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132話:海賊イベ潰し

 実は誘拐相手がジョヴァンニとわかった時点で、私はマストに魔法を仕込んでいた。

 何せジョヴァンニは海賊イベントの主要キャラクター。

 それなら、必要な船がなくなればイベントは潰れると考えるのは普通だろう。


 私はマストを海中に捨てるしかなくなったジョヴァンニの海賊船を確かめて、内心ガッツポーズをしていた。


「しかし、ずいぶん変わったもんだな。なぁ、メアリ?」


 マルコは変装で髪の色を変えた私へ意味ありげに笑う。

 名前もさっき呼ばれたのだから、正体がばれたくないとわかっているのだろう。


「そうね。積もる話もあるから落ち着いて話しのできる場所へエスコートしていただける?」

「へいへい。お前三年くらいか? 前から可愛げなかったが、よりひどくなってるな」

「…………クラージュ王国に旅行に行った時にも、悪い人に捕まったことがあるの」


 私の言葉にマルコは意図がわからないらしく不思議そうな顔をした。


「その者たちが私をなんと呼んだと思う? …………化け物姫よ」

「う…………」

「いったいどれだけの人に私のことを悪しざまに話したのかしら? 最近あまりにも人に悪く言われるから、誰かが私の悪評を進んで流しているのかもしれないと思ってしまうのよ」

「いや…………、そりゃお前。普段の行いって奴じゃないのかよ…………」

「模範的な淑女でないことは自覚しているわ。だからあなたも馬鹿な脅しはしないでね?」


 私はアンリとアレクセイに目を向けて釘を刺す。

 あの二人を人質に私を脅すなら、船を沈めてでも抵抗してやる。

 そんな私の要請を察したマルコは面倒そうに溜め息を吐いた。


「だったらあいつらどうするんだ?」

「ほぼ一日マストに括りつけられていたの。体力の消耗が激しいはずよ。大事な商品は大切に保管して品質を保つべきではないかしら?」

「ち、注文の多い奴だな。品質保ってほしいなら、まず傷がつかないよう梱包するもんだが?」


 遠回しに縛ると言われて私は首を振る。


「私があなたの下に居ればあの二人も大人しくしてくれるわ。紳士ですもの」

「へいへい。おい、ロイ。そこの二人に水と食い物やって椅子のある部屋に押し込めとけ」

「へい」

「ちょっと待て! メアリと二人きりになるつもりか!? ふざけるな!」


 アレクセイが怒鳴るとアンリもこちらへやってこようとする。

 けれどそれは周りの海賊に止められた。


「僕たちが君たちの言う商品なんだろう? だったらその商談、僕たちも立ち会う権利があるはずだ!」

「…………お前さん、面食いだな」


 アンリとアレクセイの訴えを聞き流すように、マルコはそんなことを言って来た。


「邪推をしないで。友人たちの顔がいいことは認めるけれど顔で選んでいるつもりはないわ」


 どうやらマルコはジョーとアンディのことを思い出したらしい。

 逆に、ジョーとアンディの時と同じ状況だからこそ、マルコも私の行動が予測できたようで乗って来る。


「俺にだって選ぶ権利ってもんがあるんだ。こんな化け物姫に手は出さねぇよ。おら、お前は船長室に通してやるからありがたく思え」

「えー、ずいぶん美人に育ってますよ、船長」

「お前は黙ってろ」

「ありがとう、ニック」


 相変わらず出っ歯で口の軽いニックに答えて、私はマルコに従うように動く。

 そんな私を見て、マルコはアンリとアレクセイに忠告をした。


「こいつに手を出すと一番面倒だってことは前に攫った時に嫌ってほどわかってんだよ。お前らも巻き込まれたくなきゃ大人しくしてろ」

「攫った?」

「メアリ?」

「そうなの。誘拐現場を目撃したという理由で攫われて、自力で逃げ出したことがあるのよ。あの時は必死であまり考えていなかったけれど、今思うと死人が出なかったのが幸いだったわ」

