第13話 「鍛冶師の娘」
初夏だった。
薬草。薬草。また薬草。
「今日は薬草じゃないよね?」
リリアが念を押す。
「今日は納品」
ミレーユが答える。
「夢がない」
「これも立派な仕事だから」
今日の依頼先は少し離れた鉱山町だった。学校が育てている薬草を町の診療所へ届ける仕事。危険は少ない。その代わり、暇だった。少なくともリリアにとっては。
街道を進みながら、セリナは周囲を警戒し、エレノアは道端の花に目を細め、ミレーユは依頼書を何度も確認していた。リリアだけが、することがなかった。そして暇になると、ろくなことをしない。
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町の入り口が見えてきた頃、カン、カン、カンという規則正しい金属音が耳に届いた。音のする方を見ると、大きな工房があった。開け放たれた扉の奥に、炉の赤い光が揺れている。
「かっこいい」
リリアの目が輝いた。次の瞬間には、もう駆け出していた。
「待ちなさい!」
ミレーユの声は間に合わなかった。
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工房の中は熱気に満ちていた。鉄の匂い、火花の音、壁に並んだ武具。その奥で、赤毛の少女がハンマーを振り下ろしていた。日に焼けた肌、小柄な体、それに似合わない力強い一撃。
カン! 火花が散った。
リリアはその光景に見とれていた。
「かっこいい」
少女が振り返る。
「ん? 誰だ」
口調は少し乱暴だった。だが、手は止めていた。作業中でも人を無視しない性分らしい。
「リリア」
「そうか。俺はティア」
短いやり取りだった。それでも、ティアはハンマーを台へ置き、額の汗を拭った。
「見学か?」
「見てたら来ちゃった」
「変な奴だな」
呆れたように言いながらも、追い返しはしなかった。
「今、何作ってるの?」
「短剣。冒険者向けの、安いやつ」
「安いのに丁寧だね」
作業を見ていたのは、ほんの数分だった。それでも、リリアは気付いていた。値段に関係なく、ティアの手つきには一切の妥協がなかった。
「安物だからって手を抜いたら、それ使う奴が困るだろ」
ぶっきらぼうな口調の奥に、確かな誇りがあった。リリアは素直に感心した。
「かっこいい」
「さっきも言った」
「二回言うくらいかっこいい」
ティアは少し照れたように顔を背けた。分かりやすかった。
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その時、工房の奥から大きな体の男が姿を見せた。立派な髭、太い腕、年季の入った前掛け。ドワーフの鍛冶師だった。
「ティア、客か?」
「客じゃない。勝手に入ってきた」
「そうか」
男は特に気にした様子もなく、リリアを一瞥した。
「嬢ちゃん、うちの孫の腕、どう見えた」
「すごかった」
「だろうな」
男は満足げに頷き、また工房の奥へ戻っていった。多くを語らないが、孫の腕を疑っていないことだけは伝わってきた。
「じいちゃん、いつもああ」
「優しいね」
「厳しいだけだよ、普段は」
そう言いながらも、ティアの声はどこか柔らかかった。
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しばらくして、遅れてミレーユたちが追いついた。
「もう、勝手に――」
言いかけて、ミレーユは工房の中を見渡し、言葉を止めた。並んだ武具の美しさに、目を奪われたらしい。セリナは剣を、エレノアは装飾の細工を、ミレーユは工具の並びを、それぞれ興味深そうに眺めた。
リリアはというと、飾られていた大ハンマーに手をかけていた。
「持てる」
「無理だと思う」
ティアが冷静に言う。
持ち上がらなかった。びくともしなかった。
「うそ」
「鍛えろ」
ティアが笑った。悔しかった。すごく悔しかった。
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依頼を終え、帰る時間になる。
「また来る」
リリアが言った。
「勝手にしろ」
ぶっきらぼうな返事だった。だが、工房の入り口まで見送りに出てきたのは、他の誰でもなくティアだった。
「今度は、ちゃんと客として来い」
「見学は駄目?」
「見学でもいい」
矛盾していたが、拒否ではなかった。それで十分だった。
リリアの中で、可愛い子リスト、四人目が追加された。ティア・ブロム、未来を期待される鍛冶師である。
まだ本人は知らない。リリアも知らない。ただ一つだけ確かなことがある。また、友達が増えた。それだけで、リリアは満足だった。




