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129話:飛び込み乗船

 遊覧船に乗るためやって来た港で、帝国の王子であるアレクセイが姿を消した。


 アレクセイの不在に、離れている聖騎士たちは気づいていない。

 私が人波を見回していると、アンリが指を差す。


「あそこ! 船員といる!」


 アンリの指の先には、船員と話しながら歩くアレクセイがいた。


「え!? また私たちを置いて行くつもりかしら!」


 どうやらアレクセイは桟橋に向かっているようだ。

 ウィンドウショッピングをした時のように、好奇心が先立って周りが見えていないらしい。

 王子として大切に育てられたことで、周りが自分に合わせるのが普通だと思ってしまっているのだろう。


 アレクセイが向かう先に停泊している船には、ジュエル・プリンス号と書いてあった。


「アレク! まだ聖騎士たちを待たないと!」


 アンリの声にも気づかないアレクセイはどんどん船のほうに行ってしまう。

 私たちを振り返ることなく、桟橋に足をかけていた。


「…………あの船は違うわ!」


 私の叫びにアンリも船の名前が日の出丸ではないことに気づく。

 アレクセイを呼ぶ声に切迫した響きが加わった。


「アレク! 待ってくれ!」


 港には絶えず波の音が響き、人足の掛け声が四方から飛ぶ。

 舟の軋みは高く低く繰り返し、騒々しい港ではアンリの声などないも同じだった。


「あの船員が乗せるお客を、間違えたってことなの!?」


 私は疑問を感じながら走り出す。


「ジュエル・プリンスって、広告が来てた遊覧船だったね?」


 アンリは出遅れたもののすぐに私に追いついて聞いた。


「そう言えば! アレクセイ殿下って最初に確認していたわ!」

「まさか、最初から狙いはアレク?」


 アンリは呟くと、唇を引き結んで足を早める。

 身体能力の差で置いて行かれるけれど、私には魔法がある!


