第20話「南側エリア・3」
アキラに、南側エリアで得た情報を報告する。
「なるほど。金曜日から杭打ち工事が始まる、と」
「なので、調査するなら明日か明後日ですね」
五目焼きそば、卵スープ、空心菜炒め。
二人は夕食を取りながら、明日以降の作戦を話し合っていた。
「あ、それと。金曜日はお弁当いらなくなりました」
「……ん?」
アキラが首を傾げる。
「どうしたんです?」
「クラスメイトが、学食に連れて行ってくれるそうで」
ふむ、とアキラは頷いた。
脳内で、今週の献立予定を組み替える。
問題ない。夕食を少し豪華にすれば済む話だ。
「分かりました。問題ありません」
食後、改めて調査計画を確認する。
アキラ主導で、二段構えのプランを組み上げた。
その後、アキラは台所へ戻り、バネッサは厚紙を使って、何やら怪しい工作を始めた。
翌朝。
まだ空気の涼しい時間帯に、バネッサは拠点を出た。
自転車で追い抜いていく生徒たちは、朝練へ向かう途中だろう。
一年生しかいない学校とはいえ、熱心な部活動は多いらしい。
本来、早朝登校には事前の許可が必要だ。
だがバネッサは警備員に、
「交換留学生のバネッサは、朝練を見学したいのです」
と押し切り、門を通してもらった。
時計を見る。まだ朝六時半過ぎ。
朝のホームルームは八時半。二時間近く余裕がある。
この時間帯が、一番成功率が高い。
アキラとバネッサはそう予測していた。
レンタルサイクルを走らせ、整地現場へ向かう。
誰もいない作業開始前の現場で調査を終わらせる。
それがAプランだった。
しかし。
失敗した。
作業開始は九時からと聞いていたが、現場にはすでにジャージ姿の作業員が二人いた。
どうやら一部の作業員は、現場の簡易宿舎に泊まり込んでいるらしい。
しかも、その二人は調査ポイント付近をランニングしている。
これでは、敷地の真ん中でセンサーを使うことなどできない。
様子を窺っているうちに、宿舎からさらに作業員が現れ始めた。
重機の点検。機材確認。朝の準備。
あっという間に、現場全体へ人の目が散る。
無理に近づけば、昨日よりも強く警戒される。
バネッサは小さく息を吐き、Aプランを捨てた。
◆ ◆ ◆
「せんせー、トイレ行っていいですかー。バネッサ、お腹痛いですー」
午前最後の授業。
バネッサが、手を挙げた。
教室全体に、
(またか)
という空気が流れる。
だが誰も突っ込まない。
「Please, go ahead, Vanessa.」
英語教師は無表情のまま手を振った。
本日二回目のレンタルサイクル。
リュックを背負い、中央の森林公園を駆け抜ける。
今日も日差しが強い。
「みなさーん、こんにちはー」
休憩所へ姿を現したバネッサに、作業員たちが笑う。
「おう、また来たな」
「昨日のお弁当のお礼ですよ。皆さんでどうぞ」
リュックから取り出したのは、アキラ特製の中華オードブルだった。
「うまそうだな、おい」
「いいのかい?」
「昨日の話を母にしたら、『ちゃんとお礼しなさい』って」
「ありがてえなあ!」
「うわ、この肉トロトロだ!」
作業員たちが一気に盛り上がる。
その隙に、バネッサは自然な調子で切り出した。
「あ、それと私、天文部なんですけど」
「天文部?」
「皆さんが休憩してる間、あっちで観測作業していいですか?」
「観測?」
「太陽の位置とか測るんです」
「へえ」
作業員たちは顔を見合わせる。
「まあ、休憩中ならいいか」
「重機には近づくなよ」
「ありがとうございますー」
バネッサは、リュックから「それっぽい装置」を取り出した。
厚紙で組んだ、日時計と六分儀を足して割ったような工作物。
横には腕が入る太さの筒が付いている。
当然、筒の奥にセンサーを仕込んでいた。
「なんだそりゃ」
「お手製観測装置です」
「高校生って、そんなの作るのか」
「ええ、まあ」
適当に笑いながら、バネッサは整地中央へ向かう。
一度だけ振り返る。
作業員たちは、中華料理に夢中だった。
……アキラさんの料理、強すぎますね。
しゃがみ込み、筒の中のセンサーを起動し、いつもの調査作業を開始する。
三十分後。
「ありがとうございましたー。太陽の観測、終わりました」
「おう、お疲れさん」
「天文部も大変だなあ、この暑い中」
「お互い様ですよー」
バネッサは笑顔で手を振る。
「タッパー、放課後に回収しに来まーす」
作業員たちに見送られながら、現場を後にした。
そこそこ苦労したが、調査自体は無事完了した。
結果として、このポイントは北側エリアほどの価値はないことが分かった。
だが。
この上に大型スタジアムが建設され、さらに何十年後かに解体される頃には、鉱石も育つ。
優秀な採掘ポイントになっているはずだ。
魔法鉱石は、土地の流れと時間で少しずつ育つ。
採取師にとって、鉱山とは十年単位で育てるもの。
そこに存在する――という情報自体が、価値なのだ。




