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可愛い子を十人集めたいだけだったのに、なぜか帝国を救うことになりました  作者: ごまだんご
第2章 新人冒険者編

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第15話 「商人娘」

「値切られてる」

「値切られてますわね」

「値切られてるな」


全員が同じ方向を見ていた。鉱山町の市場、その真ん中で、少女が店主相手に必死に言い返していた。


今日は学校からの依頼で薬草を納品しに来ている。護衛でも採取でもない、ただの配達。平和な依頼のはずだった。本来なら。


「いや、これは違うんです!」


年齢はリリアたちと同じくらい。茶色の髪、肩までの長さ、小柄な体格。両手には大量の荷物を抱え、それでも声だけは必死だった。


店主のおじさんが腕を組む。


「高いんだよ」

「適正価格です!」

「高い」

「高くないです!」


言い争いというより、少女が一方的に押されている構図だった。


「何してるの?」

リリアが首を傾げる。

「商売」

「難しそう」

「難しいよ」


---


すると、少女がふとこちらを見た。目が合う。そのまま迷いなく走ってきた。


「お願いです!」


全員が驚く。特にミレーユ。嫌な予感がした。最近こういうパターンが多い。


「荷物持ってください!」


予想外の頼みだった。だが、リリアの返事は速かった。


「いいよ」

「早いな!?」


ミレーユが叫ぶ。少女は少し感動していた。


「ありがとうございます!」


荷物を渡される。思ったより重かった。リリアがよろけ、ミレーユが咄嗟に支える。


「重い」

「見れば分かる」


---


その後、市場を歩きながら話を聞く。少女は商人見習い、名前はルシェ。父親の露店を手伝っているらしい。


「大変そう」

「大変です!」


力強く頷く。


「最近、全然売れなくて」

「何で?」

「それが分からないんです」


商品は決して悪くない。値段も、周りの店とそう変わらない。それでも、素通りされる。ルシェの声は、いつも少し早口で、少し不安げだった。父の代からの得意先はもう他の店に流れていて、新しい客をどう掴めばいいのか、ずっと手探りだった。


「父はうまいんです、こういうの」

「お父さんは?」

「今日は具合悪くて、寝込んでます。だから、私が」


その一言で、必死さの理由が少し見えた気がした。


---


しばらく一緒に売り歩く。商品を並べ替え、値札を書き直し、通りがかる客に声をかける。リリアには、正直よく分からない世界だった。


「なるほど」

「分かりました?」

「全然」


ルシェが崩れ落ちる。


一方、エレノアは妙に詳しかった。貴族教育の一環で経済も学んでいたらしく、値付けの相談に的確な助言をしていた。セリナは値段そのものに興味がなく、ミレーユは真面目に話を聞いていた。理解できていないのは、リリアだけだった。


---


昼過ぎ、それでも商品はあまり動かなかった。ルシェが荷物の脇に座り込み、肩を落とす。


「難しいです……」


その声には、疲れがはっきり滲んでいた。


その時、リリアが商品の一つを手に取った。木彫りの小鳥だった。丁寧に彫られた羽の一枚一枚が、日の光を受けて陰影を作っている。


「これ可愛い」

「え?」


ルシェが顔を上げる。


「本当ですか?」

「うん。すごく可愛い」


その声には、お世辞の気配が一切なかった。リリアはいつも本気だった。可愛いと言う時も、困っている人を助ける時も、手加減というものを知らなかった。


その本気の声は、思いのほか遠くまで届いた。


「可愛いのか?」


隣を通りかかった客が足を止める。


「可愛い」

「そんなに?」

「可愛い」


一人、また一人と、人が集まり始めた。リリアの声の大きさと、迷いのなさに、つい足を止めてしまうらしかった。


---


気付けば、木彫りの小鳥は次々と売れていった。ルシェが固まる。


「え?」


本当に売れていた。一時間後には、商品はほとんど残っていなかった。ルシェは震える手で、空になった木箱を見つめていた。


「売れた……」

「おめでとう」

「売れたぁぁ!」


泣いた。嬉し泣きだった。


---


広場のベンチで一息つく。ルシェが深々と頭を下げた。


「ありがとうございました」

「私何かした?」

「しましたよ!?」


全員が思った。かなりした。


ルシェは久しぶりに、明るい顔で笑った。


「皆さん、冒険者なんですよね」

「見習い」

「そうなんですね……」


少し羨ましそうな声だった。


「ルシェは?」

リリアが聞く。

「商人になりたいんです。父より、もっと大きく商売したい」


即答だった。目には、迷いのない光があった。ティアが鍛冶を語る時の目と、少し似ていた。


「今日、皆さんが来てくれなかったら、たぶん今日も駄目だったと思います」

「そんなことないよ」

「いえ、絶対そうです」


ルシェは静かに、でもはっきりと言い切った。誰かに助けられた、という事実を、ちゃんと受け止めているようだった。


リリアは笑う。


「いいね、その目」

「そうですか?」

「うん」


そして、少し考えたあと、付け加える。


「ルシェも可愛いし」

「関係あります?」

「ある」


なぜか断言した。


---


夕暮れ、依頼も終わり、別れる時間になる。ルシェが大きく手を振った。


「また会いましょう!」

「うん!」


市場を後にしながら、ミレーユが聞いた。


「リリア」

「なに?」

「もしかして」

「うん?」

「また増えた?」


リリアは満面の笑みで答えた。


「五人目」


即答だった。


可愛い子リスト、五人目追加。ルシェ・マリオン、未来の優秀な商人。そして、リリアたちの大切な仲間になる少女である。それはもう、時間の問題だった。

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