↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
148/287

139話:人魚の勇士

 追いつかれたから人魚の試練を受けるために海の中に行く。

 船員を起こしてそう説明するマルコ。

 船では船長命令は絶対。海賊たちは不安そうだったけれど従った。


 ただ従わない者もこの船にはいた。


「足手纏いだ! 船に残れ!」

「海賊の言うことを聞くわけないだろ!」

「メアリだけを危険にさらすわけにはいかない!」


 アンリとアレクセイが抵抗しているのよね。


「魔物が相手なら僕たちも魔法で応戦できるはずだ!」

「実戦も知らない王子さまがほざくな!」

「独学の半端な魔法使いに劣るわけがないだろ!?」


 不毛な言い合いを続けていると、準備を整えたフィアがやって来た。


「友を思う心、勇士に相応しイ。争うなら戦場での功で争うべキ」


 言いながら銀色の頭巾をアンリとアレクセイにも渡す。

 人魚の持つ魔法のアイテムで、これを被れば人間も水中で息ができるそうだ。


 ミックの冤罪事件の時にこれを持っていたらと思わなくもない。

 執事の罠にはまった時には、ううん、一人分じゃ駄目ね。

 それに今考えてもしょうがないことだわ。


「マルコ、ニックのような船員を増やされるよりましでしょ。アレクセイを連れて行くならアンリと一緒のほうがいいわ」

「ち、面倒な荷物だな」


 ニックの名前で嫌な顔したマルコは、船に残すのも危険と判断して同行を許した。


 人魚の里に行くのは私たち人質、マルコとその部下十人。

 全員が魔法使いで、それは人魚側が提示した同行の条件だった。


「魔女メアリ、手ヲ」


 銀色の頭巾を被って海へ入ると、自在に泳ぐフィアの手を取る。

 途端に抱き込まれて海中へと引きずり込まれた。


 フィアは走るような速度でどんどん泳ぐ。

 月明かりも届かない海の中は暗くて冷たい。

 恐る恐る止めていた息を吐いて吸ってみる。

 銀色の頭巾に魔力がとおり、顔の周りに空気の膜が張ったような感覚だ。

 息はできるけどちょっと怖い。私はいつの間にかフィアの胸に縋るような形になっていた。


「魔女メアリ、怖イ?」

「少し…………。でも、急ぎましょう。少しでも早く助けなきゃ」

「…………裏切り者、殺して解放する手伝いしてもいイ」


 背後の仲間との距離を確かめてフィアはそんなことを言った。


 それはつまり、私たちを助けるためにマルコを?


「友人と無事に陸へ届けること誓ウ。勇士は尊重すル」

「気持ちだけいただいておくわ。親しみを寄せてくれるからこそ、慎み深い人魚を争いに巻き込むべきではないというのが先祖の考えだそうだもの」


 私は見えているかわからない闇の中で、フィアに笑顔を作って答えた。


「聞いたことがあル。それでルール島は島の外の人間のものになったト。故郷を追われることになるのなラ、自ら魔女の下に集い戦うべきだったのではないかト」

「いいえ、これで良かったのよ。どちらも生き延びることができたんだもの」


 自ら降伏して島を維持しようとしたテルリンガー家。

 戦わず力を残していたから後の討伐で生き残れた人魚。


 一つ違えば両者が生存する今の状態にはなっていなかった。


 だとしたら、私のこの先はどうなるのだろう?

