第26話 深愛のファン
「遠回しに話すの嫌いだから単刀直入に聞くけど、これアンタだよね?」
隣の席の女、習志野に連れられてきたのは学食。
午前中でしかも今日は始業式で部活も休みのため、生徒や食堂のおばちゃんもいなかった。
習志野が座った席に向き合う形で座ると彼女が読んでいた雑誌を開いて俺に見せてきたのである。
「さあ? 他人の空似じゃないか?」
俺の返答に対して目の前の女は嘘でしょ?と言わんばかりの顔をしていた。
「どっからどう見てもアンタ以外にありえないんだけど!」
「世の中自分と似たのが3人はいるって聞いたことあるけどな」
「って話を逸らそうとするな!」
「何度言われても違うものは違うからな」
「じゃあ何でさっきこのページ見て驚いてたんだよ!」
上手く隠せてたと思っていたが、見事にバレていた。
「その男の顔に光が当たってて怖いものにみえたんだ」
写真の俺の顔を指差して思いついたことを話す。
なんか、自分で自分の顔を指差すって変な気分だな。
「そこまで違うって言うならそうか……納得いかないけど」
どうやらうまくまるめこむことに成功したようだ。
「それじゃ、俺は教室にもど——」
「ここにいたのかよ、探したじゃねーか!」
席を立とうとしたところ、やかましい声が学食内に響き渡る。
入口を見ると理人が立っていた。
俺を探すのに走ったのか、ゼェゼェと息を切らしていた。
「まったく、図書室で借りた本の期限が過ぎただけでいちいち呼び出すなよな!」
怒りの声をあげながら俺がいる方に近づいてきた。
「……もしかして俺いなくなったほうがいい?」
俺と習志野が話しているのをみて何か勘違いをしているようだ。
「いや、大丈夫だ。 それに話は終わったからさっさと帰るぞ」
「ういっす……ってあれ?」
「何だよ」
「いや、それ」
理人はテーブルに広げられたファッション雑誌を指差す。
「どうみても深愛さんとおまえだよな? 姉弟でスカウトでもされたのか?」
理人の声にすぐ反応したのは習志野だった。
「きょうだい……!?」
「この人コイツの姉貴。 超かわいくて胸もでかいし、マジで悠弥が羨ましいぜ」
理人は今にもヨダレを垂らしそうな顔をして両手全ての指を動かしていた。
「そんなことは置いといて、俺の胃袋も限界きたからさっさと飯食いに行こうぜー……ってどうした悠弥、机に突っ伏して悲しいことでもあったのか?」
「そうだよ、せっかくうまくいくところだったのにな」
俺はゆっくりと立ち上がると、理人の目の前に立ち、右手でコイツの頭を掴む。
「おまえだけは絶対にゆるさねえからなあああああああ!」
叫び声をあげると同時に掴んだ手の全ての指に力を込めた。
「いだだだだだ!!!! マジでいてえからあああああ!!!!」
理人は悶えながら体全体を使って俺の手から逃れようとするも、苦しみの果てにそのまま崩れ落ちてしまった。
「……悪は滅びるのが世の常だ」
「いやいや、何なのこれ!?」
俺と理人のやりとりに習志野は困惑していたが、俺が気づいたのは数分後のことだった。
「じゃあMIOさんはえっと、佐倉のお姉さんなの?」
「……そうだよ」
習志野は雑誌に載っている深愛姉の写真を指差す。
よく見ると小さく『MIO』と載っていた。
正確には義理の姉だが、説明するのも面倒なのでやめておいた。
「じゃあ、MIOさんと一緒に映ってるこの男はやっぱり!」
「……俺だよ」
「じゃあ何でさっき嘘ついたんだよ!?」
「恥ずかしかったんだよ……」
そもそもこの写真が載るなんて聞いてもいなかった。
もしかしたら深愛姉が茂原さんにOKだしたって可能性もありえそうだけど。
「それならそれで嘘つかないでそう言えばいいのに」
「……言い返す言葉もございません」
俺は両手をテーブルにつけてテーブルギリギリまで頭を下げる。
「べつにもう責めてないから、さっさと頭あげろよ! これじゃ私が悪いことしたみたいになるだろ」
習志野は両手を使って俺の頭をあげるような仕草をする。
言われた通りに頭を上げて習志野の顔をみると、慌てふためいていた。
「でもいいなあ、MIOさんがお姉ちゃんなんて」
「そう……なのか?」
「私、長女で下は男だらけだからさ、お姉ちゃんほしかったんだよねえ」
何かいきなり自分のこと語り始めたんだけど。
「あ、そうだ!」
目の前で両手をパンと叩いた習志野は俺の顔を見る。
「さっきの嘘ついたことはチャラにしてあげるから!」
「……なんだよ」
「MIOさんに会わせてくれない?」
先程まできつい目をしていた習志野だが、今は子供のように目を輝かせていた。
Yuya.Sakura
『いま家にいる?』
Mio Sakura
『もう家に帰ってるよー』
Yuya.Sakura
『今から帰るけど人連れてきていい?』
Mio Sakura
