表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
163/287

151話:劇団ゲームの興行

 私は十三歳になった秋、ルール島にいた。

 魔法学校の麓に広がる港町スローブローでは、劇団ゲームが初公演の最中だ。


「みんな大丈夫? あぁ、助けられて良かった!」


 劇のヒロインがくるくる動いて仲間の無事を確認し、軽やかにタッチされた役者たちはそれぞれ立ち上がる。


「君の勇気ある行動のお蔭だ。なんと礼を言っていいのか」

「そんな。みんなが力を貸してくれたからよ。ねぇ、そうでしょ?」


 仲間の一人に答えたヒロインは、仲間との協力の素晴らしさを歌い出す。

 すると仲間たちが次々と加わって合唱に発展した。


 笑顔で歌い終わった中、舞台上でヒロインとは別の場所にスポットライトが当たる。

 魔導書に封じ込められたという設定で舞台にある本型の大道具。

 そこから敵役が不機嫌そうな顔をして立ち上がった。


「仲良しごっこなんて嫌になる! わたくしの前で馬鹿なことを言わないでくださる? この世は力! 強く美しい者がすべて正しい! そう、わたくしのような!」


 同じく魔導書に封じられて助けられた敵役の身勝手な言い分に、ヒロインの仲間たちが歌いながら過誤を指摘していく。

 大袈裟にたじろぎ悔しそうにする敵役は歌いけすも数に押されて最後は悔しそうに地団太を踏んだ。


 そして捨て台詞を吐くと退場していく。


「覚えておいでなさい! 最後に笑うのはわたくしなのよ! ほーっほっほっほ!」


 懲りない敵役に肩を竦め、仲間に囲まれたヒロインが笑顔で歌う。

 危機は去って大団円。


 そうして劇の幕は下りた。


「…………えー?」


 観劇していた私は、拍手の音に紛れて思わず声を漏らした。

 あまりの内容に拍手も散漫になる。


 公演した劇団ゲームはもちろん知っている。

 確かに魔導書に封じられるというネタは私が提供した。

 下地は私を元にした劇団ゲームの我儘令嬢のはず。


 だからって、どうしてゲームの『不死蝶』そっくりになるの?

 いや、『不死蝶』だけじゃない。

 ストーリーからキャラ造形から全てゲームとそっくりな仕上がりになってしまっていたのだ。


「ルール侯爵令嬢、如何しましたか?」

「いえ、なんでもありませんわ、ミナミさま」


 私は一緒に観劇する相手の声に、笑顔を取り繕う。


 ミナミは名前からわかるように東洋人風の人物。

 以前温泉街で迷子になっていたのが縁で今日は一緒に観劇をすることになった。

 サラサラの黒髪と袴が珍しくて声をかけたら、なんと陰陽師風のコンセプトを持つ攻略キャラだった。


「お楽しみいただけましたか?」

「はい。早すぎる到着かと思いましたが、娯楽さえこの身には学びとなりえ、学びは私にとって何よりの喜びです」


 船で数カ月の旅でルール島へやって来る学生もいる中、途中で不測の事態もありうるのは想定内。

 そのため入学が遅れる生徒はおり、ゲームではそんな生徒が新キャラとして登場していた。


 ミナミは余裕をもって入学前にやって来ていたのだが、予想以上に順調な旅で入学の一年以上前についてしまうというそれはそれで困った状況に陥っている。

 宿泊場所は到着が早すぎて押さえておらず、予定していた案内は別の仕事が入っていた。

 そんな状況を聞き、なんだかんだ手伝ったのが私だ。


「我が国にも芝居というものがありますが、やはり文化の違いでずいぶんと趣が違います。勧善懲悪は我が国でも好まれる題材なのですが…………」


 真面目に答えるミナミは、明らかに子供向け娯楽作品にも真剣だ。


 最初は言葉も危うかったものの、それがずいぶん喋れるようになっている。

 言語理解の学習のためにも観劇を勧めて良かったかもしれない。


「わかりにくい表現などはございませんでしたか? この劇は国外からルール島へいらっしゃる方々への啓発も兼ねておりますから、ミナミさまの率直なご意見があればより良くできると思っております」