 きっと私は今、私の知るゲームの未来と大きく違うことをしている。

 一つどころではない違いを生んでいる状況で、果たして私が生き残る道はあるんだろうか。


「魔女メアリ、あれヲ」


 深く悩んでしまいそうなところで声をかけられた。

 白っぽく見えるフィアの手を目で追うと、水底に光が見える。


 近づくにつれ、それが大きな真珠を抱いた貝のような形をした建造物だとわかった。


「あれが、人魚の里?」

「そウ。僕たちの今の故郷」


 辿り着いたのは深海の底。

 巨大な貝に見えたのは貝やサンゴで飾られた巨大な防壁で、真珠のような球体は魔法の光りに守られたお城だった。


「いったいどうやってあの海賊はここから宝を盗み出したんだろう?」


 深海に着いたアンリがそんな疑問を呟いた。

 私たちが水圧も感じず無事に到着で来たのは、人魚から借りた銀色の頭巾のお蔭だ。

 ここは生身の人間が来ることのできる場所じゃない。


 アンリの声が聞こえたのか、フィアはマルコを睨んで教えてくれた。


「故郷、海の流れに揺蕩ウ。時に浅瀬に至ル。深海の流れ知っていれば待ち伏せられル」

「海賊のくせに変な知識を持っていたものだね」


 アレクセイが失礼な言い方をするけれど、マルコは怒ることはなく答えに迷うような微妙な顔をしていた。


「魔女メアリ、こっちニ」


 今はまず、里一番の勇士の治療が優先だ。


「集中したいから一人で行かせてほしいの」


 私はアンリとアレクセイを振り返ってそうお願いした。


 フィアは案内と容体説明で同行するけれど、二人には残ってほしいことを告げる。


「安全とも言えない場所で一人になるべきじゃないよ、メアリ」

「君の度胸は認めるけど、ちょっと無謀が過ぎないか?」


 当たり前だけど窘められる。

 どう説得しようか考えていると私の横にマルコが立った。


「じゃ、俺が行くぜ。見張りだよ。拒否は認めねぇ」


 海賊たちは反論を封じるようにアンリとアレクセイを囲む。

 アレクセイが反発しそうな雰囲気に、私は慌てて答えた。


「わかったわ。今は時間が惜しいもの。行きましょう」

「メアリ!」


 アンリが心配を滲ませた声をかけてくる。

 私は笑って手を振った。


「また後で会いましょう。喧嘩しないでね」


 私とフィア、そしてマルコの三人で入ったのは、奥に誰かが寝ている一室。

 扉の脇に寄りかかるマルコはベッドに近づく私に疑問をぶつけた。


「ずいぶん素直じゃねぇか。いっそ不気味だ」

「失礼ね。治療を優先してのことよ。だって、他国の王子に見せられないじゃない」


 私はそう言って濡れた眼鏡を外してバンダナで拭く。


 プリン頭が恥ずかしいからバンダナは結び直し、眼鏡は服に引っ掛けた。


「魔女メアリ、友人ではなイ?」

「いいえ、あの二人は確かに友人よ。けれど、私が私であることを伝えるわけにはいかない友人なの」


 わからない顔のフィアに、私も何言ってるかわからない。

 いっそ最初から正体を晒しておけば、こんな面倒な関係性にならなかった。

 けれどそうなると我儘令嬢のイメージで今のような関係にはなってない気がする。


「改めまして。私はシャノン・メイヴィス・メアリ・テルリンガー。メアリも嘘ではないけれど、私がテルリンガー家の者だと知る人はシャノンと呼ぶわ」

「彼らは知らなイ? この裏切り者は知ってル?」

「そういうことね。だから私の正体は秘密にしておいてほしいの。正体を知られると、友達と言えなくなってしまうから」

「わからなイ…………でモ、魔女メアリに嘘がないことはわかル」


 頷いてくれるフィアはゲームでも素直な性格をしていた。

 最初は警戒心が強いけれど、好感度が上がると純粋で懐っこい素の性格が露わになる。


 私はフィアと奥の寝台に近づいた。

 かかってるカーテンをどけると、人魚の青年が苦しげな呼吸を繰り返していた。


「我が兄、ムールシュア。里一番の勇士ダ」


 青い髪、白い肌。

 美しい顔立ちだけれど今は傷だらけだ。

 熱があるのか赤らんでいるし、眉間には深い皺が刻まれていた。


 可愛い系のフィアとは似ていないムールシュアを見つめて私は気づくことがある。


「あら?」


 体力も魔力も三分の一を下回っているし、状態異常も出ていた。

 でもそれはいい。


「う…………?」


 私たちの声で気づいたのか、ムールシュアの目が開く。

 熱に潤んだ瞳で誰がいるのかを確かめようとしていた。


「ムールシュア、魔女メアリを連れて来た。すぐに治してもらうから」

「魔、女…………?」


 フィアに答えながら、焦点の合わないムールシュアは視線を彷徨わせて私を捜す。

 なので自ら声をかけた。


「初めまして、ではないわね。あなた以前私に謝ってくれた人魚の方ね」


 そう声をかける。

 私には今、ムールシュアの属性と適性が見える。

 会ってすぐに両方がわかるのは以前会ったことのある者だけ。

 つまり私はムールシュアと面識がある。


 ムールシュアはかつて王姪令嬢を助けた時に、クラージュ王国に向かう海上で出会った人魚だった。


毎日更新

次回:マルコの出生

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。