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花染め屋の四季彩〜森に隠れ住む魔法使いは魔法の花の力で依頼を解決する〜  作者: 花房いちご
第二章 桃色は爛漫の恋をする

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桃色は爛漫の恋をする 五話

『いや、当たり前でしょ。リズってば、なんのアプローチもしてないし、色気も出してないじゃん。アイバーさんには妹分としか思われてないよ』


 友人、エリスの言葉がリズの心をタコ殴りにした。瞬く間に重症だ。


『そうだよね……』


 ズバズバはっきり言うエリス。黙々だんまりのリズ。不思議と気の合う友人だが、今はいつものズバズバが辛い。

 リズは作業の手を止めて落ち込んだ。

 今はお針子であるエリスが刺繍した布をジャムの硝子瓶の蓋に被せてリボンで結んだり、そのリボンを所定の長さに切っている最中だ。

 明るい茶髪と同じ色の目のエリスは、凄まじい速さで刺繍しながらリズをはげます。


『落ち込んでる場合じゃないでしょ。これからよ。これから』


 そしてエリスは、さりげないアプローチ法から大胆なアプローチ法までリズに話した。

 軽く腕や肩に触れる程度ならともかく、かなり赤裸々な方法もあった。

 リズの顔は真っ赤だ。初心な反応に、恋愛巧者な友人は溜息をついた。


『とりあえず、もう子供じゃないってわかってもらうところからにしなさい』


 リズはまだ十四歳。成人していないが、エリスの圧に押されて頷いた。


『う、うん。でも、どうやって……』


『そうね……一番早いのは、お洒落をすることじゃない?アイバーさんの好みならある程度わかるわよ』


『そっか。お兄さんの一人が同級生なんだっけ』


『うん。同級生なのは二番目の兄さんだけど、他の家族とも昔から仲が良いわ。幼馴染だしね』


 エリスはリュトン商会の末娘だ。

 リュトン商会は、国内外の酒を仕入れて販売している。

 【水精(ウンディーネ)硝子工房】とは、先代の頃から硝子製の酒瓶や杯の受注生産などで取引があった。

 おまけに、次男はアイバーと同い年。共に王立学園に通った仲だった。


『ただ、ねえ……アイバーさんは難しいとは思うわ。縁談がひっきりなしだし。平民だけじゃなくて、貴族からも。王宮の文官とかもいるらしいわよ。それに……』


 エリスの顔が曇る。声をひそめて囁いた。


『腐れ外道……例のなんちゃら令嬢が言ってたみたいだけど、アイバーさんがピンク色の髪が好きなのは本当。理由は、王立学園で出会った初恋の君の髪色だから』


『そんな理由が……』


 アイバーの恋愛遍歴なんて知らなかった。リズは静かに衝撃を受ける。

 エリスの話によると、眩しいほど鮮やかなピンク色の髪を持つ子爵令嬢だったという。令嬢もアイバーに好意を持っていたが、身分差があるため叶わなかったという話だ。


『今でも『彼女と同じか、彼女以上に鮮やかで美しいピンク色の髪の女性としか交際しない』って、言ってるんだって。実際に、誰とも結婚も交際もしてないみたいだから本気なんじゃないかしら』


『そんな……』


 そんな相手がいるんじゃ、どうしようもない。リズの視界が涙で滲む。


『はい!落ち込まない!しょせんは過去の話よ。なんとでもなるわ。まあ、リズが諦めたいとか、昔の女を引きずってる男は嫌なら話は別だけど』


 リズはアイバーを思い浮かべた。この一年で、以前よりもアイバーのことを知れた。

 ジャムが大好きで、お酒が苦手で、話が面白くて、手先が不器用で、笑顔が素敵で、自分と同じで仕事に一生懸命で妥協しなくて、ちょっと周りが見えなくなる時もあって、決めたことは曲げない意志の強さを持つ。