 勝手に危険に飛び込んで周りを心配させてばかりの私も成長したものだ。

 今日はルール侯爵家を代表してミナミの相手をしている。

 ミナミは入学のため来たと同時に、東洋風の自国の代表として使節団を率いてきていた。


 なので今日はちょっとしたお仕事。

 それに合わせて私の装いも華やかな紫を主に、スモーキーな灰紫の薄織を重ねて落ち着きのあるドレスを着ている。

 ただ薄織の裁断は蝶の羽根を模し、縁は黒レースにオレンジを差し色することで蝶っぽさを出すというこだわりも外していない。


「一つ気になったのですが、この劇団は本当のことを劇にするところだと聞きました」

「はい。南にある大陸で活動していた劇団でして、このニグリオン連邦では初めての公演ですのに、ご存じでしたのね」

「えぇ、使節の者が聞いたそうで。…………それで、本当にこのような人間を丸ごと何人も封じ込めるような魔導書が存在するのですか?」


 ミナミは真剣な表情の中に危惧を滲ませていた。

 そう言われると確かにとんでもない話だ。


 私が数年前にお父さまにお願いして手に入れた魔導書なんだけど。


「正直申しますと、ございます。そして往々にしてそのような物は真価を知られず埋没しているのです」

「本当にこの劇のように、たまたま手に入れてその恐ろしい能力を引き出してしまう事例が?」

「魔導書は基本的に魔法使いが個人的に作り保管します。ですが死後、適切な相続がされない場合どのような効果があるかも知らされぬまま人手に渡ってしまうのです」


 魔導書は魔法使いにとっての騎士の剣も同じ。

 違いは悪用防止に罠が仕掛けられていたり、制作者以外が起動すると誤作動を起こしたりと多種多様な問題の元になることだ。


 危険は危険だけれど、個人の持ち物なので国の規制には限度がある。

 作るなというのは魔法を使うなと言うことと似ているので、作らせないようにするには魔導書より効率的に魔法を使える媒体を生み出す必要があった。


「ですから、劇として大袈裟な脚色はついていますが決してないとは言えないことです」

「では、劇のように悪意ある者が手にした場合どうなるのでしょう? 法的には?」

「劇のようにと言いますと、ニグリオン連邦における学生の身分は未成年者に準じます。ある程度事故の起きやすい環境下にあることを鑑み、責任能力はないとみられることが大半です」

「つまり、あの劇で皆を魔導書に封じる原因となった令嬢は、学生であるため罰されることはないと?」


 ミナミは難しい顔で黙ってしまった。

 劇をずいぶん真面目に考えている。


 それだけこちらの暮らしに慣れようとしている表れだろうか。


「現実であれば調べが行われるでしょう。その結果、劇のとおりであるなら過失はあっても故意ではないと認められます。国の法で罰されたとしても罰金刑。あとは貴族社会の体面の問題になりますので、巻き込まれた方々への個別の賠償による示談かと」

「はぁ、ルール侯爵令嬢はとても見識深いお方ですね」


 確かに令嬢がこんなことすらすら答えるのはおかしい。


「しょ、少々この劇を作る際に意見を聞かれましたので、調べたことがあるのです」


 実際は、死亡フラグ関係で現実に起きたらどうなるかは調べてあった。

 結果、学生の起こした事故は法律的には死者がいない限り重い刑は課せられない。


 ただし貴族社会は体面が大事。

 上位の貴族や王族を害したとなれば家の問題に発展し、相当厚顔でなければ謝罪行脚が約束される。

 学生のことだからと許されるのは数度だけで、『不死蝶』のように何度も問題を起こしていれば例外的に刑罰が科される可能性はなくもない。


「なるほど。啓発には適していると思います。華やかで演出も凝っているので興味をひきますし、話の内容もどう解決するのかと先が気になりました」


 魔具を使った光の演出や、アートディレクターことレクターが拘った魔導書の大道具も目を引いたようだ。


「ただあまりこちらの魔法に縁のない私には、己のがこととは思えず。きっと貴国の方であれば」

「いいえ、この劇は国外からの方にも見ていただきたいものです。そのご意見は貴重なものです」


 他の客を見ても感想は面白かったなどで、気をつけようとは聞こえない。


 私たちがいるのは貴賓席は、横並びの一般客と違ってボックス席だ。

 実は背後に使節団の人たちもいる。


「参考までに、ミナミさまの故国では芝居の際、何か際立って違うことをなさっていますか?」

「違うこと、そうですね。似せ絵が売られていることでしょうか?」


 聞くとどうやらブロマイドのようなもので、人気絵師がいて木版で作るそうだ。


 たぶん浮世絵のことよね?


「定期的に公演を行う芝居小屋という建物があり、このような天幕ではないですね」

「なるほど」


 こちらは劇場が主流で、他はこういうテントでの移動ものになる。

 ただ劇場は敷居が高すぎるので劇団ゲームでは公演ができない。

 芝居小屋という劇場より親しみやすそうな響きはいいかもしれない。


 それにブロマイドとは違うけどグッズ販売は日本でも熱かった。

 パンフレットなんかもこっちはチラシ一枚だけだ。

 パンフレットに公演の趣旨なんかを書くのもいいかもしれない。


「失礼、劇団の者がルール侯爵令嬢にご挨拶をと。貴賓席に入れてよろしいでしょうか」

「あら、どなたかしら?」

「カーン・トークンと」

「私が存じております。通してくださる?」


 使節団の人が私たちの会話を止め告げた名前に私は笑みを浮かべた。


毎日更新

次回:この物語はフィクションです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