第10話「調査八日目」
「なるほど。それはチャンスですね」
翌週、月曜日の早朝。
拠点へ戻ってきたアキラに、バネッサは昨日聞いた「生徒総会」の件を報告した。
「しかし、そんなイベントがあるなんて聞いてませんでしたね」
アキラは首を傾げる。
「学校から渡された年間スケジュールにも載ってなかったんですが……」
突発的なイベントなのだろうか。
まあ、それは仕方がない。
「アキラさん、途中で抜け出すっていうのはどうでしょう」
「おすすめしませんね」
アキラは即答した。
「学校の雰囲気を見る限り、勝手に移動すると先生に止められると思います」
「気分が悪くなった、とかは?」
「その場合も、先生か保健係の生徒が付き添います。単独行動は難しいでしょう」
「そうですか……。せっかくのチャンスなのに」
全校生徒が体育館へ集まる。
つまり、その時間帯は、校舎の窓も、渡り廊下も、中庭周辺も、人目が一気に減る。
バネッサにとって、それはあまりにも分かりやすい好機だった。
中庭は、この調査でずっと気になっていた難所の一つである。
見える。
人目がある。
隠れ場所が少ない。
だからこそ、生徒総会は使いたかった。
アキラは少し考え込み、顔を上げた。
「生徒総会が始まる時間はいつですか?」
「昼休み後、午後一からだそうです」
「……なら、今日の午前中は体調不良で欠席扱いにしましょう」
「え?」
「午後、生徒総会が始まる直前に登校するんです。その間に中庭を調査する」
バネッサは目を丸くした。
「なるほど。アキラさん、冴えてますね」
「抜け出すよりは自然です」
「学校の自然さ、難しいですね」
「今回は、こちらで手順を整えます」
まだ調査ポイントは半分以上残っている。
完全に休むのは避けたい。
頃合いを見て、アキラが保護者役として学校へ欠席連絡を入れることになった。
午後になってから、「体調が回復した」という形で登校する。
生徒総会が開かれている最中に中庭の調査を行い、そのまま教室に戻る。
多少強引ではあるが、これで何とかなりそうだ。
午前中。
アキラはSNSや学内掲示板を調べ続けていた。
「どうやら、この『生徒総会』、最近になって教師と生徒会が共同で企画したイベントみたいですね」
「だから年間予定に無かったんですね」
「最近の学校は、SNS経由で急にイベントを決めたりもするみたいです」
アキラは苦笑する。
「特にこの学校、新設校ですから。色々試してみようという空気が強いのかもしれません」
「なるほどです」
「ともあれ」
アキラは少し真面目な声になった。
「全校生徒が動くイベントです。何が起きるか分かりません。気を付けて行動してください」
「了解です」
正午すぎ。
制服姿のバネッサは、カバンを手に学校へ向かった。
校門で警備員に学生証──正確には交換留学生用の証明書──を見せる。
そのまま、校内へ入った。
丁度、昼休みが終わる時間帯だった。
廊下の物陰に隠れる。
やがて、大勢の足音が聞こえ始めた。
生徒たちが体育館へ移動しているのだろう。
廊下を行く生徒たちの声が、少しずつ遠ざかっていく。
南館。
北館。
渡り廊下。
窓から見える人影が減っていく。
バネッサは対人センサーを確認した。
反応は、体育館側へ流れている。
しばらく女子トイレで時間を潰し、校舎がほぼ空になったと判断する。
バネッサは中庭へ向かった。
対人センサーを確認する。
北館、南館ともに反応は少ない。
職員室や事務室に数名残っている程度だ。
しかもブラインドが下りている。
問題は無い。
周囲を見渡し、改めて安全確認を終える。
<アキラさん、中庭の調査を開始します>
<了解です。こちらは体育館入口付近を監視しています。変化があれば連絡します>
<了解>
バネッサは手早く鉱石センサーを起動した。
リストを確認しながら、中庭周辺の調査を進めていく。
数分後、バネッサの表情が変わった。
──なんだ、この場所。
想像以上だった。
希少鉱石の反応が、異様なほど多い。
出来立ての公園のような場所。
その下に、これだけの反応が眠っている。
ここは、見た目よりずっと優秀な採掘ポイントだった。
対人センサーにも気を配る。
近づいてくる人物はいない。
だが、反応があった調査対象の鉱物の量が多すぎる。
記録用紙へ書き込む量も増えていく。
時間が足りない。
焦りが生まれる。
想定外の情報量に、バネッサの集中力が少しずつ削られていった。
鉱石用センサーを確認する。
調査用紙へ記録する。
位置を変える。
再び確認する。
右脚に固定したセンサー。
手元のバインダー。
首から下げた筆記具。
練習した通りに動いているはずだった。
だが、反応が多い。
多すぎる。
この場所だけは、どうしても取り切っておきたい。
生徒総会のような機会が、もう一度あるとは限らない。
バネッサは、対人センサーの確認が遅れていることに気づいていなかった。
「バネッサさん?」
不意に声がした。
バネッサの身体が、一瞬硬直する。
ゆっくり振り向く。
そこには。
三つ編み姿のクラスメイト──チヅルが立っていた。




