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147話:予期せぬ再会

 私たちはマルコの船から降ろされて、少しの間何もない海を小舟で漂った。

 追っ手の船はマルコの追走を諦めて、私たちの回収のために動いているのが見える。

 そうして小舟から船に移された私たちは、そのまま受け入れ準備を整えたクラージュ王国の港へと移送されたのだった。


 クラージュ王国の役付きはもちろん、帝国の関係者が詰めかけている港に。


「彼女は僕たちに巻き込まれたニグリオンの少女だよ。怪しい者じゃない。僕たちが身元は保証する」

「丁重に扱え! 話は僕たちがする! あーもー! 一人ずつ喋れ! それでも帝国臣民か!?」


 アンリとアレクセイが騒ぐ帝国関係者にそう言って私を庇った。

 それでも静まらないほど騒がしいのはしょうがない。

 攫われた王子が生還したのだから、一刻も早く自国で保護したいだろう。


 港にはクラージュ王国も軍を出している。

 この厳戒態勢はニグリオンからの要請であり、ルール侯爵からの働きかけだ。

 どうやら王姪令嬢の一件をクラージュ国王は重く見ていたらしく、快く応諾したと聞いている。


「押さないでくれ! 向こうで誰か海に落ちた!」

「勝手に僕に触れるな無礼者!」


 港は押し合いへし合いの大騒ぎだ。

 各国の関係者が降りたばかりのアンリとアレクセイに近づこうと動き、クラージュ王国の軍が出航するために動き回っているからだ。


 マルコの捜索にはクラージュ王国の海軍が出ることになっていて、正直私たちは邪魔だ。

 すぐに何処か落ち着ける場所へ案内されてもいいはずだけれど、どうも騒がしすぎて指示が上手くいっていないようだった。


「ルール島側に落ち度はない。僕たちが海賊に騙されたんだよ」

「だから! メアリは関係ないって言ってるだろ!」


 周りを囲まれて質問攻めにされるアンリとアレクセイがいくら説明しても、同じ質問が何回も飛んで来た。

 攫われたのは王子が二人だけだと思っていた帝国からすれば、見知らぬ少女に不信感があるのだろう。

 この反応は予想していたから、小舟の中で口裏合わせはしている。


 私はアンリとアレクセイが観光中に出会った一般人。

 巻き込まれた不幸な被害者として二人に守ってもらったことになっている。

 実際は私が観光を主導したので、私が一人責められることを回避するため二人は協力してくれた。

 ルール島側の責任も求めないと、テルリンガー家に所縁のある私を思っての応諾だったのはわかっている。


「聴取は船で私がしました。どうか、今は休息のため道をお開けいただきたい」


 船の責任者のお父さまも対応して周りを諌める。

 もちろん本当のところは二人きりになって話したから、私たちの口裏合わせに乗ってくれる手はずだ。


 クラージュ王国は国交があるからルール侯爵の話を聞いてくれる。

 けれど二つの帝国は聞かない。どころかお父さまに食ってかかった。


「我が帝国の王子に聴取!?」

「海賊なんぞに好きにされておいて偉そうに!」


 一転、アンリとアレクセイへの質問責めから、お父さまが責められる状況になってしまった。

 私のせいで申し訳ない。

 声をかけたいけれど今はメアリとして俯いているしかない。


 ルール侯爵令嬢ではないことになっている今、何も言えないのが歯がゆい。


「やめろ、これは命令だよ」

「うるさいぞ、いい加減にしろ」


 まるで私の気持ちが伝わったかのように、アンリとアレクセイが周りを制した。

 王子二人の勘気に、関係者たちはさすがに口を閉じる。


 帝国は集権体制が強く、帝都に権力者が集まる体制だ。

 なのに帝都から離れたクラージュ王国へ集まれた者たちは、つまり王子と直接口を聞ける立場にもない木っ端役人か地方貴族。

 けれどこれを機に中央へ手を伸ばしたい彼らは、自らをアピールするためにお父さまに突っかかっていた。

 そうと見て、アンリとアレクセイは止めてくれたのだ。


「侯爵には僕たちから話した。休息を望んだのも僕たちだ」

「僕たちが攫われて船も出せなかったくせに偉そうなのは誰だっていうんだ?」


 王子二人の責めるような言葉に、帝国の者も何も言えなくなる。

 不興を買いたいわけじゃないからこそ黙った。


 じっとしていた私は自然とアンリやアレクセイを囲む人の向こうに押しやられる。