「おう。俺もあの時縄千切ったお前さんから逃げることを選んで正解だったって、倉庫の爆発のこと聞いて心底思ったぜ」


 それ私じゃないわよ。


 けれどアンリとアレクセイは思考が追いつかず黙る。

 なので今の内に移動をすることにした。

 私はマルコと一緒に船一番の部屋である船長室へ入る。


「さて、説明してもらおうか。テルリンガーのお姫さまよ」


 椅子を勧められた私は、マルコの質問を聞きながら座った。

 眼鏡を外して、成り行きでアンリにメアリと偽ったこと話す。

 全属性を秘密にして風の回復だと思わせていることも口裏合わせのために伝えておいた。


「くそ、お前さんと親しいと知ってればこんな仕事引き受けなかったってのに」

「そう言えば、ジョーとアンディには会ったかしら?」

「おう、スローブローで見つかって逃げ回る羽目になったぜ」


 私たちと別れた後、ジョーとアンディがマルコを見つけて追い駆けたそうだ。

 そのせいで港に配置していた警備が散り、ジョヴァンニが怪しまれないよう出航を手伝う手はずだったマルコの海賊たちがいなかったと言う。


「先に言っとくが、ここで暴れてもお前ら一緒に沈むだけだからな」

「わかってるわ。だからマルコだとわかるまでマストは折ってなかったじゃない」

「…………何処で折る気だったんだ?」

「せめて陸地が見えてからね」

「俺の船に手出したら商品とか関係ねぇからな」

「陸まで無事に送り届けてくれるなら何もしないわ。あなたたちには」


 マルコは疑いの目を向けながらも何も言わない。

 たぶんジョヴァンニならここで脅してくる。

 ちょっと短気だと思う。

 翻って即決なところがあるから、ゲームでもジョヴァンニは主人公とノリで共闘したんだろう。


「何かするにしても、俺らが出航してからにしろ」

「あら、いつチャンスが巡ってくるのかは私にもわからないわ。その逃げ足の早さで即時逃亡をお勧めするわよ」

「…………捕まえようとは思わないのか?」

「私、あなたたちを処刑台に送りたいわけじゃないのよ。何か死ぬ以外で償う落としどころを見つけるまでは、その悪事を邪魔するくらいね」

「おいおい、どんだけ俺たちのことわかってんだ? まさか今までの全部お前さんの差し金か?」


 マルコは疑心暗鬼になったように顔を歪める。

 まぁ、心当たりはなくもない。


「…………疑ったのは、クラージュ王国で密輸組織が私を化け物姫と呼んだことよ」

「ち…………」


 舌打ちするマルコは、密輸組織が何かを聞かない。

 やっぱりルール島の密輸組織とマルコは繋がっていた。


「と言っても、基本的に手を打ったのはお父さまね。私は知っていることをお伝えしただけ」


 マルコが繋がっている可能性と、ゲームの主要ストーリーを壊さない程度の未来のことを。

 ストーリーで暴かれる予定の隠し港のことは秘密にしたけれど、密輸に海賊船が使われていると知って、お父さまは船の監視を強化していた。


「ところで、無事に送り届けてくれるのよね? 行先を聞いても?」

「言うわけねぇだろ。どうせ降ろす時も三人一緒がいいなんて言う気だろう。だったら俺のほうでも交渉が必要になって来る」

「あぁ、アレクセイを攫えと命じたのは北の帝国内部だそうだものね」

「あの新米め」


 ジョヴァンニが漏らしたと察したマルコは渋い顔をした。

 でも新米と言うけれどそこまで歳は離れていないように思う。


 三年前の時点でマルコも新進気鋭の若手海賊。

 魔法使いが海賊をしているということで目立つ存在だったと聞いている。

 そして実力を見せるために危ない荷を運んでいたそうだ。


「フューロイス帝国の次期皇太子を望むのはいったい誰かしら? また口うるさい帝国貴族を相手に商売?」

「言わねぇっての。お前さん、自分の身の心配したらどうだ?」

「そうね。では売り込みをしましょうか」

「は?」

「マストに張りつけはもう嫌だもの。どうせ魔法が使えないよう体力を削るつもりなのでしょう? だったらあなたの監視下で魔法を使ったほうが有用だと売り込むわ」

「おいおい」


 呆れられるけれど、私は最初から商談と言っているのに。

 魔法が今の私の生命線だ。

 使えないような状況に持って行かれても困るのだから、この商談は本気。


「確か船での生活では水の確保が大事なのよね? 海を走る海賊も水や食料を求めて陸に上がらなきゃいけないと聞いたわ」

「…………俺の魔法でもどうにかできる」

「嘘おっしゃい。あなた防御適性じゃない。飲み水を作り続けるだけの魔力はないでしょう」

「本当に化け物姫の名に恥じねぇな」

「そんな名前恥以外の何ものでもないわ。それで? 私ならある程度水を魔法で生成できるわよ」

「無尽蔵に、なんて言わないんだな」

「売り込みですもの。誇大表現はしないわ。それと、さっき見たとおり帆に風を送ることができるわよ」


 予想の範囲なのかマルコは特に驚かないし、興味を持った素振りもない。

 もっと他に買ってもらう必要がある。


「怪我を治すこともできるし、ちょっとした発熱くらいなら病気も治すことができるわ。そうそう、焚きつけなしで火をつけられるわよ? 燃料も大切だと聞いたことがあるの」

「…………このまま黙ってたら何処まで手の内晒してくれるんだかな」

「あら、さすがにとっておきは秘密よ。奥の手は保持していて困ることはないもの」

「へいへい。こっちもお前さんの処遇は決めた。まず、三人別々の部屋に置いとく。で、お前さんは一日三回水を作ること。そのついでに台所の火も見ろ。風はその時の状況次第だな」


 マルコは投げやりにそう言うと、雰囲気を変えて私を見つめる。


「で、もしこの船が襲われた時には、命をかけて守れ」

「アンリとアレクセイは守ってくれるのよね?」

「大事な商品さまだからな」

「わかったわ」

「で、今回は自分から持ってる魔具を見せ…………」


 マルコが話を変えた途端、私は眩暈に襲われた。

 音を立てて椅子から落ちそうになるのを、マルコに支えられる。


「おい!?」

「だ、大丈夫。ちょっと、眩暈が」

「ち、おい! 水持ってこい。お前さんも体力なくなってるなら妙な見栄張るな」


 何を言う前に、私はマルコに片手で椅子から引き立たせられる。

 そしてそのまま船長室のベッドに寝かしつけられてしまった。


毎日更新

次回:人質生活

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