第12話 「森の迷子」
数日後、再び森だった。また薬草採取だった。リリアは思った。
「薬草って多いね」
「依頼だからね」
「飽きないのかな」
「薬草に聞いて」
会話が適当だった。
今回も四人で行動していた。最初はちゃんと行動していた。本当に最初だけは……
「見て!」
リリアが叫ぶ。青い蝶だった。珍しい種類で、羽が光を受けてきらきらと揺れている。リリアの目が輝いた瞬間、もう体が動いていた。
「待って、追いかけちゃ——」
ミレーユの声が届く前に、リリアは茂みの奥へ消えていた。
十分後。
「……」
見覚えのない木々。知らない苔の匂い。リリアは辺りを見回し、あっさりと結論を出した。
「迷った」
なぜか嬉しそうだった。
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一方、ミレーユたち。
「リリアは?」
沈黙。全員が周囲を見渡す。いない。
「またですの!?」
エレノアが両手で顔を覆う。三度目だった。今週だけで。
「探すぞ」
セリナが先頭に立つ。剣を抜きはしなかったが、目つきは戦闘中に近かった。
「毎回思うんですけど」
エレノアが歩きながら言う。
「あの子、方向感覚どうなってますの?」
「無いんだと思う」
ミレーユが即答する。
「無いなら育ててほしいですわ」
「同感」
そう言いながらも、三人の足取りは速かった。文句を言いつつ、誰も本気で怒ってはいなかった。慣れていること自体が、少しおかしかった。
セリナが足を止め、地面の草の乱れを指差す。
「ここを通ったな」
「よく分かるね」
「毎回見てるからな」
苦笑いだった。それも含めて、いつものことだった。
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その頃、リリア本人は森の中を歩いていた。
「冒険だ」
違う。遭難だった。だが本人は気にしていない様子だった。
歩いているうちに、ふと足が止まった。理由はなかった。ただ、右側の茂みが妙に気になった。何かに引き寄せられるような、うっすらとした感覚だった。
「なんとなく、こっち」
茂みをかき分けると、視界が開けた。そこには、淡い青色の葉が一面に広がっていた。依頼書に描かれていたものと、同じ葉だった。
「あった」
声が漏れた。数えきれないほどの薬草が、群れをなして生えていた。学校が長年探していた群生地だと、まだ知らないまま、リリアはただその光景に見とれていた。
「いっぱい採れる」
深く考えず、リリアは採取を始めた。
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一時間後、捜索隊がようやくリリアを見つけた。
「いた!」
「いた」
薬草の山に囲まれて、リリアは満足げに座っていた。三人がその場で固まる。
「なにこれ」
「薬草」
見れば分かる、という顔だった。
「どうしたの、この量」
「いっぱいあった」
その通りとしか言いようがなかった。エレノアが薬草の山を覗き込み、目を見開く。
「……この密度、学校が探していた群生地じゃありませんこと?」
「たぶんそう」
セリナも近づいて確認する。
「間違いない。地図に載ってないやつだ」
三人の顔つきが変わった。ただの迷子事件が、思わぬ形で大発見に変わった瞬間だった。
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学校に戻り、アリア先生に報告する。
「つまり」
先生が資料を見ながら言う。
「迷子になったら見つけたと」
「うん」
先生はしばらく黙り、それから額を押さえた。
「三年前から捜索隊を組んでも見つからなかった群生地を、迷子になったついでに」
理解の範疇を超えていたらしい。それでも、報告書には大きく「重要発見」と書かれることになった。
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その日の夜、寮の部屋。リリアはベッドへ倒れ込む。
「ミレーユ」
「なに?」
「迷子って便利かも」
「違うから」
即答だった。だが、ミレーユは少し考えてから付け加えた。
「でも、なんとなく分かるんだよね、あなた」
「なにが?」
「行く方向。今日も、なんとなくって言ってたでしょ」
リリアは天井を見上げる。自分の中にある、あの名前だけの能力を思い出す。
「直感かな」
「かもね」
窓の外では星が輝いていた。リリアの冒険者生活は、少しずつ広がり始めていた。そして、その足取りを導いているものが何なのか、本人はまだ、うっすらとしか気付いていなかった。




