第25話 二人目のギャル
「憂鬱だ……」
「もー! 悠弥ずっとそればっか!」
リビングで朝食のサンドウイッチを食べながら、俺はため息をつく。
今日から新学期が始まったのである。
「いいじゃん2年生ってクラス替えあるから楽しそうじゃん!」
俺が2年になるということは深愛姉は3年になる。
俺の学校はわからないが、彼女の学校では3年になる時のクラス替えはないと話していた。
「クラス替えいいなあ! 仲の良い友達と同じクラスになれた時ってすごいテンションあがるじゃん!」
「全然」
「例えばこの前来た理人くんと同じクラスに——」
「——さすがにもういいや」
「なんで?」
「あいつともう4年も同じクラスなんだよ」
理人と最初にあったのは中学1年の時。
たまたま席が近く、ゲームの話で盛り上がったのがきっかけだ。
中学の時は2年と3年でクラス替えがあったが、全部一緒のクラスだったのである。
高校も同じになってそんなことはないというか勘弁しろと願っていたがその願いは天に届くことなく高校生活最初の1年も同じクラスになっていた。
「いいなー! 私なんか琴葉と同じクラスになったことないんだよ!」
俺の話がよほど羨ましかったのか、いつものように頬を膨らませていた。
「それよりも深愛姉、時間平気?」
俺は自分のスマホの画面を深愛姉に見せる。
「そろそろ行かないと! いつものように着替えたら洗濯機回しといて!」
「わかったよ」
深愛姉は椅子にかけていた学校指定のダッフルコートを着ると玄関の方へ走っていった。
「いってきまーす! サボっちゃだめだよ!」
「……まったく言ってることが母親だな」
俺は乾いた笑いをしながらカップに残っていたコーヒーを飲み干し着替えるために自分の部屋へと向かった。
「……休みの日に戻れる能力がほしい」
制服に着替えてからすぐに家を出て学校に向かって歩いているがものすごくダルい。
どうせ初日ですぐ終わるからサボってもいいかと邪な考えが頭をよぎるが、バレた時に色々と面倒なことになりそうなのでやめておいた。
20分ほど歩いて学校に到着した。
いつもならこの時間、校庭にはほとんど人はいないが今日に限っては人がごった返していた。
「……しまったクラス発表か」
朝、深愛姉とそんな話をしていたことすっかり忘れていた。
人の波をかき分けて掲示板の前へ立つことに成功し、大量の文字が羅列されている中から自分の名前を探す。
「あった……3組か」
2年3組の枠の中にある自分の名前を発見してホッとする。
「一応念のため……」
3組の枠の中を再度見渡すと自分の名前の上に『香取理人』と書かれていた。
——今年も自分の願いは天に届くことはなかったようだ。
「……最悪だな」
俺はぐったりと肩を落としていた。
周囲からは仲間同士で同じクラスになった生徒やクラスにならなくて今にも泣きそうになっている生徒などが賑わっていた。
「一緒のクラスになるってそんなに嬉しいものなのか……?」
何気なくそう思いながらも俺は校舎の中に入っていった。
新しい教室は2階にだった。
1年の時は1階にあったので上履きに履き替えてすぐに教室に入れたが、今年からは階段を登る必要がでてきた。
「エレベーターかエスカレーターとかつけてくれよ……」
そんなことを呟きながら教室の扉を開けて中に入っていく。
教室の中では元々仲が良かったか、すぐに打ち解けあったのか定かではないがクラスメイト同士の会話で賑わっていた。
「席はどこだ……?」
「席は黒板に書いてあるよ」
入り口付近にいたクラスメイトに声をかけられ、黒板の方に目を向けると席順が書かれていた。
自分の名前は黒板の左下あたりに「佐倉」と書かれていたので、その場所に向かうと机には「佐倉 悠弥」と書かれたシールが貼ってあった。
財布しか入っていない鞄を机の上に置くと、ドサっという音にびっくりしたのか隣に座っていた女子生徒が俺の方を見ていた。
女子生徒は首元まで伸び、ウェーブがかかったほとんど金に近い茶髪、肌は地黒なのだろうか、若干黒く見えていた。
深愛姉とはまた違った感じのギャルのようだ。
黒板を見るとその席には「習志野」と書かれている。
「さっきからこっちをジロジロと見ているけど何かあるの?」
「……いや別に」
俺がそう答えると女子生徒は頬杖をつきながら雑誌を開いていった。
席につくとやることもなく俺は鞄を枕がわりにして机に突っ伏していた。
「おっす悠弥! 今年も宜しくな!」
やかましい声と同時に背中を叩かれ、顔をあげると目の前には理人が前の席座ろうとしていた。
「このクラスじゃないだろ?」
「おいおい、ここにちゃんと書いてあるし!」
理人は机に貼られたシールを指差す。
「同姓同名だろ、そもそも進級できてないだろ?」
「いやいやできたよ!?」
「いくら積んだんだ?」
「お金よりも大事な2月のテスト休みが犠牲になったんだよ!」
理人のやかましい声が教室内に響き渡っていた。
何人かはこちらを見ているような気がした。
「そんなつれないこと言わないで、今年1年よろしく頼むぜ、相棒!」
理人は親指を立てていた。
