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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第3章 帝都成長編

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第22話 「迷子と留学生」

帝都へ来て二日目だった。


「大きいなぁ」


窓から外を眺めながら、リリアは呟いた。


「昨日からそればっかりね」


向かいの席で朝食を食べていたミレーユがため息をつく。昨日は帝都へ到着し、手続きを済ませ、さらにルシェとも再会した。まだ二日目だというのに、リリアの中ではすでに帝都は面白い場所認定されていた。


「今日は迷子にならないでね」

「ならないよ」


即答だった。ミレーユは信用していなかった。セリナも信用していなかった。エレノアも信用していなかった。ルシェも信用していなかった。本人だけが信用していた。


---


朝食後、四人は教室へ向かう予定だった。正確には、向かう予定だった。リリア以外は。


「あれ?」


気付けば一人だけ別の場所にいた。


「ここどこだろう」


迷子だった。予想通りだった。


寮を出たまでは覚えている。食堂へ向かった。途中で大きな噴水を見つけた。少し見た。さらに綺麗なお店を見つけた。少し見た。気付いたら知らない場所にいた。完璧だった。


「おかしいなぁ」


辺りを見回す。知らない建物。知らない通り。知らない人。分かるものが何もない。帝都は広かった。そして人が多かった。


「困った」


少しだけ困る。少しだけである。


---


その時だった。


「あなた」


後ろから声がした。リリアが振り返る。そこには一人の少女が立っていた。長い金髪、碧い瞳、整った顔立ち、見慣れない制服。年齢は同じくらいだろう。そして、とても可愛かった。


「可愛い」


リリアが言った。少女が固まった。


「は?」


正常な反応だった。


「可愛いね」

「初対面よね?」

「うん」

「安心したわ」


何も安心できる要素はなかった。少女は深いため息をついた。


「それより」

「迷子?」

「たぶん」

「確実に迷子ね」


即断された。否定は難しかった。


「学校はどこ?」

「帝都冒険者育成学校」


少女が納得したように頷く。


「やっぱり」

「分かるの?」

「制服を見ればね」


確かにその通りだった。少女は踵を返す。


「ついてきて」

「案内してくれるの?」

「迷子を放置できないもの」


優しかった。リリアは素直についていく。


---


二人で帝都の大通りを歩く。商人たちの呼び声。行き交う馬車。忙しそうに歩く人々。帝都らしい賑わいが広がっていた。リリアはきょろきょろしながら歩く。


「本当に大きい」

「田舎から来たの?」

「うん」

「なるほど」


納得された。


しばらく歩いたところで、リリアが聞く。


「名前は?」


少女は少しだけ考えた後、


「フィアナ」


と答えた。


「フィアナ・ルーベルト」


綺麗な名前だった。


「私はリリア」


するとフィアナは頷いた。


「知ってる」


今度はリリアが固まる。


「有名なの?」

「少しだけ」


その言い方は、単なる社交辞令ではなかった。新人大会での独創的な戦闘スタイル、正体不明の回復水、そして推薦候補としての名前。帝都冒険者育成学校の生徒の間では、すでに何度か噂に上っていた。それをフィアナも小耳に挟んでいたらしい。


「回復水を作る子」

「作れる」


短い返事だった。有名だと言われても、本人にはまだあまり実感がなかった。


「変な反応するのね。普通、有名だって言われたらもっと得意げになるものよ」

「なるの?」

「私だったらなるわ」


そう言いながら、フィアナは少しだけ笑った。


---


「フィアナは帝都の人?」


その質問に、フィアナは少しだけ表情を変えた。


「違うわ」


静かな声だった。


「私は同盟国出身」


リリアは頷く。四国同盟。帝国の隣に存在する国々。授業でも習ったことがある。


「交換留学生みたいなものね」

「へぇ」


リリアは頷く。それだけだった。反応が薄い。フィアナが少し驚く。


「それだけ?」

「うん」

「驚かないの?」

「なんで?」


逆に聞き返された。フィアナは言葉に詰まる。


帝国に来てから、何度も同じ流れを経験してきた。同盟国出身だと分かった瞬間、相手の目つきが変わる。警戒する者もいれば、物珍しそうに距離を詰めてくる者もいた。中には、はっきりと嫌悪を向けてくる者さえいた。同盟国と帝国の間には、まだ完全には消えない緊張が横たわっている。そのことを、フィアナは肌で知っていた。


だから、目の前の少女の反応の薄さに、逆に戸惑った。


「普通、もう少し何か言うものよ」

「何を?」

「同盟国なんだ、とか。仲良くできるかしら、とか。あるいは、その逆とか」


リリアはしばらく考える。真剣に考えているようだった。それから、首を傾げた。


「フィアナはフィアナでしょ?」


フィアナが目を見開く。


「え?」

「同盟国の人でもフィアナだし」


当然のように言う。国とか、立場とか、そういうものより先に、目の前にいる一人の人間を見ている、そんな言い方だった。フィアナが何かに身構える理由が、最初からなかった。


そして、リリアは続けた。


「可愛いし」


余計な一言まで付いていた。


フィアナが吹き出した。思わず笑ってしまう。


「あははっ」


久しぶりだった。こんな風に、何も考えずに笑ったのは。同盟国から来て以来、どこか気を張っていた自分に、初めて気付いたような気がした。


「変な人ね」

「よく言われる」


実際よく言われる。


---


やがて巨大な校舎が見えてきた。帝都冒険者育成学校。寮も見える。完全に帰ってきた。


「着いたわ」

「本当だ」


リリアが感心する。本当に着いていた。一人ならたどり着けなかっただろう。


「ありがとう」


リリアが頭を下げる。フィアナは肩をすくめた。


「今度から迷子にならないで」

「頑張る」


信用できなかった。フィアナにも分かった。


「無理そうね」

「うん」


二人で少し笑う。


---


その時、遠くから声が聞こえた。


「リリアー!」


ミレーユだった。後ろにはセリナ、エレノア、ルシェの姿もある。全員かなり慌てていた。


「見つけた!」

「いたな」

「いましたわね」

「いましたね!」


四人が駆け寄ってくる。リリアは笑顔だった。


「見つかった」

「当たり前よ!」


ミレーユが即座に突っ込む。


フィアナはその様子を見て少しだけ笑った。こんな賑やかな集団は珍しい。そして、その中心にいる少女も。


「ありがとうございました」


ミレーユが頭を下げる。フィアナは軽く手を振った。


「気にしないで」


そう言いながらも、どこか楽しそうだった。


---


フィアナは踵を返し、来た道を戻り始めた。数歩進んだところで、ふと足を止め、振り返る。


「また迷子になったら、そのあたりを歩いてるから」

「見つけてくれる?」

「気が向いたらね」


素っ気ない言い方だった。だが、その口元は、少しだけ緩んでいた。


リリアは小さく手を振る。


「じゃあね、フィアナ」

「ええ」


遠ざかっていくその背中を見ながら、リリアはふと思う。同盟国から来た、少し不思議な少女。今日出会ったばかりなのに、なんだか、もっと長く知っているような気がした。


帝都での、思いがけない出会いだった。まだ二日目だというのに、この街は、驚くほど多くのものをリリアに見せてくれていた。

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