拡散屋
私は高木36歳。
指定された場所へ行き、ターゲットとなる見知らぬ人々に口頭で「決まった情報」を喋り、噂として街に拡散させるのが私の仕事だ。
なぜそんなことをするのかは知らないが、ただ情報を喋り散らすだけの簡単な仕事の割に給料がいい。
契約の際、固く交わされた約束は『仕事内容は一切口外しないこと』
それを破ればどうなるか、考えるのも恐ろしい。
このバイトには、専用の衣装が用意されていた。
つばの広い白いハット、真っ赤なジャケット、そして黒いズボン。
お世辞にも普段着にできるようなデザインではないが、指示書には「作業中は必ずこの衣装を着用すること」と厳重に書かれている。
その日の依頼は、都内の繁華街だった。
スマホに送られてきた指示書に従い、私は赤と白の派手な衣装に身を包んで街へ繰り出した。今日のノルマは10人。みんなそれぞれに起こることを伝えるのだ。
1人目のサラリーマンには「あなたの奥さん、今日宝くじで10万円当たりますよ」と話し掛けた。男は「は? なんだお前」と気味悪がって逃げていった。
2人目のカフェの店員には「あなた、今日客から理不尽なクレームを入れられますよ」と寂しげに囁いた。店員の顔が不快そうに歪む。
そうやって街を歩きながら、女子高生や商店街の店主など、指定された10人に脈絡のない情報を口頭で拡散して回る。10人目に「あなた、明日には大事な落とし物が見つかりますよ」と言い終えたところでミッション完了だ。
着替えのために路地裏へ戻ろうとした時に、知らない女性から「あの時はありがとうございました。まさか本当に当たっているとは思わず、雑な反応をしてしまいすみませんでした。」
と言われた。
「……どうも」
と返事をしつつも本当に思い出せないため、さっさと退散する。
路地裏で着替えを終え向かいの通りを見ると、私とまったく同じ「白いハットに赤い服、黒いズボン」を着た男が歩いているのが目に入った。背格好も私とそっくりだ。
(……同業者か?)
驚いたがそんなこともあるかと思い帰路に着くと、最寄駅の商店街にも全く同じ格好をした男が歩いていた。
気になってネットで調べてみると、SNS上で恐ろしいほどの盛り上がりを見せているトレンドワードがあった。
『街に現れる赤服の占い師ジョージの予言、マジで当たるんだがwww』
投稿を追っていくと、私が今日拡散して回った情報も書かれていた。
カフェの店員が「マジで今日ヤバいクレーマー来た……あの赤服の予言当たった」と投稿しており、サラリーマンも「妻が本当に10万円当てた」と呟いていた。
それだけではない。私以外の「赤服の男たち」が街中で喋り散らしていた情報も、次々と現実になって話題沸騰となっていたのだ。
人々は口々に噂していた。
「あの白ハットに赤服、黒ズボンのジョージって占い師、未来が全部見えてるらしい」と。
たまらず私は、バイトの仲介業者に電話をかけた。
「あの……SNSで話題の『占い師ジョージ』って、もしかして私たちが仕掛けたんですか?」
担当者は電話の向こうで、静かに含み笑いを漏らした。
『……何のことでしょう? 契約書でも説明した通り、その仕事内容についての質問にはお答えできませんし、他言無用ですよ』
カチリ、と素っ気なく電話は切れた。
そこから先は、バイト仲間の間での『噂』でしかない。
おそらく運営側は、私と同じような体格のバイトを何十人も雇い、同じ衣装を着せて街中に散らばらせたのだ。そして、あらかじめ裏で仕込んでおいた『確定した事実(10万円の当選や店へのクレームなど)』を、あたかも予言のように口頭で拡散させた。
一人の人間が予言するより、同じ格好をした複数の『拡散屋』が各地で的中する噂を言いふらす方が、一気に『当たる占い師』として広まる。
そうやって数ヶ月後、「天才占い師・ジョージ」という架空のカリスマが完成した。
今やテレビや雑誌はジョージの話題で持ち切りだ。政財界のトップや大富豪たちが莫大な資産を払い、ジョージに『未来の占い』を依頼しているという。あとは、彼らが望む通りの偽の占い結果を告げて、思い通りに世論を操作するだけだ。
テレビの中では、白いハットに赤い服を着た「ジョージ」が、カメラに向かって怪しく微笑んでいる。あれがバイト仲間なのか、それとも本物の黒幕なのかは誰にも分からない。
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