第21話 「帝都、そして再会」
これまでのあらすじ
リリア・フォルネスは、可愛い女の子が大好きな少し変わった少女だった。冒険者育成学校へ入学した彼女は、常識人のミレーユ、努力家の剣士セリナ、貴族令嬢エレノアたちと出会い、多くの経験を積み重ねていく。やがて新人冒険者として依頼をこなしながら成長し、回復水を生み出す希少な才能でも注目を集めるようになった。
やがて新人大会が開催され、リリアたちは見事な活躍を見せる。その結果、リリア、ミレーユ、セリナ、エレノアの四人は帝都への推薦候補に選ばれた。帝都は多くの強者が集う帝国の中心地。新たな成長の舞台である。
一方で商人志望のルシェは推薦対象ではなかった。しかし彼女は「いつか商人として帝都へ行く」と夢を語り、リリアも「向こうで会えるね」と笑った。旅立ちの日、ルシェは四人を見送りながら「すぐに合流しますので!」と約束する。そしてリリアたちは故郷を後にし、帝都へ向かったのだった。
帝都は大きかった。本当に大きかった。
馬車の窓から巨大な城壁が見えた瞬間、リリアは思わず立ち上がった。
「大きい!」
「座って」
ミレーユが即座に肩を押さえる。
「でも大きい!」
「見れば分かる」
セリナも頷いていた。実際、故郷の街とは比べ物にならなかった。高い城壁、行き交う馬車、城門を通る大勢の人々。その全てが圧倒的だった。
「これが帝都ですわ」
エレノアが微笑む。
「大きい」
「知ってますわ」
本日三回目だった。
やがて馬車は帝都冒険者育成学校へ到着する。校舎もまた巨大だった。
「大きい」
「四回目」
ミレーユが数えていた。
「まだ四回しか言ってないんだ」
「それに驚いたわよ」
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到着した推薦組は職員の案内で手続きを進める。身分確認、寮の登録、冒険者科の説明、授業内容の案内。かなり時間がかかった。
その一連の案内をしてくれたのが、帝都冒険者育成学校の教官、エリスだった。年齢は二十代半ばくらい、きっちりと結い上げた髪に、隙のない立ち姿。話し方も穏やかだが、どこか有無を言わせない響きがあった。
「本日から、皆さんの指導を担当します。エリスです」
四人が並んで頭を下げる。エリスは名簿に目を通しながら、一人ずつ名前を確認していく。
「セリナ・クレスト、エレノア・ローゼンベルク、ミレーユ・アスター」
淡々と読み上げていたが、最後の一人で、わずかに手が止まった。
「リリア・フォルネス」
顔を上げ、リリアをじっと見る。
「回復水の噂は、こちらにも届いています」
リリアは少し身構えた。
「褒めてる?」
「評価は、これから見せてもらいます」
きっぱりとした言い方だった。ミレーユが小声で耳打ちする。
「厳しそうな先生」
「厳しそう」
リリアも同意した。二人の意見が珍しく一致していた。
その間も、リリアは落ち着きなく、きょろきょろしている。
「迷子になりそう」
「まだ校舎の中だから大丈夫」
「外に出たら?」
「危ないわね」
「危ないですわね」
「危ないな」
三人とも即答だった。エリスはその様子を見て、小さくため息をついていた。前途を、少しだけ案じているようだった。
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その日の午後、荷物を寮へ運び終えた四人は校内を見て回っていた。敷地だけでも広い。訓練場、図書館、食堂、商店。何でも揃っている。
「ここだけで生活できるね」
「できると思う」
セリナも頷いた。
その時だった。
「リリアさん!」
聞き覚えのある声が響いた。リリアが振り返る。誰だろう。少し考える。金色の髪、元気そうな笑顔、大きな荷物。見覚えはある。あるのだが。
「……ルシェ?」
「疑問形なんですか!?」
元気なツッコミが飛んできた。間違いなかった。ルシェだった。
「本当に来た!」
「約束しましたから!」
