007 モモ肉のダッチオーブン・ロースト
「……ねえ、Ken。この『断頭台のア●ラ』って魔族、自分の魔力に溺れてて完全にフラグを立てまくってるわよね。絶対にフ●ーレンに負けるわ」
「HAHAHA! エルナ、すっかり分かるようになったじゃないか」
ふと、ライブ配信のチャット欄を見ると、リスナーからこんな質問が書き込まれていた。
:『てかさ、初日から思ってたんだけど、KenのMamaっていつもコメント欄に常駐してない?ww』
:『それな。いつ寝てんの? 普段何やってる人なんだ?』
「Oh、みんなMamaの秘密が知りたいかい? 実はさ、Mamaは日本の漫画やライトノベルを英語に翻訳する、プロの翻訳家なのさ! だから基本、一日中実家のデスクでモニターにかじりついて仕事してるんだよ。オタク知識がガチなのも、それが理由さ!」
Mama:『ちょっとKen、私のプライベートを勝手に配信で流さないでよ、恥ずかしいじゃない……でもそのおかげで仕事の合間に息子の異世界無双を特等席で見られて退屈しないけどね』
:『なるほど! だからオタク知識が豊富なのか lmao』
:『Isekai protagonist(異世界主人公)にすぐ順応してたのも納得だわ lol』
◆◆◆◆◆
そんな和やかな会話をしていると、徐々に太陽が傾き、夕暮れ時がやってきた。
すると、城壁の門のほうから、ざわめきが近づいてきた。昨日俺のBBQを食べた人々や、噂を聞きつけた町の住人、さらには物珍しそうに顔を覗かせる冒険者たちで、ランクルの周りはあっという間に黒山の人だかりになってしまった。
「Whoa, whoa! これはヤベーな! 昨日より明らかに人が多いぜ!」
群衆からは「いい匂いだ!」「今日も食わせてくれ!」と歓声が上がっている。俺は慌ててスマホに向かって叫んだ。
「Mama! 緊急事態だ! ソーセージとエールを大量に買って来てくれ!」
すると、すぐに頼もしい返事がチャット欄にポップアップした。
Mama:『Roger! エールはもう昨日から用意してあるわよ。ソーセージを買ってくるわ! とりあえず10kgあれば足りるかしら?』
「HAHAHA! 流石Mama、話が早いぜ! Thank you!」
:『ソーセージ10kgは業者なんよ lmao』
:『異世界の胃袋をカンザスシティのBBQで満たしてやれ!』
「Alright, Everybody! 料理の仕上げに入るぜ!」
俺はダッチオーブンの前に立ち、重い鉄の蓋をパカッと外した。瞬間、ビールと野菜、そして豚の肉汁が濃縮された圧倒的な香りが広場に爆発し、群衆が一斉に生唾を飲み込む音が聞こえた。
「火が通ったら蓋を外し、このまま煮汁がシロップ状になるまで煮詰めて肉に絡めるんだ。そして最後に、火から下ろして30分以上休ませる! そうすることで、肉汁が落ち着いて、ナイフがいらないほどホロホロに崩れる極上ローストの完成って寸法さ!」
Dad:『Perfect! 休ませる(Resting)工程を省く素人が多いが、そこがBBQMANの腕の見せ所だな!』
◆◆◆◆◆
きっちり30分後。
ツヤツヤに輝く『豚のモモ肉のダッチオーブン・ロースト』と、Mamaから「ガレージ・リンク」で送られてきた大量の極太ソーセージが焼き上がり、いよいよ宴がスタートした。
「さあ、食べてみてくれ!」
紙皿を受け取った町の人々は、一口食べた瞬間に天を仰いだ。
「うおおおおっ! なんだこの柔らかさは!」
「昨日の肉も美味かったが、こっちは肉汁の洪水だ! 噛まなくても口の中で溶けるぞ!」
「エール! エールをくれぇっ!」
そこへ、商談を終わらせた戦士のガンツと、商人のトーマスが人混みをかき分けてやってきた。
「おいおい、今日もやってるのか! 商談終わりで腹ペコだったんだ、俺たちにも食わせてくれ!」
「す、素晴らしい香りですぞ……! おおっ!? 煮込みの深いコクと香味野菜の甘みが、豚の荒々しい肉質を高級品に変えている! まさに魔法の料理ですな!」
二人が絶賛している横で、エルナがようやく『葬送のフ●ーレン』から顔を上げ、ローストを口に運んだ。
「……もぐもぐ。んんっ!? スパイスの刺激が絶妙で、食べる手が止まらないわ! これを食べたら、もうあの硬い肉には絶対に戻れない……! 漫画も凄いけど、あなたの料理も本当に規格外ね!」
宴もたけなわとなり、至る所で笑顔と笑い声が弾けている。
「HAHAHA! みんな気に入ってくれて最高だぜ!」
俺は満足げにうなずきつつ、群衆に向かって宣言した。
「だが、今日はウイスキーは無しだ! 今朝、James Bang Rye Whiskey (ジェームズ・バン・ライ・ウイスキー)のせいでひどい二日酔いになったのを忘れてないよな? 今日は健全にエールだけでフィニッシュだ!」
俺がそう宣言した瞬間、缶ビールを両手に持ったガンツや、すっかり出来上がった門番たちが「ええええー!?」と大ブーイングを上げ始めた。
「おいおい、ケチケチするなよ! あの喉が焼けるような、ジェームズのなんとかってウイスキーを飲ませてくれよ!」
「そうだぞ! あの美味い肉には、あの強い酒が一番ガツンと合うんだ!」
「私も……ちょっとだけなら、あの甘い樽の香りのウイスキー、また飲んでみたいかも……」
:『ほらフラグ立ったwww』
:『異世界転移の酒飲みどもをナメてはいけない(戒め)』
Dad:『HAHAHA! Ken、仲間のリクエストから逃げるんじゃねえぞ!』
リスナーやDadからも煽られ、俺は「Jeez……!」と両手を上げて肩をすくめた。
「分かった、分かったよ! お前らのタフな肝臓には負けたぜ! ……Dad『James Bang』をもう一本、ガレージに放り込んでくれ!」
Dad:『もう置いてあるぞ。みんなで味わえ』
光と共に現れたウイスキーのボトルを掲げると、異世界の酒飲みどもから「うおおおおお!!」と地鳴りのような歓声が上がった。
どうやら今夜も、そう簡単には終わりそうにないぜ。
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次回7:00に公開予定。




