第11話 「薬草採取再び」
「薬草採取ですわ」
依頼掲示板の前で、エレノアが依頼書を手に言った。
「薬草」
「薬草だな」
「薬草ね」
リリア、セリナ、ミレーユが順番に呟く。四人は依頼書を見つめた。最近少しずつ難しい依頼も受けられるようになっていた。帝都推薦を目指すためである。
「前にもやったよね?」
「今回は違いますわ」
エレノアが依頼書を指差す。『高品質薬草採取』。通常の薬草より奥地に生えている。危険も少し高い。報酬も高い。
「お金!」
リリアが目を輝かせた。
「薬草ですわ」
「可愛い子増える?」
「増えませんわ」
即答だった。
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四人は森へ向かった。天気は快晴、絶好の依頼日和だった。以前なら薬草よりキノコを集めていた。主にリリアが。今回は違うはずだった。信用度は低かったが。
しばらく歩くと、目的の薬草が見つかった。淡い青色の葉。依頼書に描かれていたものと同じだった。
「これですわ」
「本当だ」
リリアがしゃがみ込む。
「取っていい?」
「確認してからよ」
「はい」
珍しく素直だった。少しだけ成長していた。たぶん。
四人は薬草を摘み始める。セリナは無駄なく採取し、エレノアも丁寧に手を動かしていた。ミレーユは依頼書と見比べながら質を確認する。リリアはというと、
「見て」
「何?」
「大きい」
薬草だった。普通だった。
「普通ですわね」
「そっか」
少し残念そうだった。平和だった。
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がさっ。森が揺れた。全員が同時に振り向く。
「来るぞ」
セリナの声が、いつもより低くなった。剣に手を掛ける。空気が変わる。茂みが大きく揺れ、飛び出してきたのは灰色の狼、フォレストウルフだった。一匹。数は少ないが、見習い冒険者にはまだ荷が重い相手だった。
「狼!」
「見れば分かる!」
いつものやり取りだったが、声には緊張が滲んでいた。
狼が地を蹴る。速い。セリナが前へ出て、剣で受け止めた。金属と牙がぶつかる鈍い音が響く。
「止めた!」
「戦闘中だ!」
余裕のない声だった。狼はすぐに体勢を立て直し、今度は横へ回り込む。狙いはエレノアだった。
「きゃっ!」
エレノアが後ずさる。慣れていない動きだった。膝が笑っている。狼との距離は、もう三歩もない。
その瞬間だった。リリアの視界の端で、何かが光ったような気がした。理由も、根拠もない。ただ、体が先に動いていた。
「だめ!」
考えるより先に、エレノアの前へ飛び出していた。短剣を構える。自分でも、なぜ間に合ったのか分からなかった。まるで、狼が動く一瞬前を知っていたかのようだった。
――直感。
そういえば、そんな名前だった。使い方も分からない、ただの言葉だと思っていた。だが今、確かに何かがリリアの背中を押していた。
リリアの動きに、狼がわずかにひるむ。その隙を、ミレーユは見逃さなかった。
「そこ!」
火球が飛ぶ。命中。さらにセリナが踏み込み、一撃を叩き込む。狼は大きく後ろへ弾かれた。だが、まだ完全には諦めていない。牙を剥き、再び構える。緊迫した空気が森を満たす。
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その時、エレノアが震える手を、それでも前へ突き出した。
「わたくしも、魔法を使えますわ」
全員が振り返る。
「今!?」
「今ですわ!」
声は震えていた。実戦で魔法を使うのは、初めてだった。ローゼンベルク家の令嬢として、魔法の授業は誰よりも真面目に受けてきた。だが、それはいつも安全な訓練場の中でのことだった。狼の唸り声を前にして、指先まで冷たくなっていた。
それでも、エレノアは目を閉じなかった。
小さな光球が指先に生まれる。震えは止まらない。それでも、狙いだけは外さなかった。
「はぁっ!」
放たれた光球が、狼の目の前で弾ける。
「ぎゃうっ!?」
驚いたのは狼だった。完全に虚を突かれた様子で、そのまま身をひるがえし、森の奥へと駆けていった。
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静かになる。数秒後、
「勝った?」
「勝ったわね」
ミレーユが答えた。
「おおー!」
リリアが飛び跳ねる。セリナが剣を納めながら、小さく息を吐いた。
「前より戦えたな」
ミレーユも頷く。確かにそうだった。以前なら慌てて終わっていた連携が、今回はちゃんと噛み合っていた。
エレノアは、まだ指先が震えていた。だが、その顔にはどこか誇らしげな色が浮かんでいた。
「役に立ちましたわ」
「びっくりした」
「何にですの?」
「狼より」
「失礼ですわ!」
ミレーユが吹き出す。セリナも笑った。
リリアは、まだ自分の手のひらを見つめていた。
「今の、なんだったんだろう」
「今の?」
「体が勝手に動いた」
ミレーユが少し考え、思い出したように言う。
「直感じゃない?」
「あ」
そういえば、と思う。今までよく分からなかった直感という名前だけの能力。使い方も分からない、ただの言葉だと思っていた。でも、もしかしたら、もう何度も使っていたのかもしれなかった。
「便利」
結局、その一言で片付けた。ミレーユは呆れたように笑った。
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その後、薬草採取を再開する。籠は無事に薬草でいっぱいになった。
帰り道、夕日が森を赤く照らしている。セリナが言った。
「前より強くなったな」
「私?」
「みんなだ」
静かになる。エレノアも頷いた。
「少しずつですけれど」
「ちゃんと成長してるわ」
リリアは少し考える。そして言った。
「じゃあ次はもっと強い薬草採る」
「そんな分類はありませんわ」
「無いわね」
「無いな」
全員一致だった。リリアも笑う。四人も笑う。
まだ新人。まだ見習い。それでも、四人は少しずつ前へ進んでいた。帝都への推薦。そして、まだ見ぬ仲間達との出会いへ向かって。