 私が魔力を籠める間に、アンリは声の届く範囲に走り込んだ。


「アレク! 降りて!」

「アンリ?」


 走るアンリの声が聞こえたアレクセイはようやく振り返る。

 けれどすでに桟橋の真ん中で、戻る以外に逃げ場のない場所だった。


「先に乗られるのが羨ましいのでしょう。さ、ここは揺れますからお早く船に」

「あぁ。先に行ってるぞ」


 得意げに答えるアレクセイは全く状況を理解していない。

 船員に促されるまま、桟橋にかけられた登り板へと向かう。


「もうこれは確信犯ね!」


 私は走りながら掌を上に向ける。

 そのまま腕を上に振って、魔法で作った光球を頭上に放った。

 上空へと打ち上がる光球は、一定時間で爆発音と共に破裂する。


 たーまやー。


「なんだあれは?」

「魔法? あ、信号弾のつもりか!?」


 さすがにアレクセイも足を止める。

 私の意図を察した船員は焦った。


 音と光で私たちに辺りの視線が集まる。

 これで気づいていなかった聖騎士や護衛も様子見に動いてくれるだろう。

 たぶん近くにいるジョーとアンディにも異変を報せられる。


「アレク! その船は違うんだ!」


 港の誰もが空を見上げる中、アンリの声が響くようだった。

 はっきりと声に宿る危機感を聞いたアレクセイも表情が変わる。


 アレクセイが登り板で踵を返した瞬間、船員が動いた。

 乱暴に背後からアレクセイの胴に腕を回したのだ。


「何をする!?」

「いいから来い!」


 従順なふりを投げ捨て、船員はアレクセイを抱える。

 異変を察して舟にいた別の船員も出て来て、瞬く間にアレクセイを船上に引きずり込んだ。


「待て! アレクをどうするつもりだ!?」


 船の元まで駆け込んだアンリは、登り板に足をかける。

 船員は登り板を外そうと動いた。


巨人の一投足ギガンテス・トライフル!」


 魔法で自分の重さを操ったアンリに、船員は登り板を動かせなくなってしまう。


「もういい! 登り板は捨てろ! 出航だ!」


 船内から命令が飛ぶと、船員は登り板の回収をやめる。

 代わりに数人がかりで船との連結を外し始めた。


「あ…………!?」

「アンリ!?」


 姿が見えないアレクセイの声からして、まだ甲板にいるようだ。


 その間にアンリは登り板ごと海へと放り出されてしまっていた。


「アンリ! 掴まって!」


 私は風の魔法で飛ぶと、アンリに腕を伸ばす。

 まだ滞空時間は短い。

 それでも空中のアンリを掴むことに成功した。


 風で足場を作ってもう一度飛ぶ。


「う! 届かない!?」

「メアリ! 僕を!」


 手を伸ばすアンリの考えを察して、私はアンリを振る。

 するとアンリは船の縁を掴んで私が落ちないよう支えてくれた。


「う…………!」

「アンリ!」


 ただ私の体重を片手に受けたアンリは苦痛の声を上げる。

 状況を改善しようと魔法を使う前に、私たちは上から引っ張られた。


 そしてそのまま甲板に投げ出される。


「きゃ!?」

「うわ!?」


 乱暴な救出すぎる。

 痛みに耐えるためうつ伏せのままでいたいけれど、そんなことをしている暇はない。

 私は歯を食いしばって肘を立てて起きようとした。

 瞬間、硬質な輝きが視界に入る。


 すぐ目の前には剣。

 アンリも同じ状況に陥っている。


「自分から飛び込んでくるとは、とんだ奴らだぜ」

「やめろ! 二人に手を出すな!」

「アレク!?」


 アンリが捜すように辺りを見ると、アレクセイも捕まって剣を突きつけられている状態だった。


「ほう? その目の色、帝国のは腑抜け王子だと聞いていたがどうして。あんがい肝が据わってるじゃねぇか」


 船室から現れたのは羽根の飾られた帽子を被った男。

 適当に括った長い髪、日に焼けた褐色の肌、若いけれど荒っぽい生活の影が見える容貌をしている。


「海賊!?」


 私が思わず叫ぶと、ただの船員のふりをしていた海賊たちがざわついた。


「船長…………」

「あぁ、まさかこんな子供に顔が割れてるとはな。船下りずに正解だったぜ」


 私が海賊の船長の顔を知っていたわけじゃない。

 もう一人の私が知っていただけだ。


 『不死蝶』が海賊ごっこを始めて海を荒らす夏のイベントで、主人公側について船を出してくれる海賊がいる。

 それがイベント限定キャラクターのジョヴァンニ。

 今私の目の前にいる船長だった。


「ま、なんにしても今はゆっくり話している暇はない」


 ジョヴァンニの指示で私たちは縄で縛られる。


「僕に気安く触るな! 僕が誰だかわかっているのか!」

「わかってるから誘拐したに決まってるだろ。こっちは噂どおりの我儘野郎か」


 ジョヴァンニは嫌そうに言うと、船の加速を命令する。


 縛られてようやくアレクセイの近くに来れた私は、大きな怪我がないことを確認した。

 けれど何処かでぶつけたのか白い服が汚れてる。まぁ、私もきっと同じだろうけど。


「大丈夫?」

「馬鹿! なんで来たんだ!」


 声をかけると怒鳴られた。


「アレク! メアリは君を…………!」

「君もだアンリ! 余計なことをするな!」


 怒鳴り散らすアレクセイに、ジョヴァンニが威圧するように声を上げた。


「ぴーぴー騒ぐな。てめぇら自分の立場がまだお偉いとでも思ってんのか?」


 殺気を放つ姿はゲームと違う。

 当たり前だ。海賊は犯罪者で捕まれば命の保証はない。


「だが船長として言っておこう。招いちゃいないがようこそ、この仮初の海賊船へ。歓迎するぜ」


 私たちの怯えた視線を受け、ジョヴァンニは満足そうに笑った。


毎日更新

次回:面倒ごとの種

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― 新着の感想 ―
[一言] シャノンちゃん…(´・ω・`) 事件に巻き込まれすぎでしょwww( ̄▽ ̄)
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