第17話 「初めての護衛依頼」
「護衛依頼です」
アリア先生が言った。教室が静かになる。薬草採取ではなかった。久しぶりだった。リリアも少し驚く。
「護衛?」
「そうよ」
「冒険者っぽい」
「冒険者だからね」
ミレーユが言った。その通りだった。今回の依頼は商隊の護衛、近くの町まで荷物を運ぶ仕事だった。危険は少ない。だが、まったく危険がないわけでもない。帝都推薦を目指す生徒達にとっては、ちょうど良い実践訓練だった。
「やった」
リリアは嬉しそうだった。
「薬草じゃない」
本当に嬉しそうだった。
「薬草に恨みでもあるの?」
「ない」
「ないんだ」
「でもまた薬草だったら驚く」
それは少し分かる気がした。
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翌日、町の門前。商隊が待っていた。荷馬車二台、商人が三人、大人の護衛が二人。そして見習い冒険者が四人、リリア、ミレーユ、セリナ、エレノア。
さらに、少し離れた場所に見覚えのある顔があった。
「ルシェ?」
「あ、皆さん!」
驚いたのはリリアたちだけではなかった。ルシェも、まさかここで会うとは思っていなかったらしい。
「なんで来たの?」
「今回の商隊、父の知り合いの隊なんです。人手が足りないからって、荷物番として声をかけてもらって」
なるほど、と全員が納得した。学校の生徒ではないが、商人見習いとしての仕事の一環らしい。
「みんなと一緒だと心強いです」
「私たちも」
「よろしくお願いします」
こうして、見習い冒険者四人による護衛と、商人見習いルシェによる荷物番、五人揃っての商隊同行が始まった。
「若いなぁ」
商人のおじさんが苦笑する。
「大丈夫か?」
「たぶん」
「たぶん!?」
不安になったらしい。仕方ない、リリアだから。
出発する。街道は平和だった。青空、穏やかな風、魔物も見えない。
「楽そうだね」
「そうだといいけど」
セリナは周囲を見渡す。真面目だった。いつも通り。エレノアは荷馬車の横を歩き、ルシェは商人達と何やら話し込んでいた。値段の付け方について聞いているらしかった。楽しそうだった。
「ルシェ」
「はい?」
「お金持ちになりたいの?」
「なりたいです!」
即答だった。夢が大きい。良いことである。
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しばらく歩く、その時だった。
「止まれ!」
前方から怒鳴り声が響く。全員が立ち止まった。街道の真ん中に、数人の男達が立っている。剣、棍棒、顔を隠す布。どう見ても堅気ではなかった。
「盗賊ですわね」
「盗賊だな」
「盗賊ね」
「盗賊です」
全員の意見が一致した。リリア以外。
「本物?」
「本物だと思う」
盗賊達が距離を詰めてくる。歩き方に迷いがなかった。おそらく、この道での襲撃は初めてではない。商人達の顔から血の気が引いていく。大人の護衛が武器を構えたが、人数はこちらが明らかに少なかった。
その時、リリアの体がひとりでに動いた。進化した直感が、警鐘のように背中を押していた。
「リリア?」
ミレーユが驚く。だが、リリアは盗賊へ向かわなかった。荷馬車の前へ走り、そこに立ちはだかる。
「通らせない」
珍しく、真面目な声だった。盗賊達が一瞬だけ足を止める。小娘一人が壁のように立ちはだかる、その姿に戸惑ったらしい。
その隙を、セリナが見逃さなかった。前へ飛び出し、腰の剣を抜く。銀色の刃が陽の光を弾いた。
盗賊が慌てて武器を構える。だが遅い。
がきん!
金属音が響く。セリナの剣が相手の武器を弾き飛ばした。さらに踏み込み、剣の峰で胴を打つ。
「ぐはっ!」
盗賊が地面に転がった。
「ナイス」
「戦いながら喋るな」
後方ではミレーユが杖を構える。火球が飛び、盗賊達の足元に着弾した。
「うわっ!」
相手が慌てて距離を取る。さらに、エレノアが小さな光球を放った。盗賊達の目の前で弾け、視界を奪う。
「目が!」
「なんだこれ!」
混乱が広がった。
その横で、ルシェは荷馬車の車輪に両手を回し、必死に守っていた。指先が震えている。冒険者ではない、ただの商人見習いだった。逃げてもおかしくない状況だった。それでも、動かなかった。
リリアはその姿を横目に見て、少し嬉しくなった。みんな強くなっている。少しずつ、確実に。
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盗賊の一人が舌打ちする。
「割に合わねえ、こんな護衛……!」
「撤退するぞ!」
決断は早かった。数を見誤ったと悟ったのか、盗賊達は森の中へ一斉に逃げていった。
静かになる。数秒後、
「終わった?」
「終わったな」
「勝った?」
「勝ったわよ」
「おおー!」
リリアは満足そうだった。本人が一番緊張していなかった。
商人達はしばらく呆然としていた。やがて、商人のおじさんが深く頭を下げる。
「助かったよ」
真剣な声だった。リリアは少し困る。感謝されることに、まだ慣れていない。
「仕事だから?」
恐る恐る言う。おじさんは笑った。
「それでも助かったんだ」
リリアも少し笑う。
「どういたしまして」
ぎこちなかった。ミレーユが吹き出す。セリナも笑った。エレノアも微笑む。ルシェは、まだ少し震える手を、こっそり握りしめて笑っていた。
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その後、商隊は無事に目的地へ到着した。依頼成功。初めての護衛任務は無事終了である。
帰り道、夕日が街道を赤く染めていた。
「冒険者っぽかったね」
「護衛依頼だからな」
「ちゃんと役に立てましたわ」
「少し自信が付きました」
ルシェも嬉しそうだった。冒険者ではなくても、今日、逃げなかった自分に、少しだけ自信が持てたようだった。
ミレーユは四人を、そしてルシェを見る。
「前より連携できた」
静かになる。確かにそうだった。誰かが戦い、誰かが守り、誰かが支える。以前よりずっと自然だった。まだ未熟。でも、確実に前へ進んでいる。
リリアは少し考えてから言った。
「じゃあ次は可愛い依頼がいい」
「何よそれ」
「可愛い商人とか」
「依頼じゃありませんわ」
「そうですね」
セリナは苦笑する。五人の笑い声が、夕暮れの街道に響いた。
まだ新人。まだ見習い。それでも五人は少しずつ成長していた。帝都への推薦、そして未来の冒険者へ向かって。一歩ずつ前へ進んでいた。




