第14話 「はじめての一振り」
あれから、リリアたちは何かと理由をつけては工房に立ち寄るようになっていた。薬草の納品帰り、依頼の道中、時にはただの寄り道。
「また来たのか」
数日ぶりに顔を出すと、ティアは呆れた顔でそう言った。だが、手は止めなかった。慣れた反応だった。ミレーユも、セリナも、エレノアも一緒だった。半分は依頼のついで、半分はもう遊びだった。
「今日は納品帰り」
「先週も同じこと言ってたな」
「先週も納品だったから」
言い訳ではなく事実だった。学校からの薬草納品は、ちょうど鉱山町を通るたびに発生していた。都合が良すぎるくらいだった。
面白いことに、最近はティアの方から声をかけてくることも増えていた。学校近くの市場で買い出しに来た帰り、ふらりと女子寮の方まで足を伸ばして「差し入れだ」と鉄串の焼き菓子を渡していったこともあった。ぶっきらぼうに置いていくだけで、長居はしない。それでも、確実に距離は縮まっていた。
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工房へ入ると、今日も炉が赤く燃え、職人たちが忙しく手を動かしていた。ティアも槌を握る。
カン。カン。カン。
規則正しい音が響く。何度見ても、格好良かった。
「すごい」
「毎回言うな」
「すごいから」
ティアは槌を止めずに、少しだけ耳を赤くした。褒められることに弱い。この数日で、リリアはそれに気付き始めていた。
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その時、工房の奥からドワーフの祖父が近付いてきた。
「嬢ちゃん、腰の得物を見せてみろ」
リリアの短剣は、父から譲り受けたものだった。祖父はそれを受け取り、光にかざす。刃を指でなぞり、柄を握り、重さを確かめるように何度か振ってみる。長い沈黙だった。
「悪くない鋼だ。手入れもそれなりにされてる」
まず、そう言った。それから、少し眉を寄せる。
「だが、これは大人の男が使う長さだ。嬢ちゃんの腕の長さと、この重さは合わん」
セリナも横から覗き込み、頷いた。
「確かに。あんたは速さで戦うタイプだ。この重さじゃ振り遅れる」
言われてみれば、実戦のたびに一瞬だけ剣筋が遅れる感覚があった。自分でも気付いていなかった癖だった。
「もっと自分に合った得物、持った方がいい」
祖父はそう言い残し、また奥の作業場へ戻っていった。
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「作るか?」
ティアが言った。
「なにを?」
「新しい短剣。お前用の」
静かになった。リリアが固まる。三秒、五秒、十秒。そして、
「ほしい」
満面の笑みだった。
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翌日から、ティアは真剣な顔で採寸を始めた。リリアの手のひらの大きさ、握った時の指の間隔、腕の長さ、振り下ろす角度。
「握って」
「こう?」
「もう少し浅く」
指示は的確だった。工房に何度通っても、こうして真剣な顔のティアを見るのは初めてだった。
「重さはどれくらいがいい?」
「軽い方がいい」
「軽すぎると威力が落ちる」
「じゃあ、ちょうどいいくらい」
「それが一番難しい注文だ」
ティアは苦笑しながらも、リリアの動きを何度も観察した。素振りをさせては首をかしげ、また調整する。木の試作品を何本も作っては、握らせ、振らせ、削り直す。
「これは?」
「ちょっと重い」
「これは?」
「軽すぎる」
「贅沢な奴だな」
そう言いながらも、ティアの手は止まらなかった。妥協はしなかった。工房の隅で、祖父がその様子を静かに見ていた。孫が誰かのために、ここまで手をかけている姿を、初めて見たような顔だった。
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数日後、完成した。
炉の熱を浴びた細身の刃が、光を受けて鈍く輝いていた。装飾はほとんどない。だが、無駄が一切なかった。
リリアは受け取り、そっと構える。振る。
ヒュッ。
風を切る音は、驚くほど小さかった。それでいて、確かな重みが手に伝わってきた。
「おお……」
思わず声が漏れる。以前の短剣とは、まるで別物だった。まるで、腕の一部になったようだった。
「どうだ」
「軽い。でも、ちゃんと力が伝わる」
「分かってきたじゃないか」
ティアが少し誇らしげに笑う。何日もかけて調整した甲斐があったという顔だった。
「ありがとう」
珍しく、まっすぐな声だった。ティアは一瞬驚いた顔をして、それから小さく笑った。
「大事に使えよ。手入れ、教えてやるから」
「うん」
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帰り道、リリアは何度も短剣を見た。日の光を受けて刃が輝くたび、口元が緩んだ。
「そんなに気に入ったの」
ミレーユが笑う。
「うん」
「よかったね」
「ティア、ほんとに可愛い」
「結局そこに戻るんだ」
ミレーユはため息をつきながらも、少し笑っていた。
「でも」
続けて、ミレーユが呟く。
「最近、向こうから来ることも増えたよね」
「うん」
「気に入られてるんじゃない?」
「そうかな」
満更でもない顔だった。
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こうして、ティア・ブロム、天才鍛冶師の少女は、通う日々を重ねるうちに、いつの間にかリリアたちの仲間になっていた。本人はまだ、それを認めていなかった。それでも、周囲から見れば、もう疑いようのないことだった。




