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154話:絶えない来訪者

 テントにやって来たモスは不機嫌そうな顔をして変装した私に近づいて来た。


「髪というものは糸にはない透明感があるんだよねぇ。別の繊維を探すかそれとも…………」


 カツラが納得いかないのはわかったから、私の頭に向かって言葉を発するのはやめてほしいわ。


「そんなに納得がいかないのなら人毛でも使ってはどうかしら?」

「どうせなら一から作ってみたいねぇ」


 モスなりの拘りがあるようだ。


 実はモスも劇団員にされていて、役職は小道具だ。

 とは言え思いついた物やできた物を持ってくるだけなので、前衛的なこの劇団でもあまり採用されてはいない。

 本人も自分が興味のあることに熱中するから、採用されようが没を食らおうが気にはしなかった。


「ところで君、一緒に観劇していたのはミナミ・ヤマトかい?」

「知っているの?」

「よく温泉街にいるからねぇ。それにあの恰好は目立つよぉ」

「それをモスに言われても」


 白髪にカラフルな色がついているのは相変わらずだ。

 今日は以前見た時より赤みが多い。

 今度は何をして髪に色がついたのかしら?


「あれ? モス、お茶持ってきてくれた?」


 シリルはモスが片手に下げたバスケットと、そこから香る匂いに気づいた。


「頼んだらこれをくれたよぉ」


 モスはバスケットの中のポットと食器を見せる。

 どうやらモスは私よりも先にシリルといたようだ。


 シリルはゲームどおりの明るい性格になり、高いコミュニケーション能力を発揮して、今やモスとも仲良くなっている。


「それじゃ、お茶をしながらお話しましょ」

「ちょっと待って。仲がいいのはいいけれど、モス。あなた今日、学校は?」

「…………ははぁ」

「笑ってごまかされないんですからね」


 これはサボったな。


 モスはゲームとは違い温泉街から出るようになっている。

 けれどその理由は劇団ゲームが島を巡って興行するからで、結局真面目に登校はしていなかった。


「進級には問題ないよぉ」

「進級ギリギリでしか学校に来ないって聞いてるのよ」

「おやおや、いったい誰がそんなことを君の耳に入れるんだろうねぇ」

「叔母さまの耳に入れないだけ慈悲だと思ってちょうだい」


 言ったらバスケットを置いたモスが崇めるように私に向かって指を組む。

 それはわざとらしすぎるからやめて。


「本当に二人は仲がいいのね。ちょっと焼ける、なんてね」

「大丈夫。私はアリスと仲良くしたいと思ってるから」

「ひひ、未来の配偶者に嫌われたねぇ」

「勝手にひとを未来の配偶者にしないでちょうだい」

「僕から温泉を取り上げないでおくれよぉ」

「本当にモスって面白いね」


 シリルがおおらかすぎる気がする。

 その上、自主的にお菓子をお皿に並べる気遣いのできる感が私よりも女子力の高さを物語っていた。

 お皿に並ぶのはチョコはもちろん、クッキーや固焼きのケーキもある。


「でも、良く外に出るようになったのはいいことだと思うわ。その調子で活動的になってちょうだい、モス」

「外になんて出たくないんだけどねぇ」

「薬塗り忘れたところが真っ赤になってたのは驚いたわ」


 シリルが心配そうに見ると、モスはお手製の日焼け止めの軟膏が入ったコンパクトを取り出してみせた。


 この日焼け止めを自分で作る前は、夏場でも全身を覆うマントを着ていたので相当怪しかったと叔母さまに聞いている。

 けれど塗り忘れがあると真っ赤になって、しかも熱が出る。

 元気なモスなのだけれど、そう言えば虚弱だったと私も思い出したできごとだった。


「面倒なんだよぉ。でも、あそこにいても面倒な客が来るようになってしまったからねぇ」


 意味ありげに私を見るモスが、何を言いたいのかは予想がついた。


 シリルも困ったように溜め息を吐く。


「あの帝国の王子さま?」

「そうさぁ。アンリは飽きもせずにメアリを捜しているよ」


 アンリは最近ルール島に戻って来た。

 海賊誘拐から入学も立ち消えになりそうになっていたのに、本人の強い希望でまた海を渡っている。

 そして住まいも引き続き温泉街の隠れ宿。


 戻って一番に、アンリはモスにメアリの居場所を聞いたそうだ。


「うちでもずいぶんしつこかったよ。メアリ、愛されていたんだね」

