第59話 2人の仲は深まっていく
「……私に何か隠しているでしょ?」
俺の部屋でPC用の椅子に座っている深愛姉はいつにもなく真剣な眼差しで俺をみていた。
「……な、何だよ隠し事って?」
俺は寝起きでほぼ稼働していない脳をフル回転させ平然を装って答える。
急なことで心臓がものすごい鼓動しているのは言うまでもない。
深愛姉に聞こえてなければいいが。
「そんな震えた声で平然を装っても意味ないよ。 別に怒ってるわけじゃないからね」
深愛姉は俺を安心させるためなのか、いつものにこやかな表情に戻っていた。
これ以上は誤魔化しが効かないと判断した俺は大きく息を吐きだす。
「……まったく深愛姉には敵わないな」
「そりゃお姉ちゃんだからね」
「……はいはい」
俺は事の顛末を深愛姉に全て話した。
大地が口を滑らして深愛姉に弟がいて既に亡くなっていることや琴葉に聞いたら泣き出されてしまったこと全て。
話を聞いた深愛姉は目を閉じてしばらく黙っていた。
「……ごめん」
長く続いた静寂の間に耐え切れなくなり、俺は思わず謝りの言葉を口にした。
「ふぇ!? あ……怒ってたわけじゃないよー!」
深愛姉は慌てて目を開けてから慌てふためいていた。
「大地くんは相変わらずだなって思ったり、でも私がすぐにママが再婚して苗字が変わったことを彼に言えばよかったなって反省してたんだけどね」
深愛姉は話しつつ肩を落としていた。
「……それに悠弥にも話しておかなきゃ行けなかったんだよね」
深愛姉はそう呟くと苦笑いをしていた。
「かと言っていきなり言われても、混乱してると思うけどな……」
いつもの深愛姉の撮影や教習所の愚痴ならともかく、この件に関しては軽々と話せることではないし、タイミングがとても重要だと思う。
自分のやったことを肯定するつもりはないが、こんな機会がなければ。
「琴葉から聞いたと思うけど、私には弟がいたの、大翔っていうんだけどね、私の1つ下だから悠弥と同い年になると思うんだ」
本当の弟のことを話す深愛姉。
「よく一緒に遊んだり、遊びすぎて一緒になってママに怒られたり、自分でも言うのも変だけどすごく仲のいい姉弟だったんだよ!」
思い出を楽しそうに話す深愛姉はものすごく嬉しそうに見えたが、次第に声のトーンは落ちていき……
「でも……私が中学2年の時に……」
気がつけば深愛姉の頬には雫が流れていた。
「しんじゃ……っ……」
おそらく『死んじゃった』と言いたかったのだろう……
だが、最後の言葉を発する前に深愛姉は大量の涙を流しながら嗚咽の声をあげてしまっていた。
「深愛姉……」
深愛姉はしゃべることができなくなるぐらい子供のように大声をあげて泣いてしまっていた。
「もういい! 話さなくていいから……!」
俺はベッドから立ち上がり、泣いている深愛姉の体を抱きしめると深愛姉は俺に強く抱きつきながら泣き続けていた。
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深愛姉が泣き止むのにどれぐらいかかったのだろうか。
俺が起きた時には窓から夕日が差し込んでいたような気がするが、今は夕日の姿はなく、窓から見える外は街灯や近所の家の灯りがちらほらと見えるぐらいで基本的には真っ暗だった。
細かい時間はわからないが、それなりにかかったと言うことだろう。
「悠弥……」
ようやく落ち着いたのか、深愛姐が俺の名前を呼んだ。
「……落ち着いたか?」
「うん、ごめんね……」
「別に謝らなくてもいいけどな……」
俺もつい最近、逆の立場になってたことがあるわけだし……。
「うん、ありがと」
深愛姉は動くことなく俺の体に抱きついたままだった。
もう少しかかるかと思っていたのも束の間……
どこからか腹を空かせた様な音が鳴り響いていた。
しかも2つ同時に。
その音に反応するように2人で笑い出していた。
「……悠弥お腹空いてるの?」
「……っていうか深愛姉もだろ? お腹鳴ってたし」
「もー! 女の子にそんなこと言っちゃダメなんだよ!」
「はいはい、わかったよ……」
抱きついていた深愛姉は俺から離れるといつものようににこやかな表情に戻っていた。
「ご飯にしようか!」
「そうだな……」
夕飯は冷凍の炒飯にとインスタントの味噌汁と手抜きとか言われそうな簡単なメニュー。
「「いただきまーす」」
2人同時に手を合わせてから食べ始める。