「相棒契約として100万を指定の銀行に振り込んでもらおうか」
「俺はいつからヒットマンと相棒になったんだよ!?」
理人はオーバーなぐらいに大声をあげていた。
「ちょっと俺トイレ行ってくる」
「いってらっしゃい、二度と帰ってくるなよ」
「新学期早々辛辣すぎない!?」
やかましい声をあげながら理人は教室から出ていった。
静かになったと思い、再び机の上に突っ伏すがページを開く音が耳に入り、思わずそっちを向いてしまう。
向いた先は隣の女の席。
隣の席の女は先ほどと同じように頬杖をつきながら雑誌を見ていた。
雑誌の方に目を向けると、女性向けのファッション雑誌のようで、中には大きく『春物コーデ!』と書かれており、所々にモデルらしき女性の写真が載っていた。
「……へ!?」
女が次のページを開いた瞬間、思わず変な声が出てしまっていた。
開いたページにはこの前、深愛姉と撮った写真で深愛姉が中心に映し出されているが、その肩には誰もが見てもぎこちないわかるぐらいガチガチに笑っている俺の姿があった。
「あのさ、さっきからなんなの? 言いたいことあるならはっきり言いなよ」
「……なんでもないです」
すぐに俺は雑誌から目を離す。
「なんなのよ、まったく……」
「9:00から全校集会がありますので、生徒のみなさんは体育館へお集まりください」
理人がトイレから戻ると同時に校内放送が流れ出すと、クラスメイトたちは文句を言いながらもゾロゾロと教室からでていった。
「しょーがない、俺らも行こうぜ」
「そうだな」
すぐに体育館へと向かうと中は既に生徒で埋め尽くされていた。
その中で教師たちが大声をあげながらクラスで固まるように指示を出しており、それに従って自分のクラスの枠に向かっていく。
「それでは校長先生のご挨拶。校長先生、お願いいたします」
暫くして、全校集会が始まり、司会の教師が淡々と進めていった。
壇上の端に座っていた校長は立ち上がり、ゆっくりとマイクの前に立つ。
「お休みの間、生徒の皆さんはどのようにお過ごしでしたでしょうか?」
いつも通り、冒頭の挨拶から始まりダラダラと話を続けていく校長。
どれだけこの話を真面目に聞いているか知る由もない。
「マジかよ……溜め込んだ石全部つぎ込んでも新キャラでねー」
「爆死乙」
理人は最近始めたというソシャゲをプレイしていた。
俺の右隣には隣の席の女、習志野が立っていた。
校長が話していることすら気づいてないといった様子で理人同様にスマホを見ていた。
「……まさかね」
何度か習志野の視線を感じるのだが、気のせいだろうか?
その都度、何か言っているような気もしたが、気を留めることもなく全校集会の間、理人の相手をしていた。
「疲れた……」
全校集会が終わって教室に戻り、自分の席につくと疲れがドッと押し寄せてきた。
校長は30分以上喋っていたが、それでも終わる気配が見えなかったので、さすがに副校長に中断させられていた。
「校長の話長すぎだろ……あれか?奥さんが相手にしてくれないのか?」
流石の理人も疲れたのか、席に着くと何故か俺の机の上に突っ伏していた。
「知るかよ、校長室に乗り込んで聞いてきてくれ」
「オレ、校長室に乗り込んだあと、みんなでゲームするんだ」
「その後、香取理人の姿を学校で見たものはいない」
「勝手に人のセリフをフラグにするなよ!?」
理人と話している時も隣の席から視線を感じたので横を向くと、習志野が目を細めながら俺の顔をみていたがすぐに目線を逸らしていた。
「あら、もしかして悠弥くん、フラグぶっ刺さったいました?」
理人はニヤニヤと下品極まりない笑い方をしていた。
教室に新しい担任が入ると騒がしかった教室内は静かになった。
すぐに担任が自己紹介と明日の予定を話して、新学期1日目が終わりを迎えた。
教室にはすぐに帰る生徒や、仲良くなった生徒同士で話しているのもちらほら。
「この後どうするよ?」
「特に何もないけど」
「じゃあ飯食っていかないか? 朝食ってないから腹減って」
たまにはいいかと思い、鞄を持って早々に出ようとすると校内放送が響き渡っていた。
「2ー3組の香取 理人くん 至急職員室までくるように」
教室に残っていた生徒たちは全員理人を見ていた。
「……短い間だったけど元気でな」
俺は理人の右肩に手を置き、悲しそうな声で告げる。
「いやいや、退学になるようなことしてないからな!」
普段の冗談っぽくではなくわりと真面目な表情だった。
「いいから早く行ってこい」
手で早く行くように促すと理人はブツブツと言いながらも教室から出ていった。
仕方なく俺は机の上に鞄を置いてからポケットからスマホを取り出しウェブサイトやニュースサイトを見ていた。
「あのさ……」
声の方へ向くと習志野がこちらをみていた。
「……なに?」
「あのやかましいのが戻るまで暇なんでしょ?」
やかましいというのは理人のことだろうか? 間違っていないけど。
「……そうだけど?」
「暇だったらちょっと付き合ってくれない?」
習志野は睨みつけるような表情でこちらを見ていた。




