第10話「レベル21」
「今の、何?」
放課後、訓練場でセリナが木剣を止めた。リリアの動きが、ほんの一瞬だけ変わった。振り下ろす速さでも、力でもない。何かが、内側で切り替わったような感覚だった。
「分からない」
「分からないのに動きが変わったのか」
「うん」
正直な答えだった。セリナはしばらくリリアを見つめ、それから木剣を下ろした。
「先生に見てもらった方がいい」
「大袈裟」
「大袈裟じゃない」
有無を言わせない口調だった。押し切られる形で、リリアは職員室へ向かうことになった。
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「レベルが上がったみたいで」
リリアが言うと、アリア先生は書類から顔を上げた。
「みたいで、じゃなくて確認しなさい」
呆れ半分の声だった。魔力計測用の水晶が机に置かれる。リリアが手を乗せると、水晶がふわりと温かくなった。数字が浮かび上がる。
【Lv21】
先生がわずかに眉を上げた。
「十日でここまで伸びる子、あまり見たことないわね」
「そうなの?」
「普通は、もう少しかかるものよ」
リリアはピンときていない顔だった。隣で聞いていたミレーユが、代わりに驚く。
「十日で?」
「うん」
「私、まだレベル14なんだけど」
「奇遇だね」
「奇遇で片付けないで」
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その時、リリアの視界の端に、小さな光の粒が浮かんだ。文字が形をつくっていく。
【ユニークスキル:変化の兆し】
「また何か出た」
「見せて」
先生が覗き込む。しばらく黙って文字を追い、ふと表情を緩めた。
「これ、進化よ」
「進化?」
「持って生まれたスキルが、経験を重ねて育つことがあるの。誰にでも起きることじゃない」
説明を受けても、リリアにはまだ実感が薄かった。文字はゆっくりと入れ替わっていく。
【直感】から、【直感・改】へ。
「変わったね」
「変わったわね」
「何が変わったの?」
「使ってみないと分からないわ」
ミレーユが小さく笑う。
「毎回それだね」
「毎回そうなの」
先生も苦笑した。ユニークスキルというものは、結局そういうものだった。名前が変わっても、中身は本人の行動でしか確かめようがない。
「でも、たぶん良いものだと思う」
先生の言葉に、リリアの顔がぱっと明るくなった。
「やった」
理屈は分からなくても、良いものだと言われれば十分だった。
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帰り道、夕日が長く影を伸ばしていた。
「ミレーユ」
「なに?」
「私、強くなってるのかな」
「なってると思うよ」
「有名になったりして」
いつもと違う言葉だった。普段なら、可愛い、お腹空いた、眠い、その辺りで止まる。ミレーユは少し驚きながらも答えた。
「なるかもね」
「じゃあミレーユも」
「なんでそうなるの」
「友達だから」
理屈になっていなかった。でも、悪い気はしなかった。
その時、道の先で小さな子供がしゃがみ込んでいるのが見えた。膝を抱えて、声を殺すように泣いている。リリアはすぐに駆け寄った。
「どうしたの?」
「靴、なくした……」
片方の靴だけ、履いていなかった。リリアは辺りを見回し、生垣の下に落ちているのを見つける。
「あった」
「ほんと?」
「ほんと」
子供の顔がくしゃっと崩れた。今度は安心して泣いていた。リリアはその隣にしゃがみ、靴を履かせてやる。ミレーユはその様子を少し離れたところから見ていた。強さも、有名になることも、この子にとってはきっと本題じゃない。目の前で困っている誰かを放っておけないだけ。そんな気がした。
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夜、職員室にはまだ明かりが灯っていた。アリア先生は報告書を書いていた。
『リリア・フォルネス』
『レベル21到達、成長速度は例年平均を大きく上回る』
『ユニークスキル進化を確認。直感→直感・改。詳細は継続観察が必要』
『特殊治癒水魔法についても引き続き調査中』
ペンを止め、しばらく窓の外を見る。それから、最後に一行だけ書き足した。
『目が離せない生徒である』
小さく笑って、報告書を閉じた。
まだ誰も知らない。この銀髪の少女が、数年後、自分を含めた10人の仲間達で、帝国中を巻き込み、被害者の会を生み出すことになることを。もちろん、本人もまったく知らなかった。
その頃、リリアは布団の中で呟いていた。
「明日の朝ご飯、なんだろう」
考えていることは、いつも通りだった。
10話、いかがだったでしょうか。レベルが上がってもユニークスキルが進化しても、結局は困っている子を放っておけない――そんなリリアの根っこの部分が出せた回だったかなと思います。
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