 格好よくてかわいい、十歳歳上の大人の男の人。


『アイバーさんが好き。諦めたくないよ』


 エリスはにっこり笑って、頷いた。


『わかった。協力するわ。まずは服とか髪型とか……』


『ううん。まずは髪の色を変える』


『えっ?』


 エリスの笑顔が固まった。その後、反対された。

 当然だ。髪の色を変えるのは費用がかかる上に悪目立ちする。

 アイバーとのことが上手くいってもいかなくても、リズへの風当たりは厳しくなるだろう。

 しかし、リズは頑なだった。


『アイバーさんって、たまにうっかりするから形から入らないと伝わらないと思う』


『でも、リズの髪の色をピンクにするのは難しいと思う。何度も脱色させて染め直しても綺麗に染まるかどうか……何日もかかるだろうし……髪も頭皮も傷んで最悪抜けちゃうかも……』


 リズの決意に、いつもズバズバのエリスもたじたじだった。

 しかし、そこで何かに気づいた顔になる。


『そうだ。昔は魔法で髪を染めたって言ってた……リズ!イジス兄さんに頼もう!』


 こうしてリズは、エリスの義兄である宮廷魔法使いイジス・エフォートを紹介されたのだった。


 ◆◆◆◆◆


 花染め屋は新緑色の目を見開いた。


「今日は意外なことばかりおきますね。なるほど。エフォート様のお導きでしたか」


「はい。イジスさんは、自分がやるより花染め屋さんに頼む方が確実だろうって教えて下さったんです」


 さらに生真面目な宮廷魔法使いは、ここまで付き添うと言ってくれた。

 ありがたかったが、理由が理由なので恥ずかしく、一人で花を用意して来てしまったのだ。


「イジスさんに教えてもらった花も、すぐに見つけれましたし」


 髪染めに適しており、安全に採取できる魔法植物を教えてもらったのだ。


「なるほど。拝見してもよろしいですか?」


 リズは花染め屋に、チューリップに似た花の花束を渡した。

 花染め屋は食器類を脇にどけて花束を置き、包装紙とリボンを外す。ばらんっと、茎が広がる。茎の先はたった一つの球根に繋がっていた。


「やはり【七色爛漫(レインボースプリング)(ブルーム)】でしたか」


 七色爛漫草は、土属性の魔法植物だ。

 濃い茶色の大きな球根から茎が十本ほど放射状に伸び、先端にチューリップに似た花が咲く。花の色は様々で、七色の名の由来となっている。

 魔法植物にしては珍しく危険性が低く、周りへの影響は【魔法で周辺の土の栄養素を上げ、適度な柔らかさにし、害虫の嫌う臭いを放つ】程度だ。農家では畑の調整に使われることもある。


「ですが花の時期は一瞬。ここまでピンク色や赤色が多くそろった株を探すのは大変だったでしょう」


「いいえ。運がいいのか、すぐに見つけれました」


 リズはジャムの材料探しに森に入ることも多い。何度か群生を見かけていたので、すぐに見つけて採取することが出来た。

 リズは気が弱いが、やると決めたらやるのだ。

 だから改めて、花染め屋に懇願した。


「自分でも馬鹿みたいだと思います。でも、はっきり目に見える形でアイバーさんを好きだと伝えたいんです。花染め屋さん、どうか私の髪を染めてください」


 リズが頭を下げる。ふわふわの、オリーブ色ががった茶髪が揺れた。

 花染め屋は少しだけ迷うそぶりを見せたが、結局は頷いた。


「かしこまりました。ですが……」


 一つだけ条件をつけて。

閲覧ありがとうございます。よろしければ、ブクマ、評価、いいね、感想、レビューなどお願いいたします。皆様の反応が励みになります。

二章完結まで毎日更新予定です。時間はまちまちだと思います。

三章連載再開しました。また、2023/07/24。「プロローグ」を「はじまりの章」と改題。大幅に加筆修正しました。花染め屋の過去と、一章直前までの話を盛り込んでいます。修正前のプロローグを読んだ方にも、ぜひ読んで頂きたいです。

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