ルシェは胸を張る。ミレーユが呆れる。
「むしろ来ないと思ってたの?」
「ちょっと」
「思ってたんですね!?」
ルシェがショックを受けていた。
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改めて全員が集まる。エレノアが尋ねる。
「どうやって来られたのです?」
「商人科です!」
ルシェは満面の笑みだった。
「実は新人大会の少し前から、商人科の入学試験を受けてたんです」
その言葉に、リリアが目を丸くする。
「先に受けてたの?」
「はい。結果待ちだったので黙ってました」
実のところ、試験の準備は簡単なものではなかった。帝都商人科は狭き門で、実技だけでなく筆記試験もある。値付けの理論、輸送コストの計算、他国との取引に関する基礎知識。あの日、食堂で数字だらけの紙を広げていたのは、依頼の相談だけではなかった。裏では、これらの勉強も並行して進めていたのだった。
「昨日、合格通知が届いたんです!」
そう言って一枚の書類を見せた。確かに合格証明だった。
ルシェは少し照れながら続ける。
「推薦ではありませんけど」
「凄いじゃない」
ミレーユが言う。セリナも頷いた。
「努力した結果だな」
「ありがとうございます!」
嬉しそうだった。故郷で商売の勉強を続けながら、空いた時間に試験勉強も続けていたらしい。父の店を手伝う昼間、そして夜は帳簿と参考書を並べて机に向かう日々。誰かに褒められるためではなく、ただ自分の夢のために積み重ねてきた時間だった。帝都で商人になる。その夢へ向かう、確かな第一歩だった。
「今日着いたの?」
リリアが尋ねる。
「朝です!」
「早い」
「急ぎましたから!」
どうやら合格通知を受け取った翌日には、もう荷物をまとめて出発したらしい。長い道のりを、ほとんど休まずに駆け抜けてきたという。本当に、すぐに追いかけてきたことになる。
リリアは少し感心した。
「行動力ある」
「リリアさんには言われたくありません!」
それもそうだった。
「商人科って、どんなことするの?」
「取引の実習とか、値付けの授業とか、あとは実際に露店を出す実技もあるんです」
ルシェの声には、隠しきれない高揚感があった。
「帝都には、いろんな国の商品が集まってくるんです。今までとは、規模がまるで違う」
「難しそう」
「難しいです。でも、だからこそやりがいがあります」
その目は、以前、木彫りの小鳥を売った日と同じ輝きをしていた。地味だと笑われた夢が、今、確かな一歩を踏み出していた。
ルシェの寮も同じ学園区内にあるらしい。完全に別れるわけではない。むしろ以前より会いやすいくらいだった。
「よかった」
リリアが笑う。
「何がです?」
「友達がいた」
その言葉にルシェも笑った。
「最初からいましたよ」
「そうだった」
「忘れてました?」
「少し」
「忘れてましたね!?」
また叫ばれた。ミレーユが深く頷く。
「忘れてたわね」
「忘れてたな」
「忘れてましたわね」
全員一致だった。
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夕暮れ、五人は並んで校舎の外へ出た。帝都の街並みが赤く染まっている。遠くには王城、賑やかな大通り。冒険者たち、商人たち。故郷では見られない光景ばかりだった。
「帝都だぁ」
リリアがしみじみ呟く。
「今さら?」
「実感した」
「遅いです」
リリアは街を眺めながら思う。ここには強い人がいる。凄い人もいる。まだ出会っていない仲間もいるだろう。知らないこともたくさんある。厳しそうな教官もいる。でも、不思議と不安はなかった。隣には仲間がいるからだ。
「楽しみ」
いつもの言葉だった。ミレーユも笑う。
「そういうと思った」
セリナ、エレノア、ルシェも頷く。
こうして五人の帝都での生活が始まった。それぞれが選んだ道を、それぞれのやり方で歩き出す。まだ誰も知らない日々が、目の前に広がっていた。