 私への追及がなくなったことで、アンリとアレクセイも私に言及することはなくなった。

 けれどチラチラと二人と目が合うのは、気にかけてくれているからだろう。


 どちらかというと無視してもらって構わない。

 あまり帝国関係者の記憶に残るのも困る身の上だ。

 そんな思いで自分から一歩引くと、突然後ろから腕を掴まれた。


「え…………?」


 周囲は大人ばかりの人だかりで掴む相手の姿は見えない。

 船に乗り込むクラージュ海軍もいて人の流れも激しい中、私は引っ張られるように移動させられ始めた。


 振り返ることもできず半身で腕を引かれ、人波を掻き分けて歩く。

 人の向こうで私を連れて行く相手は目深にキャスケットを被っていて顔は見えない。

 けれど掴む手の感触だけでそれが誰かわかってしまった。


「エリオット、どうしてここにいるの?」


 名前を呼ぶと強引に進路を変更して、人の流れがない倉庫の際でようやく止まってくれた。

 キャスケットのつばの向こうから緑の瞳が私を見る。


 やっぱりエリオットだ。

 深く帽子を被って顔を隠してはいるけれど、見間違うことのない相手。


「お…………」


 エリオットが何か言おうとして止まる。

 次の瞬間、私の腕がエリオットとは違う方向に引かれた。


「メアリ!?」

「誰だ貴様!」


 アンリとアレクセイが息を切らせて後ろにいた。

 私が連れていかれることに気づいて来てくれたようだ。


 二人の目にはエリオットへの敵意があった。


「大丈夫、私の家の者だから。迎えに来てくれたのよ」

「…………あ、君はルール島にもいた」


 アンリが気づいて警戒を解いた。

 エリオットは頭を下げるだけで、責めるように私の腕を見た。


 アンリもアレクセイも手を放してくれていない。

 今はお父さまが対応しているけれど、帝国の関係者こちらを気にしているのがわかる。

 その内エリオットまで帝国関係者に囲まれてしまうかもしれない。


「これ以上、この方を好機の目に晒さないでください」

「そんな言い方しては駄目よ」


 エリオットを窘めると、アンリとアレクセイも周囲の目に気づく。

 ようやく腕を離してくれたけれど、何故か離れて行かない。


「メアリ」


 アレクセイが何か言おうとすると、私の前に滑り込む人物がいた。


「ご安心を。彼女は我がルカール伯爵家が身元を預かり大切にお世話させていただきます」

「シリル!? 帰って来ていたの?」

「えぇ、久しぶり。まさかこんな再会になるなんて思わなかったよ。お互いね」


 現れたのは懐かしい友人だ。

 身長が伸びたけれど可愛さ変わらず、恰好は男装だけれど色遣いが相変わらず可愛かった。


 私にウィンクするシリルは、そのままエリオットにも意味ありげな視線を向ける。


「長旅でお疲れでしょう。殿下方にも休息していただける場所をご用意させていただいています。どうか、港の混乱を鎮めるためにもご移動を」


 親しげな私たちへの対応から、継嗣として真面目にアンリとアレクセイに向き直るシリル。


 切り替えの早さにアンリとアレクセイはペースを乱され戸惑うだけだ。

 そのままシリルは部下を呼んで二人を案内させる。


「それじゃ、今度はゆっくり話ができる時に会いましょ。またね」

「ありがとう、シリル。またね」


 シリルに答える私に、アンリとアレクセイが振り返る。


「メアリ! また!」

「次はゆっくりするからな!」


 アンリとアレクセイにも、私は手を振った。


 そしてエリオットと足早に港を後にして、馬車に乗り込んでようやく一息が吐ける。


「お嬢さま」

「ふふ、エリオットも久しぶり。驚いたわ。数カ月見ないだけでずいぶん身長が伸びてしまうのね」


 別れる前はヒールがある分私のほうが高かったのに、今はそれでもエリオットが高い。


 エリオットは私を見つめていた。


「帝国の殿下方の再会には、お答えにはならないのですね」


 そんな小さなことに気づくエリオットに、私は思わず笑う。


「相変わらずエリオットには隠しごとはできないのね」

「そう、ですね。そうであれば喜ばしいことです」


 エリオットがなんだかしょんぼりと答えると、馬車の車輪が回り出した。


毎日更新

次回:テルリンガー家の内情

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