141話:生きる指標
「いいわ。話す。でも、先に行っておきますけどなんの保証もない話よ」
「その割には断言してたじゃねぇか」
マルコの指摘にちょっと考える。
そう言えばそうだけれど、私はゲームを知っているだけなのだ。
それでもゲームキャラがいてゲームと重なる状況がある。
だったら関係ないなんて言えないけれど、やはり保証は何もない。
「わかりやすく言うと、私は自分が成長して魔法学校で過ごすことを予知したわ」
「んなの、予知するまでもない既定路線だろうが」
「静かに聞いて」
茶々を入れるマルコにそう文句を言ったけれど、いっそそうして軽い扱いをされたほうが言いやすい。
そんな天邪鬼な自分に私は笑ってしまった。
「私は在学中に殺されるわ。いえ、自業自得だから殺されるという言い方は間違っているのかもしれないけれど」
「そう思うなら改めるべきではないのか?」
ムールシュアの当たり前の指摘に、頷くしかない。
「そうね。そのつもりだけれど、私もどうして未来の自分がそんなことをするのかがわからないのよ」
「やらなイ。それだけではいけなイ?」
素直なフィアに一番わかりやすい未来の状況を告げることにした。
「覚えてる限り、五十以上の死ぬ可能性があるのよ」
「はぁ!?」
声を上げたのはマルコだった。
けれどムールシュアもフィア驚いている。いっそ疑うような色さえその視線にはあった。
五十でさえ少なく見積もった数でしかない。
イベントの豊富さが売りの一つだったゲームのため、一年で二十以上のイベントがあったのだから。
「ふふ、もうこの際だから言ってしまうけれど、マルコ、あなたに会ったあの時、私ジョーとアンディが誘拐されると知っていたのよ」
「おいおい、それも予知か?」
「そう。学生となった後そういう事件があったとジョーとアンディが語ったの。そして二人は誘拐をきっかけに仲違いをして、私が死ぬ可能性に繋がる。だから本当は誘拐を未然に防ぎたかったのよ」
マルコは半信半疑ながら疑問をぶつけて来た。
「今回のことはどうなってる?」
「実は、全く予知には表れなかった事件よ。正直、未来が大きくずれていると感じているの。いったい何処からずれてしまったのか、正直わからなくなっているわ」
「そりゃ、お前さんが俺の邪魔をした時からだろ」
「え?」
マルコの断言に意表を突かれる。
「あの時邪魔されたおかげで俺はずいぶんと動きにくくなった。それでもこの辺りの海賊の中じゃ実力があったからな。他を押しのけるくらいのことはできてる。だが今回、南からあほな若造が来やがった。もしお前さんに会わず俺が勢力を伸長させていればそんなことにはならなかったろうさ」
「た、確かにジョヴァンニとの出会いは予知と違うけれど」
「…………あのバカ、名乗ったのか?」
「いいえ。学生になった後、ルール島へやってきて一部の生徒と交流を持つの」
「その言い方だとお前さんではないんだな?」
「はっきり言えば、アンリとアレクセイよ」
現状ありえない未来に、私の言うずれを理解してマルコも考え込む。
「お前さんの予知に俺は出てくるのか?」
「それが全く出てこないのよ。だからいっそ気にせず巻き込んだわ」
「そりゃどうも」
マルコは渋い顔で吐き捨てた。
「しかしあの頃から自分の死を予期していた? だが預言からの回避さえ神の手の内なら、それも無駄なことなんじゃないのか?」
「やっぱりあの時私たちの話を盗み聞きしていたのね」
船室に籠城した時、力尽くで扉を開かなかったのは無害な話だと知っていたからだ。
けれどいい線ついてる。
私がこうしてマルコに喋る気になったのはその話がきっかけだ。
「話が見えないのだが、説明を願えるか?」
ムールシュアに、私は預言と神の手についてアレクセイから教わったことを話す。
ついでに予知をする友人としてシリルの繰り返し見た夢についても。
アレクセイの言うとおりなら私のこの行動も神の手の内で、最後は死ぬ。
けれどシリルという予知回避の実例を私は見ていた。
「つまり、どんな道を歩んでも結局君は死ぬ運命だが、その神の手とやらから外れる者もいると?」
「そういう解釈になるわね。予知を逃れる可能性はある。けれどどうしてそうなるのかがわからない今、私はどんなに選択を変えても、やることを変えても、結局は断罪されて死ぬ目に遭う」