『大丈夫だよー もしかして女の子だったり?w』
Yuya.Sakura
『そんなわけないだろ、それじゃまた後で』
Mio Sakura
『わかったよー! 気をつけてねー』
俺はため息をつきながらスマホをポケットの中にしまう。
「いいってさ……」
「うそ! マジで! やったああ!」
習志野は今にも泣きそうな表情をしていた。
「ちょっとまって、私、変な匂いしてないよね? コロンもってきてたかな?」
自分の体の匂いを嗅いだり、カバンの中身をみたりと急に忙しなくなっていた。
「ってか佐倉の家ってどこなの?」
「歩いて20分ぐらい」
「マジで近いじゃん、羨ましい!」
この学校を選んだ一番の理由がそれだし。
「それじゃ、早く行こ! 待たせたら失礼だし!」
「深愛さんに会えるの!? ならオレも!!」
後ろのテーブルにある椅子を3つ使って横になっていた理人がムクリとゾンビのように立ち上がった。
「ここが佐倉の家? でかくない?」
学校をでて20分ほどあるいて家に到着。
俺の家を見るなり、習志野は驚きの声をあげていた。
「どうだ、すげーだろ?」
「……おまえの家じゃないだろ」
理人に悪態をつきながらそのまま鍵を開けて玄関を開けた。
「ただいま……いいよ入って」
「おじゃましまーす!」
「おじゃましま——」
「——理人おまえはダメだ」
「なんでじゃああああ!」
俺と理人がくだらないやりとりをやっているとリビングのドアを開けて深愛姉が顔をだしていた。
「あ、おかえりー……」
「わ、わわわわわ……!!」
深愛姉の視線は俺ではなく習志野を見て驚き、見られた習志野はいうまでもなく深愛姉の姿をみて泣きそうな表情をしていた。
「うわっ、冗談だとおもったけど、本当に女の子連れてきてる!?」
予想通りの深愛姉の反応に俺はため息をついた。
「深愛姉、とんでもない勘違いをしてるけど」
「み、みみみみみ! MIOさんだああああああ!」
習志野は念願の相手に出会えたことで感極まったのか大量の涙を流していた。
「悠弥……どういうこと!?」
「……用があるのは深愛姉にだよ」
「わ、私! 習志野 凪沙って言うっス!」
「はじめまして、佐倉 深愛です」
「い、いつも雑誌では、拝見しているっス! 本物に会えるなんて私死んでもいい! ってか本物マジで綺麗すぎて!」
「そんなことないよ、習志野さんも健康的な肌色で可愛いよー」
「いやいや! 私は単なるスポーツ焼けで色黒なだけです! それに私のことは凪沙って呼んでください!!」
「それじゃナギちゃんで!」
「MIOさんに名前で呼んでもらえるなんてー!」
俺と理人はダイニングテーブルの方からソファに座っている女子2人のやりとりを黙って見ていた。
緊張のせいなのか、習志野が緊張のあまり口調がおかしくなっていた。
「俺、これでカップ麺2個いけるかもな」
「体に悪そうだな……」
ため息混じりに理人へそう返す。
「あ、えっと……深愛さん! 一個お願いしてもいいですか!」
「うんいいよー、どうしたの?」
「深愛さんの体触らせてほしいっス」
「ふえ!?」
直接言われた深愛姉も驚いているが聞いていた俺と理人にも影響が出ていた。
カップ麺のスープを飲んでいた理人はスープが気管に入ったのかむせていた。
「ち、違うっス! 邪な気持ちじゃなくて! 自分の理想の体型をつくりたいからどうなってるかっス!」
習志野は手をバタバタとさせていた。
「う、うん……そういうことならいいけど」
「やったああああ! それじゃさ、早速!」
習志野はまず深愛姉の肩をガッチリと掴む
「肩がスラっとしてるから服が合わせやすそうだなあ」
「そうでもないよー……トートバッグとかすぐ落ちちゃうし」
習志野の手は深愛姉の腕に移っていた。
「色も白いし、細いし……それにやわらかいっス」
「そ、そうかな……」
さっきから褒められっぱなしだからか、深愛姉の顔が真っ赤になっている。
腕を確かめたあと、習志野は腕を組んで唸り声をあげていた。
「やっぱりここかな……」
どうやら狙いが定まったのか大きく息を吸い込む。
「深愛さんごめんなさいっス!」
そして習志野は大きな声で謝ると深愛姉の胸元を両手で触れていた。
「ふぇ!?」
突然のことで驚く深愛姉、滅多に聞かない声をあげていた。
「どうしたらこんなに形のいい胸ができるんスか! 羨ましいっス!!」
「そ、そんなこといわれても……」
「なあ悠弥くん……」
目の前でゾッとするような気持ち悪い声が聞こえてきた。
「何だよ気持ち悪い」
「あれ、俺も混ざっていいかな?」
「人としての生を終えたければどうぞ」
「……マジかよ、天国が目の前にあるのにどうしたらいいんだよ!」
カップ麺のスープを飲み干した理人は悔しそうにテーブルをバンバンと叩いていた。
「深愛さんみたいな胸がほしいっス!」




