ミレーユが呟く。

「エリス先生、褒めるの?」

「褒める、より、認める、って感じかな」


想像すると、少し面白かった。


別れ際、


「またね」


リリアが言う。ノアは少し考える。それから小さく頷いた。


「……うん」


短かった。けれど、確かな返事だった。「いない」と答えた時とは、少し違う響きだった。


森の射手、ノア。リリアは直感する。また会う。きっと。理由はうまく説明できなかったが、木の上から降りてきたばかりのその横顔が、なぜか、これからも何度も見ることになる気がした。

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