「悪いところ直ス、じゃ駄目なノ?」
フィアの問いに答えはない。
アレクセイの言う回避方法を実践するなら私は悪を成さなきゃいけないのだから。
だから私はムールシュアを見る。
「私が今までやって来たことは間違いかもしれない。だったら一度、大きく未来を変えてみようと思うわ」
「おいおい、何するんだよ?」
マルコは警戒も露わに口を挟む。
私は気にせずムールシュアに告げた。
「私の見た予知に、あなたはいなかった。すでに、死んでいたわ」
「そんナ!?」
ショックを受けるフィアに対して、ムールシュアは冷静な表情で考える。
「それは、将来的に君が我々人魚と関わることになるということか?」
「そうね。残念ながら敵対するわ。そしてフィアが言うのよ。里一番の勇士だった兄の志を継いだと」
フィアの兄の名前は出てこない。
それでも今の状況から考えてその里一番の勇士とはムールシュアのことだ。
マルコは短剣をいじりながら頷く。
「なるほどな。お前さんの予知どおりなら、俺たちはあの王子たちを誘拐しない。いや、する機会はなかったはずだ。そうなるとここでお前さんも人魚と会うことはないし、そこの人魚は治療されることもなく死んでいた」
言いながら状況を理解したマルコは意地悪な笑みを浮かべる。
「どうする? 予知を回避するなら神の預言どおりそいつは死なせておくべきだぜ?」
フィアが睨むとマルコは応えた様子もなく肩を竦めた。
「そうね」
私の肯定にムールシュアは動揺しない。
反対にフィアは泣きそうになっていた。
「だから一度大きく変えようと思ったの」
「どういうこト?」
「ムールシュア、あなたは私の知る予知では存在しない人よ。でも、いえ、だからこそ今私はあなたを生かす」
「…………それで?」
「そして二年後、ルール島へ私に会いに来てほしいの」
ムールシュアは私の提案の意味に気づいて目を瞠った。
「私の生が君の指標となるのか」
「えぇ。あなたが生きて私に会いに来てくれるなら、私は未来を変えられる。あなたの生が私の努力の証明になるの」
ムールシュアはゲームに関係ない。
すでに死んでいる人だから関係のしようがない。
だったらゲームの強制力がこの世界にあっても、ムールシュアは強制力の範囲外である可能性がある。
預言が不可避かどうかはムールシュアでわかる。
そして回避できるなら方法は確かにあるのだ。
ゲーム外という私が生き残る道が。
十数える間見つめ合うと、ムールシュアは頷く。
「それがこの恩に報いることになるのなら、心得た」
思わず安心して息を吐き出す。
正直命を賭しても戦うのが勇士だと言われるかと思った。
じっと私たちのやり取りを見ていたマルコは、自分の中で何かしらの考えを組み立てたようだ。
「おい、お前さんルール島の組織を放置してるのもそれか?」
「…………繋がりがばれたからってそこを突いてくるかしら。確かに予知は関係してるわ。ただ放置してるのは蜥蜴の尻尾切りをされるのが嫌だからよ」
「なるほど、その辺りも予知で知ってたからってことか」
「そう。なのにあなたはいないのよ。随分と上手く逃げ回ってくれるじゃない」
「そりゃどうも」
密輸組織にマルコが関わってる。
それは敵モブが私を化け物姫と呼んだ時から考えていたことだ。
なのにマルコはゲームではいない存在。
エリオットのようにそれらしいモブが言及されることもない。
つまり密輸組織を追う主人公たちと出会わないよう立ち回っていると考えられる。
出て来たとしてもアンディを攫ってる時点で敵なので、当たり前と言えば当たり前だ。
なんならそのフラグ回避の腕前を見習いたいくらいだ。
「マルコ、私の下で働く気はない?」
「はん、先のない奴に従うなんざごめんだ」
「あら、先が短いからこそ期間限定で手伝ってくれてもいいじゃない」
「どうせその間に組織潰す気だろ。その後のやりにくさを考えれば頷くはずねぇさ」
それもそうだ。
でも私もここで退くわけにはいかない。
「私、死にたくないの」
「…………誰だってそうだろ」
「そうね…………」
でもせめて、死ぬなら誰も巻き込まないようにしよう。
そう決めていた。
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