深愛姉のは少なめにしたつもりなので、今日は俺の胃に負担をかけることはないだろうと思っていた。
「ごめんー! 教習所の帰りにお腹が空いちゃって……」
要約すると、帰り道にあるコンビニの新商品のステッカーの誘惑に負けてついつい食べてしまったとのこと。
「これこれ! 生クリームたっぷりのクレープアイス!」
そう言って深愛姉はスマホの写真アプリで食べたものを見せてきていた。
クレープの生地から白いホイップクリームが溢れそうになるぐらい盛られていた。
胃が苦しい時に見るもんじゃないな。
そして、今日も俺は胃に負荷をかけてしまうことになり全てが終えた時、俺はしばらくの間動けなくなっていった。
「はい、胃の消化を促進させるみたいだから飲んでみてー」
俺がまったく動けなくなっていることに多少の罪悪感を感じたのか、深愛姉が食後に飲んでいるハーブティを俺のマグカップに淹れていた。
「……ありがとう」
せっかくなので飲んでみるとハーブティ独特の味が口の中に広がっていった。
最初は苦味があったが、徐々になくなっていき飲み込むと胃のほうがスーッとするような感覚になっていく。
「ごちそうさま……」
マグカップに入っていたハーブティを全て飲み干す頃には胃の方もスッキリしていた。
「もう、食べ過ぎは良くないんだからねー」
「……誰のせいで食べ過ぎになったんだよ」
俺は盛大なため息をつく。
それを見ていた深愛姉は自分の分のハーブティを飲みながら見ていた。
「そういえば、大翔もよく私の分を食べてくれてたっけ……」
カップをコースターにおいた深愛姉は思い出したかのように下を向いて呟いていた。
「よく、食べ残しをしてママに怒られてたから、それを庇うために食べてくれてたんだよね……」
何か言おうと思ったが、かける言葉が見つからず黙ってしまっていた。
それに気付いたのか、深愛姉は慌てて顔をあげて俺の方を見る。
「あ、ごめん……」
「別に謝る必要はないだろ、深愛姉にとって大事な弟さんなんだろ……今でも」
「……うん」
深愛姉は静かに返事をする。
「大翔はもういないけど……今でも私の弟であることに間違い無いから」
「そうだな……」
「でも……」
「でも……?」
俺が言葉を返すと深愛姉は柔かに微笑む深愛姉。
「もちろん悠弥も私の大切な弟だからね!」
「……なんかとってつけたような言い方だな」
俺は思わず茶化すように返す。
「もう! いいこと言ったのになんでそういうこと言うのー!」
深愛姉は頬を膨らませながら叫んでいた。
照れたなんて言えるわけないだろ、察してくれ。
「……でも、やっと言うことができてちょっと楽になったかも」
「何が?」
「大翔のこと。せっかく悠弥とは家族になったのに隠し事をしたくなかったから……」
「そっか……」
「こう言う機会がないと言えないからね、ってことは大地くんが口を滑らしたことも悪くなかったのかもしれないね」
深愛姉はふふっと笑っていた。
「……そうなのか?」
「うん!」
深愛姉は屈託のない笑顔で答える。
本人が聞いたら泣いて喜ぶんじゃないか?
「さてと、お風呂どうする? 先に入りたいなら——」
「……先にどうぞ」
先に入ってもよかったが、深愛姉の顔をみたら先に譲るしかなかった。
さっき大泣きしてそのままだしな。
「うん! それじゃ先に入るね!」
深愛姉は自分と俺のカップとコースターをシンクに置き、そのままリビングのドアを開ける。
「悠弥……」
ドアの前で立っていた深愛姉は廊下の方を見ながら俺の名前を呼ぶ。
「どうした……?」
深愛姉は少し間を開けてから俺の方を向く
「こんなお姉ちゃんだけど、これからもよろしくね!」
俺を笑顔で見ていた。
「……どうしたんだ?」
「言いたくなっただけだから!」
そう言って深愛姉はリビングのドアを閉めて洗面所に向かっていった。
「……何なんだよ、一体」
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俺はため息をついた後、深愛姉がシンクに置いたカップを洗うために立ち上がる。
水道の水を流しながらスポンジに洗剤をつけてカップを洗っていき、終わったカップを食器棚に置くと、そのままリビングをでる。
階段を登る直前で、深愛姉がいる洗面所の方をみると微かだがシャワーの流れる音と深愛姉の鼻歌が聞こえていた。
「……こちらこそ、よろしく」
誰に言うわけでもなく俺はただ一人呟き、そのまま階段を上がっていった。




