第58話 ポンコツイケメソ
「とりあえず切るから……ごめん」
琴葉の返事が来る前に通話終了ボタンをタップする。
あれからずっと琴葉は苦しそうに泣いているだけだった。
「後で謝罪のスタンプでも送っておくか……」
そう言って、スマホを机の上に置く、そのままベッドの上に横たわった。
「弟か……」
考えてみればそういう話を深愛姉としてなかったな……。
一緒に暮らし始めたすぐの頃はずっと避けていたことを思い出し、なぜか乾いた笑いがでていた。
深愛姉はわかるけど、どうして琴葉が?
琴葉と深愛姉の話ぶりでは深愛姉とは小学校の付き合いだと話していたから?
弟とも付き合いがあったことはわからなくもないが……。
だからと言ってあそこまで苦しそうに泣くのは、何か特別な理由でもあるのだろうか……
「……わかるわけないよな」
もちろん、結論など出るわけがなくただ勝手に推測をするのみになったことに飽きてきたのか、滅多に使わない脳を動かしたの原因なのか次第に眠気が押し寄せてきたので、このまま寝ようとしたが……
「ゆうやー! そろそろご飯にするよー!」
もう少しで夢の世界に行けるかと思ったところで毎度のように深愛姉がノックもせずに勢いよく部屋のドアを開ける。
いつかこのドア外れるんじゃないか?
「って寝てたの?」
青を基調としたスウェットタイプのパジャマ姿の深愛姉はそのまま部屋の中に入り、ベッドの前に立つ。
「……もう少しで寝そうだった」
大きなあくびをしながら体を起こす。
「よかったぁ、悠弥寝ちゃったらなかなか起きないからね! それよりもご飯食べちゃおうよ!」
深愛姉が夕飯のことを口にした途端、俺の腹の虫が鳴り出す。
自分でも気がつかないうちに腹が減っていたようだ。
「早くご飯食べてプリン食べたいしね〜」
メインを食べる前にもうデザートのこと考えていた。
「……ちゃんと夕飯食べてからな」
俺は立ち上がるとデザートのことで気分がよくなっている深愛姉の後ろにくっついてリビングに向かっていった。
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「ごちそうさまでしたー!」
目の前で両手を合わせる深愛姉。
食器の隣にはもちろんカップタイプのプリン。
勢いよく上蓋を外すとプリンの上に溢れんばかりのきなこが乗っていた。
「きなこ大勝利プリンなんだって、コンビニ行ったら新商品コーナーにあったんだよ!」
深愛姉はスプーンできなこがこぼれないようにゆっくりとプリンを掬って口に運んでいく。
「……うん」
「って悠弥、さっきからそれしか言ってないけど、どうしたの?」
深愛姉はスプーンを持ったまま心配そうに俺の顔を見ていた。
「……別に何でもないよ」
もちろん毎度のように深愛姉の分を食べたことによる胃が限界ギリギリなのとさっきの琴葉のことが気になって考えてしまっていたからである。
食事中深愛姉が何か話していたような気がするがほとんど生返事で返していた。
「それならいいけど……」
心配そうな表情をしているが目の前にあるプリンを食べていく深愛姉。
「……ごちそうさまでした」
胃が少し落ち着いたので手を合わせたあと、すぐに立ち上がった。
「あ、お風呂沸いてるから入っちゃってー」
「……わかった」
俺はお腹を抑えながらリビングを出ていった。
「……悠弥、大丈夫かな?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゆっくり湯船に浸かりながら胃が落ち着かせてから風呂から出た。
いつもならリビングに戻るところだが、今日に限ってはそのまま部屋に戻りいつもならゲームを起動……と行きたかったがそんな気分にもなれずにそのままベッドに横へ。
そして気がついたら夢の世界へと旅立っていった。
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「廊下に市川先輩がいるんだけど!?」
「うそだー……ってホントだ! なんで!?」
次の日、午前の授業が終わり、理人と2人で昼どうするか話していたところ、クラスの女子に声をかけられて廊下の方を見ると、若干気まずそうな顔をしている大地が俺の方を見て小さく手を振っていた。
「……悪い、昼用事ができたから」
理人にそう告げ、招いてもいない客人の元に向かう。
「昼飯どきに悪いね」
「別に何食おうか悩んでたのでいいですけど……」
「ここじゃなんだし、ちょっと移動しようか?」
そう言って大地は歩き出していった。
途中、パンを抱え込んだ習志野が通り過ぎた気がするが、気のせいだろう。
「あれ……佐倉??」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
大地に連れて来られたのは、立ち入り禁止と書かれた扉の奥にある場所だった。
つまりは屋上だ。
「代々テニス部の3年だけに受け継がれるロックキーのおかげなんだぜ」
大地は滅多にやることがないと思われる顔が引きつったキメ顔でサムズアップして俺を見る。
屋上はもちろんのこと俺と大地しかいない。
周りはフェンスに囲まれているが、高校生ぐらいの身長があれば軽々乗り越えができるぐらいの高さしかなかった。
これは立ち入り禁止にもなるだろうなと納得。
「それで……話ってなんです?」
俺が話を切り出すと、大地は再び気まずそうな表情をしてフェンスにもたれかかりながらゆっくりと座っていた。
俺もそれに続いて大地の横に座る。
「昨日は本当に悪かったよ、あれからエライ目にあってさ」
そう言って大地は毛が固そうな髪の毛をボリボリと掻く。
「松戸って袖ヶ浦さんの友達がいるんだけど、話したらもう言葉のマシンガンがすごいこと、ゲームなら俺、残機0になってゲームオーバーになってたよ」
そういや琴葉は俺が電話する前にこの男と話していたんだっけか……。
「で、彼女から聞いたんだけど、袖ヶ浦さんのお母さんが君のお父さんと再婚したんだってね」
「……そうですよ」
「だから、君は『弟』と言っていたことは納得できたよ、もうちょい早くいってくれればなあ」
いや、言おうとしたけど、おまえが勝手に変な解釈したんだけど?
