第18話 「若手交流大会」
「大会?」
リリアが聞き返した。ある日の朝だった。教室の空気は少し浮ついている。アリア先生が黒板の前に立ち、紙を掲げた。
『若手冒険者交流大会』
大きく書かれた文字に、生徒たちがざわつく。リリアも少し興味が湧いた。
「何するの?」
「模擬戦や訓練成果の発表ね」
「戦うんだ」
「戦うわ」
それは少し楽しそうだった。冒険者見習いたちは定期的に実力を競う。他校との交流、将来有望な人材の発掘。目的はいろいろあった。そして、成績上位者は帝都への推薦候補になる。その言葉に、教室がさらにざわついた。帝都、冒険者にとって憧れの場所だった。もちろんリリアも知っている。主に美味しい食べ物が多そうだから。
「帝都って大きい?」
「話聞いてた?」
「半分くらい」
正直だった。
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数日後、大会当日。会場は町の訓練場だった。観客席もあり、他校から来た生徒も多く、いつもより賑やかだった。
「人多い」
リリアが周囲を見る。少しだけ緊張していた。本当に少しだけ。セリナは木剣を握り、エレノアは深呼吸を繰り返し、ミレーユも落ち着かない様子だった。ルシェは観客席で応援するらしい。
「皆さん頑張ってください!」
元気だった。
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試合が始まる。最初はセリナだった。相手は他校の男子生徒、体格も良く、強そうだった。木剣がぶつかる。一合、二合、三合。相手の剣先がわずかに流れた瞬間を、セリナは見逃さなかった。
ぱしん。
綺麗な音とともに、相手の剣が弾き飛ばされる。勝負あり。
観客席が沸いた。
「おおー!」
「かっこいい!」
「座って」
ミレーユが言う。セリナは少し照れていた。普段は無表情に近い。だから分かりやすかった。
次はエレノアだった。魔法勝負。開始直後、指先がわずかに震えているのが見えた。実戦での魔法は、まだ何度も経験があるわけではない。それでも、震えを抑え込むように、風魔法を丁寧に組み上げていく。相手の足元を薙ぎ払い、体勢を崩させる。会場から歓声が上がった。
「お嬢様すごい」
「誰がお嬢様ですの」
「お嬢様」
否定できなかった。だが、その顔にはやり切った安堵が浮かんでいた。
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そして、ついに、リリアの番だった。
「リリア・フォルネス」
名前が呼ばれる。会場へ出る。相手は同年代の少年だった。少し緊張している。リリアは、そこまで緊張していない。
「よろしく」
「よ、よろしく」
開始の合図が鳴る。その瞬間、リリアの体が弾けるように動いた。
これまで、木の枝を渡り、迷子になった森を歩き回り、体力だけは誰よりも有り余っていた。その積み重ねが、今この一瞬に全部出た。右へ、左へ、後ろへ。予測できる動きが一つもなかった。
「なんだあれ」
「速すぎる」
相手も観客も驚いていた。追いつけない。視線すら追いつかない。
「止まれ!」
相手が叫ぶ。無理だった。そもそも本人にも止まる気はなかった。ただ、限界はあった。走り回った勢いのまま、息が一気に上がる。
「はぁっ…!」
ぴたり、と足が止まる。単純に、体力が切れただけだった。観客席が静まり返る。相手も、次にどう動けばいいのか分からず静かになった。
「……」
「……」
誰も動かなかった。奇妙な時間だった。
その隙に、相手が踏み込んだ。リリアは咄嗟に体を捻る。避けたのか、力尽きて転んだだけなのか、本人にも分からなかった。だが結果として、伸びた足が相手の足に絡み、相手も一緒に転んだ。
終了。勝負あり。静かだった。非常に静かだった。
アリア先生が頭を抱える。
「勝ちは勝ちね」
「勝ち!」
リリアは大喜びだった。試合内容はともかく、勝った。それが大事だった。
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大会終了後、表彰式が行われる。セリナは剣術部門で高評価、エレノアも魔法部門で評価された。ミレーユも安定した成績を残した。そしてリリア。
特別賞。理由、『独創的な戦闘スタイル』。
「褒められた」
「たぶん褒めてる」
本人もよく分かっていなかった。
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会場には帝都から来た関係者も控えていた。手元の記録には、四人の名前が並んでいた。
セリナ・クレスト。剣技優秀。
エレノア・ローゼンベルク。魔法適性、貴族家出身。
ミレーユ。安定した実力、指導力あり。
リリア・フォルネス。回復水、レベル21、短剣使い、そして予測不能な動き。
少しずつ、確実に、帝都との距離が縮まっていた。本人たちは、まだそのことに気付いていない。
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帰り道、夕日が眩しかった。
「楽しかった」
「そうだね」
セリナも少し満足そうだった。エレノアも機嫌が良い。ルシェも大きく拍手していた。みんな笑顔だった。
夕日に染まる五人の影が、いつもより少しだけ大きく見えた気がした。
「お腹空いた」
リリアは、それしか考えていなかった。




