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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第2章 新人冒険者編

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第19話 「帝都推薦」

新人大会から数日後、教室の空気が少し違った。いつもより静かだった。理由は簡単だった。アリア先生の顔が、いつになく真面目だったからだ。


「あの先生の顔」

「何かありますね」


エレノアが小声で頷く。ミレーユも同じことを思っていた。嫌な予感ではない。だが、何かがある。そんな空気だった。


「今日は連絡事項があります」


先生の声で、教室の私語が止む。


「新人大会の結果を受けて」


一拍置いて、先生は続けた。


「帝都推薦候補が決まりました」


その瞬間、教室が一気にざわめいた。帝都。冒険者なら誰もが知っている場所。強者が集まる場所。そして、大きな仕事も、大きな責任も集まる場所。憧れであり、同時に厳しい現実が待つ場所でもあった。


---


アリア先生が紙を手に取る。全員が息を詰める。


「まずセリナ・クレスト」


セリナが目を見開いた。しばらく動けなかった。呼ばれるかもしれない、と頭のどこかでは思っていた。それでも、実際に名前を呼ばれると、胸の奥が急に熱くなった。強くなりたい、そのために毎日剣を振ってきた。その全部が、たった今、報われた気がした。


「はい」


立ち上がる。拍手が起こる。セリナは、いつもより少しだけ長く頭を下げた。


「次にエレノア・ローゼンベルク」


再び拍手。エレノアは背筋を伸ばし、堂々と立ち上がった。だが、指先はほんの少し震えていた。貴族としてではなく、一人の見習い冒険者として認められた、その事実が、うまく言葉にならないくらい嬉しかった。


---


そして先生が、少しだけ間を置いた。


「リリア・フォルネス」


一瞬、教室が静かになった。全員の視線がリリアに集まる。だが本人だけが、状況をまだ飲み込めていなかった。


「え?」


ぽかんとした顔だった。


「呼ばれてる」

「私?」

「あなた」


隣でミレーユが小さく笑いながら背中を押す。リリアはようやく立ち上がった。最初はぱらぱらと、それから徐々に大きくなる拍手。教室中の視線を一身に浴びながら、リリアは自分の顔が熱くなっていくのを感じた。


こんな経験は初めてだった。可愛い子を集めたい、という理由で冒険者を目指したはずだった。それなのに今、自分の名前が、大きな意味を持って呼ばれている。不思議な感覚だった。


「最後にミレーユ・アスター」


ミレーユも呼ばれる。さらに拍手。四人が教壇の前に並んだ。


アリア先生は、四人の顔を順に見て、微笑んだ。


「よく頑張りました」


短い言葉だった。だが、この一年の全部が、その一言に詰まっている気がした。


---


授業終了後、当然大騒ぎになった。


「帝都ですわ!」

「帝都だな」


ミレーユも興奮している。そしてリリアは、


「大きい?」


それだった。


「そこですの?」

「そこ」


即答だった。三人は顔を見合わせて笑った。真面目な話をしていたはずなのに、結局いつも通りだった。それが、少しだけ安心する空気を作っていた。


---


放課後、校門にルシェが立っていた。今日も、市場から時間をかけてやって来たらしい。


「ルシェ? また来たの?」

「聞きました!」


開口一番、大きな声だった。


「推薦の話、本当ですか!?」

「なんで知ってるの」

「商人はなんでも知ってるんです!」


胸を張っていたが、種明かしはすぐだった。今回の推薦の件は、帝都との取引を担う商人ギルドにも報告が回っていたらしい。父の店にも、ギルド経由で噂が届いていた。


「父が、リリアさんたちの名前を見て教えてくれて。いても立ってもいられなくて」


「おめでとうございます!」


満面の笑みだった。それから少しだけ、視線が下を向く。


「いいなぁ」


小さな声だった。羨ましさと、寂しさが半分ずつ混ざっているような声だった。


「ルシェも行く?」

「推薦されてませんよ!?」


その通りだった。ルシェは苦笑いしながらも、少し考え込む。市場での日々、値切り交渉、帳簿と向き合った夜のことを思い出しているようだった。


「でも、いつか商人として行きます」


顔を上げて、はっきりと言った。それは、これまでの「地味」という言葉に押し込められていた夢とは、少し違う響きだった。


「絶対、皆さんに負けないくらい大きな商売、帝都でやってみせます」


リリアは笑う。


「じゃあ向こうで会えるね」


ルシェも笑った。


「そうですね。約束です」


---


その日の帰り道、夕焼けの中を四人で歩いた。いつもより口数が少なかった。嬉しい。でも、少し不安。そんな気持ちが、誰の胸にもあった。


帝都は遠い。今の生活も変わっていくだろう。新しい仲間が増えるかもしれない。強い相手とも出会うだろう。今日まで積み上げてきたものが、これからどう変わっていくのか、まだ誰にも分からなかった。


リリアは歩きながら、空を見上げた。夕焼けが、いつもより鮮やかに見えた。


「楽しみ」


その一言に、三人が思わず笑う。結局、そういう性格だった。怖がるより前に楽しむ。それが、リリア・フォルネスだった。


四人の影が、夕日に長く伸びていた。まだ知らない景色の方角へ、少しずつ、伸びていくように。

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