「でもさ、義理の姉弟とはいえ、つまりは他人なわけだよね?」
「……ですね」
この後にこの男が言いそうなことが安易に想像できてしまい俺は呆れでため息が出そうになる。
「や、やっぱりさ! 佐倉くんと袖ヶ浦さんは——」
「——どんな形であれ姉と弟ですよ。 それ以上もそれ以下もないです」
俺は投げ捨てるように答える。
「じゃ、じゃあ! まだチャンスはあるってことだよな!」
大地は小さくガッツポーズをしていた。
琴葉がポンコツという理由がわかったような気がした。
「あるんじゃないですか? 責任は全く持ちませんけど……」
今のところ深愛姉が誰かと付き合っているといった話は聞いていない。
そんなことがあれば本人もしくは琴葉から来るに違いない。
——深愛姉の超鈍感っぷりじゃそれはないと思うが。
「よっしゃあ! それを聞いて俄然やる気が出てきた!」
大声をあげながら大地は立ち上がっていた。
その大声をかき消すように昼休みの終了を告げるチャイムが鳴り出した。
「ってやば!? 次の時間体育だ! 急いで戻るから君も早く出て!」
大地は急かすように俺の背中を押してくるので、急いで校舎の中へ入っていく。
俺が出たのを確認すると大地は扉にかけられていたナンバーロックキーをかけて番号がバレないように番号の部分をガチャガチャと回していく。
「ま、ここはテニス部だけの特別な場所なんでね」
得意げに大地は俺の方を見ていた。
「……早くしないと授業に遅れますよ?」
俺の返答に慌てふためき、階段を踏み外しそうになりながら急いで降りていった。
「……絵に描いたようなポンコツだな」
俺は呆れたようにため息をついていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日の授業が終わり、そのまま真っ直ぐに家に帰る。
玄関を開けるが、家の中は静寂に包まれていた。
「そう言えば深愛姉、今日は教習とか言っていたな……」
そのまま自分の部屋に行き、制服から着替えるとベッドに目が行き、そのままベッドに飛び込み、安息の地へ旅立っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「……や、……いま」
何も見えない漆黒の中でなんか聞き覚えのある声が耳の中に響いている。
何を言っているのかはわからないが……
「……や! ……のー?」
何か声が大きくなっているような気も……
その後すぐにドンドンドンと一定のリズムが鳴り出していき、そしてすぐに……
「悠弥! 起きてるなら返事してよー!」
ドン! と大きな音がすると同時に漆黒の空間が鮮やかに彩られ、俺の視界には何度見たかわからない茶色に塗られた天井が写っていた。
「って……寝てたの?」
視線を声の方に向けると、制服姿の深愛姉が立っていた。
「……おかえり」
「ただいまー……って顔色悪いけど大丈夫?」
「……そりゃ寝てる時に大きな音立てられたら誰だって顔色軽くなるだろ」
頼むからドアを開ける時はノックしてから入って欲しいんだけど……。
深愛姉はごめんねと小さく言うと、部屋にあるPC用の椅子に座る。
「あのさ悠弥……?」
椅子を回転させて俺がいるベッドの方を向く深愛姉。
あくびをしながら体を起こし深愛姉を見る。
いつも笑顔で話しかけてくるが、今日はなんだか表情が固く見えた。
「……どうした? 言っておくが深愛姉のプリンは食べてないからな」
軽い冗談で返すが、深愛姉の表情が柔らかくなることはなかった。
その後に言った言葉で俺の方まで表情が固くなっていった。
「……私に何か隠しているでしょ?」




