第27話 離れた地で……
「ごめんなさいッス! ついついきもち… …じゃなくて興奮しすぎて!」
習志野は深愛姉の目の前で深々と頭を下げて謝っており、サラリーマンも驚くかもしれないほどの綺麗に直角の形になっていた。
「ナギちゃん、怒ってないから頭あげてよー!」
「ううぅ……深愛さん優しすぎですよぉ」
今にも泣きそうな顔で習志野は頭をあげていた。
「ホント、深愛さんスタイルがいいッスよね、どうしたらこんな風になれるんスか!」
「そこまで言われると何か恥ずかしいね、でもナギちゃんもすごくいいと思うよ」
「そうなんスか?」
「うん、肌の色がすごく健康的だし!」
「単なる部活のやりすぎで焼けただけですよ〜」
リビングで微笑ましい会話を俺と理人は見ていた。
「なぁ、悠弥……」
「何だよ?」
「どうしたらあの2人の中に入ることができるかね?」
「おまえなら普通にいけるんじゃないか?」
「マジで! さすが相棒! 俺のことよく——」
「——あの中にお前が混ざって処されても悲しむやつはいないからな」
「せめておまえだけは悲しんでくれよ!?」
理人が再びテーブルをバンバンと叩きながら嘆く姿を尻目に俺は引き続き2人のやり取りを見ていた。
「ナギちゃんは部活やらないの?」
「やらないっス!」
「どうして?」
「可愛くなれないからッス!」
「ハッキリ言うね……」
「中学3年間毎日やってたんですけど、気がついたらみんな可愛くなっていたんスよ! 気がついたら私だけ何も変わらなかったッス!」
習志野の話によれば、父親が大の野球ファンで、自分の下には弟が2人で基本的に習志野家は男世帯だったと言う。
それもあってか野球を見るときは4人で見ていたようで、実際に野球をしてみたくなって小学校の時は少年野球チームに混ざっていた。
その流れで中学に時に他の部活には目もくれずソフトボール部に入っていたようだ。
「で、気がついたらスポーツ焼けしてたッス」
そう言って習志野は制服の袖をまくり、自分の肌を見せていた。
「別に悪くないと思うよー」
「そっスか? 中々合う服が無くて大変ッスよ!」
「そういえばさ、さっきから気になってんだけど」
2個目のカップラーメンに箸をつけていた理人は習志野を見ていた。
「何よ?」
「何で深愛さんの前だと野球児みたいな喋り方してんだ?」
ずっと思っていたがそのまま直球で聞くとはおもってみなかった。
「うるさいな! 部活やってた時の癖で先輩とかに話すとこうなっちゃうんだ!」
習志野は顔を真っ赤にして叫んでいた。
「別に先輩じゃないから普通でいいよー」
「そんなことないっス! 深愛さんは年上でもあるし、憧れの人でもあるっス!」
目をキラキラと輝かせながら力強く話す習志野に、流石の深愛姉も俺のようにはいかないようだ。
「あの雑誌で深愛さんをみて世界が変わったっス! 部活なんかしてる場合じゃない! こんな感じになりたいって思ったんスよ!」
「な、なんだか嬉しいけど、恥ずかしいなぁ」
「とりあえず形から入って髪を染めてパーマかけたりとしたんスけど、なかなか洋服がしっくりこなかったっス!」
力強く話す習志野の話を深愛姉はずっと聞いていた。
「そうだ! ナギちゃん、私の部屋に来てよ!」
「い、イイっスか?! 汗臭くないかな……」
「大丈夫だよ!」
そういうと深愛姉は習志野を連れて2階に上がって行った。
「俺も行っていいかな?」
理人はラーメンをすすりながら羨ましそうな顔をしていた。
「警察から追われる日々を送りたければどうぞ」
「男に優しくないのかよこの世界はあああ!」
またもや理人はテーブルをバンバンと叩いていた。
「だぁぁぁぁ! また爆死したぁぁぁぁ!」
「うるさい叫ぶな」
深愛姉と習志野が2階に行ってから1時間が経つが2人が戻ってくる様子は全くなかった。
俺はスマホでネットサーフィン。
理人はソシャゲをやっているようでガチャを引いているのか目当てのキャラが出なくて嘆いていた。
「何で5000円課金したのにでないんだよ! 運営にクレームだしてもいいよな!」
「なら俺はお前の家にクレームだしていいか? 息子さんがやかましいと」
「クレームというか単なるチクリじゃねーか!」
文句を言いながらも理人はスマホの画面を睨みつけていた。
「ピックアップで他は出たのにお目当てのキャラだけでないんだぜ?」
「やかましいから物欲センサーに捕捉されたんじゃないか?」
「誰だよそんなものつくったやつはああああ!」
余計やかましくなった。
「ってかさ見てくれよこのキャラ最高じゃね?」
理人は俺の方にスマホをむけてきた。
画面にはゲームのガチャ画面が映っており、ピックアップ対象キャラがスライドされていた。
「この子なんだよ! マ・ジ・で! よくね?」
スライドで目当てのキャラがでると画面をタップしてキャラクターの全体の立ち絵が表示された。
「……気持ち悪い」
「いきなり俺の嫁ディスるのやめてくんない!?」
画面に映るキャラクターの顔はかわいい部類に入ると思う。
「……でかすぎだろ」
胸が大きすぎだった。
大きいのが悪いのではなく、バランスが悪いと言った方が正確か。