「アリス、妙な言い方しないで。アンリは優しいのよ。きっと責任を感じてるのでしょうね」

「いやぁ、アンリにあんな積極性があったなんてねぇ」


 こうして他人ごとのように笑うモスから、その積極性については聞いている。

 アンリはしつこく食い下がってメアリの行方を聞いたそうだ。

 なんなら領主でありアンリが知るメアリの手がかりである叔母さまを紹介しろとも言ったらしい。


「メアリは田舎で静かに元気に暮らしてる、じゃ駄目なのかしら?」


 そういう設定でメアリは姿を消した。

 大事になったので婚前の令嬢が謹んで身を隠すなんてない話じゃないし、ニグリオン連邦では大した噂にもならなかったのに。


 けれどアンリとアレクセイはしつこく行方を追った。

 お父さまも行く先を教えろとクラージュ王国で迫られ続けたという。


「そこはやっぱり自分の手で幸せにしたいのが男心じゃないかなぁ」

「そうだねぇ。一緒に苦難を乗り越えた男女が突然引き裂かれたら、まぁ、燃え上がるんじゃないかい?」

「そんなのお話の中だけでしょ。二人は身分ある方なのよ。やっぱり調子に乗って魔法見せすぎたかしら?」


 私の力を見込んだと言うのが、メアリを必死に探す有力な理由に思える。

 飼い殺しにするくらいなら引き取るという魂胆があるなら、アンリとアレクセイの執着も理解できた。


「うーん、シャノン、じゃなくてノアには難しいかもしれないね」

「男心がわかってたら、公爵家継嗣二人を侍らせるなんて恐ろしいことできやしないねぇ」

「侍らせてないわよ。あの二人も責任感じて言ってるだけで、きっと素敵な人がいればそちらに」

「決定事項のように言うねぇ」


 私の説明に割って入ってモスが笑う。


 モスには予知のことは言ってない。

 シリルを窺うと何故か苦笑を返された。


「君はもう少し自分の魅力に気づいてもいいと思うな。というわけで、今度私と買い物に行かない? 似合う髪飾りを見つけたんだ。色違いもあったからお揃いで買いたいと思って」

「うーん、こっちはこっちで末恐ろしいねぇ」


 モスが意地悪そうに笑っても、シリルはウィンクして応えるだけ。

 末恐ろしいってなんの話?

 髪飾りがどうかしたの?


 あら、なんの話だったかしら?


「あ、そうそう。モス、お願いだからメアリのことは」

「わかってるよ。教えたらそれはそれで面倒なことになるのは目に見えているからね」


 私がメアリであることは絶対に言えない。

 一度は封じたルール島に関する責任への糾弾を再燃させる燃料になりかねないのだから。


 秘密にできるならそのままメアリには消えてもらう。


「それで、アンリは元気?」


 近況を聞こうとすると、外からテントが開いた。


「ノアが来ていると聞いたよ!」

「マオ」


 やって来たのはマウリーリオことマオ。

 攻略対象で初期メンバーのはずが、何故か劇団ゲームの一員をしている。

 役職は音響で劇に合わせて作曲をしているのがこのマオだ。


「やぁ、マオ」


 私は男口調を意識して答えた。


「君は本当にいつも突然来るね、ノア! それも再会の楽しみになるけれど」

「マオもお茶飲む?」

「いただくよ、麗しいアリス。おや、モスはここにいたのかい? 相変わらず顔色が悪いね」

「君はいつでも元気だねぇ」


 シリルはマオとも仲良しで、お茶を勧める。


 そしてモスとは意外とつき合いが長いのがマオだ。

 実は国が海を挟んで隣同士で、どちらも大陸にある国だった。

 陸路より海路で近く、親戚付き合いもあるそうだ。


「ところでノア! 僕の最新の曲を聞いた感想を聞かせておくれ」


 マオがノアを訪ねて来た理由はだいたいこれ。


 私はたまに顔を出して劇団と打ち合わせを行う。

 シリルも私の来訪に合わせて来ていたりするし、モスは気が向いたらやって来る。

 そんな私たちを捕まえて、マオは感想を聞きたがった。


「二人はもう聞いた?」

「私は昨日もいたからリハーサルで」

「僕はプレ公演で聞いたねぇ」


 マオは期待の目で私を見る。

 けどなんて言えばいい?


(完璧にゲーム音楽再現してたよ!)

(本当にすごい才能! なんて言えないわ!)


 感想に困ってるとまたテントの入り口開く。

 今日は来訪者が絶えないようだ。


毎日更新

次回:ホワイトチョコの売り方

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