第2話 「可愛い子1人目」
「行ってきます!」
朝。リリアは勢いよく家を飛び出した。今日は冒険者見習い学校の入学式である。
「走るな!」
後ろから父の声が飛んでくる。
「遅刻する!」
「まだ一時間早い!」
「じゃあ余裕!」
意味が分からなかった。
村の道を全力で走る。朝日が眩しい。風が気持ち良い。リリアは笑った。学校。友達。新しい生活。知らないことばかりだった。少しだけ楽しみだった。
そして、
「可愛い子いるかな」
やっぱりそこだった。
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学校は村の中心部に建てられていた。石造りの立派な校舎。広い訓練場。大勢の子供達。リリアは校門の前で固まった。
「多い……」
想像以上だった。何十人もいる。みんな制服を着ている。緊張している子もいる。親と一緒に来ている子もいる。リリアだけ一人だった。正確には、父の付き添いが断られた。主に顔が怖いからである。
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教室へ入る。席表を見る。窓際。
「いい席!」
荷物を置く。椅子へ座る。そこで気付いた。隣の席、女の子だった。栗色の髪。優しそうな緑色の瞳。制服もきちんと着ている。真面目そう。そして、可愛い。かなり可愛い。リリア基準である。その時点で信用してはいけない。
少女が軽く頭を下げた。
「はじめまして」
声まで可愛かった。リリアの目が輝く。
「はじめまして!」
「ミレーユ・アスターです」
「リリア・フォルネス!」
元気よく答える。ミレーユは少し安心したようだった。話しやすそうな相手。そう思ったらしい。残念である。
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「よろしくね」
「うん!」
「リリアさんはどこから来たの?」
「村!」
「そうなんだ」
「ミレーユは?」
「向こうの街から」
普通の会話だった。ここまでは。
リリアはじっとミレーユを見る。ミレーユが少し困った顔をする。
「あの……?」
「可愛いね」
「えっ」
「すごく可愛い」
「えっ?」
「友達になろう」
「話が早い!?」
初対面だった。まだ一分も経っていない。
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ミレーユは慌てる。
「えっと、その……」
「嫌?」
少し不安そうな顔。意外だった。ミレーユは思わず笑う。
「嫌じゃないよ」
リリアの表情が明るくなる。
「やった」
本当に嬉しそうだった。その顔を見て、ミレーユも少し笑う。
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教師が教室へ入ってくる。全員が席へ着く。入学式が始まった。教師は将来の話をした。冒険者の話。魔法の話。努力の話。みんな真面目に聞いている。一人だけ違った。
リリアは紙に何か書いていた。ミレーユが覗く。そこには大きく書かれていた。
【可愛い子リスト】
「何してるの!?」
思わず声が出た。教師が止まる。教室が静まる。全員がこちらを見る。ミレーユが固まった。
リリアは普通に答える。
「可愛い子を探してる」
「今じゃないよね!?」
「大事だよ?」
「大事じゃない!」
初日だった。すでに疲れていた。
教師は咳払いをする。
「続けるぞ」
授業は再開された。ミレーユは机に突っ伏した。リリアは慰める。
「大丈夫」
「何が?」
「ミレーユは一位だから」
「何の!?」
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昼休み、二人は一緒に昼食を食べていた。当然のように隣だった。もう友達扱いである。
「お弁当美味しそう」
「ありがとう」
「交換する?」
「少しだけね」
ミレーユは苦笑する。優しい。リリアは思った。優しい。可愛い。優しい。可愛い。重要なので二回思った。
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放課後、校門の前。夕日が差し込んでいる。リリアが言った。
「ミレーユ」
「なに?」
「友達一人できた」
ミレーユは笑う。
「そうだね」
リリアも笑った。少しだけ考える。十人いたら楽しそうだ。みんなでご飯を食べて。みんなで笑って。困った時は助け合う。そんな感じ。なんとなくだけれど。悪くないと思った。
「目標まであと九人」
「目標?」
「可愛い子十人」
「何それ」
ミレーユは笑った。呆れながら。でも少し楽しそうに。
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この日、リリア・フォルネスは最初の友達と出会った。後に最も長い付き合いになる少女。そしてミレーユ・アスターはまだ知らない。自分がこれから何年も、この残念なクォーターエルフに振り回され続けることを。
もちろんリリアも知らなかった。ただ一つだけ確かなことがある。可愛い子一人目は、無事に見つかったのである。