「それがいいんだろ! しかもタップすると揺れるんだぜ」
理人はにやけ顔で自分のスマホを何度もタップしていく。
「……キモいから消えてもらっていい?」
「ストレートに辛辣なこと言うのやめてくれない!?」
汚いものを見るような目で理人を見ているとリビングのドアを開ける音が聞こえた。
「おまたせー! ナギちゃん、ものすごく可愛くなったよ!」
入ってきたのは深愛姉だけだった。
「そ、そんなことないっス! 可愛くなんかないっスよ!」
深愛姉の後ろで震えた習志野の声が聞こえてきた。
「大丈夫だから、おいでー」
深愛姉は習志野の手を掴み、ゆっくりとリビングに引き寄せる入ってきたのは、黒のストライプシャツに紺のロングパンツを着た習志野だった。
「み、深愛さん! は、恥ずかしいっすよ!!! 私のヘソなんで人にみせるもんじゃないっス!!」
「やっぱスポーツやってただけあって体が引き締まってるから、全然恥ずかしくないよー」
深愛姉は大絶賛するが言われた本人は恥ずかしさからかその場にへたり込んでしまう。
「む、無理っス!!! 私には早すぎるっス!!!」
顔を真っ赤に染めた習志野はそのまま2階へと走っていってしまった。
「ナギちゃんまってよー!」
深愛姉もそのまま2階へと行ってしまう。
「……何だったんだ一体」
まるで嵐のようなできごとだった。
「うぅ……やっぱり私には可愛い服なんて無理なんだー」
制服に着替えてきた習志野は深愛姉が淹れたハーブティを飲んでいた。
「いいと思ったんだけどなあ……」
「服が悪いんじゃないです、悪いのは私っス!」
そう言ってテーブルをバシバシと叩いていた。
この女といい理人といい何で嘆くとテーブルを叩くんだ……。
「ってかさっきから何やってんだ?」
そう言って理人の方を向く習志野。
向かれた本人はまだお目当てのキャラの体をタップしていた。
「……見ない方がいいと思うぞ、キモいだけだから」
理人はさっきからずっと一心不乱に画面をタップしていた。
ガチャを引くのではなく、先ほどの嫁と称したキャラの胸元を何度も……。
「あ、そのキャラ私もってるよ」
「は!? ってかおまえもやってたのかよ」
理人は指をとめて習志野の方を向いていた。
「言っとくけど、私サービス開始時からのコアユーザーだから!」
そう言って自分のスマホを取り出して、アプリを起動させて理人に見せていた。
「げ……マジで手に入れてるし、しかもお気に入りかよ」
「この子みかけによらず豪速球スキル持ちだよ?」
「わかってないねえ……この子のすごいのはそこじゃないんだよ」
理人は腕を組み自身満々な表情を浮かべていた。
ってか野球を題材にしたゲームだったのか。
「この鷲掴みしたくなるほどの豊満な胸に決まってるだろ!」
自信たっぷりに習志野を指差して答える理人。
だがそれを聞いた習志野は先ほどの俺と同じように汚いものを見るような顔で目の前の男を見ていた。
「うわ、こんな胸に夢とか希望とか持ってるとかマジキモいんだけど」
「おまえまでキモいとかいうな! ってかさっき深愛さんの胸を鷲掴みにしてたろ、けしからん!俺もやりたいんじゃあ!」
俺は2人のやり取りにため息をつきながら隣に目の前にいる姉の方を見ると……
「……どうしたの?」
深愛姉が理人のスマホをジッと見ていた。
「やっぱりこれぐらい大きくないと可愛くなれないのかな?」
ものすごい真剣な表情だった。
「……俺に聞かれても困るんだけど」
「準備ができましたらお呼びしますので、こちらへお掛けになってお待ちくださいませ」
スーツ姿のスタッフに見た目高級そうな一人がけのソファに案内されると自分のスマホをスタッフに渡してすぐに座った。
「なんで急にスマホが壊れるかな……ホントついてないな」
よくスマホを落とすことがあるので、そのうち壊れるかなと冗談で思っていたけど、まさかホントになるなんて。
「撮った写真クラウドにアップされてたかな……」
されてなかったらどうしよう、と思うと同時にため息が漏れてしまう。
気を紛らわすためにスマホでもと思ったら先ほどスタッフに渡したことを思い出す。
「……癖って怖い」
仕方なく、雑誌ラックから目についた雑誌を取ってパラパラと開いてめくっていった。
どうやら高校生を対象にした雑誌のようで映っているモデルも自分よりも若く見える。
さすがに大学生になって高校生がするような服は合わないなぁ……と思いながら次々へページをめくる。
「え……?」
あるページを開くと手が止まっていた。そのページには人気読者モデルと書かれた女の子とその後ろにぎこちなく笑う男の子が写っていた。
「ゆう……やくん……?」
その男の子は私が知り合いっていうか、私が今すぐにでも会いたい子だった。
「成田様! 成田唯香様! お待たせいたしました! 準備ができましたので——」
スタッフが私の名前を呼ぶが、今の私はそれどころじゃなかった……
「——誰よ、この女」
そのページに写る女モデルを脳裏に焼き付かせるかのごとく睨みつけていた。
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