008 Pulled Pork & Chopped Pork
朝。
最悪の二日酔いでガンガンする頭を押さえながら、俺は『ガレージ・リンク』で取り出したMedialyteをがぶ飲みした。二日酔いの救世主である最強の経口補水液が、干からびた細胞に染み渡っていく。
「生き返ったぜ……。なあMama、俺が異世界でBBQを布教してる件だけど、会社はどうなった? やっぱりクビ?」
Mama:『クビどころか、会社のロゴが入ったTシャツを着て配信すれば、宣伝費としてお給料も出るのよ!』
「Oh, グレート! それは助かる!」
Mama:『そして聞いて驚きなさい!Bale AleのBluebird Brewing Co.(ブルーバード・ブリューイング社)、James Bang Rye Whiskey (ジェームズ・バン・ライ・ウイスキー)のEast Tops Whiskey Co.(イースト・トップス・ウイスキー社)、それにMedialyteのRabbit Laboratories
(ラビット・ラボラトリーズ)が、隣の空き家を買い取ったのよ! いつでもガレージにお酒とドリンクを補充できるように、スタッフが24時間常駐で準備してくれてるわ。特大のスポンサー契約よ!』
Mike:『マジで助かった! 俺の財布がエール代で破産しないですんだぜ』
Dad:『こっちもウイスキーの買いすぎで自己破産するとこだったぞ!』
Bluebird Brewing公式:『これからよろしくお願いします! 異世界でも最高のBale Aleを!』
East Tops Whiskey公式:『James Bangの香りを異世界へ! 挨拶代わりのRye Whiskey!』
Rabbit Laboratories公式:『どれだけ飲んでも大丈夫。二日酔いの水分補給はMedialyteにお任せを!』
「……マジかよ!」
アメリカの企業、フットワークが軽すぎるだろ。
俺は『ガレージ・リンク』を発動した。光の中から現れたのは、俺が働くカンザスシティにある運送会社OzExpressに、Bluebird Brewing Co. East Tops Whiskey Co. そしてRabbit Laboratoriesの社名がこれでもかとデカデカとプリントされた派手なTシャツだ。
俺はそれに着替え、カメラに向かって両手を広げた。
「……これでいいのか?」
:『F1レーサーかよ lmao』
:『Isekai NASCAR BOYYYY lol』
:『歩く広告塔ワロタ』
:『スポンサーの圧が強すぎだろ ROFL』
チャット欄の容赦ないツッコミに苦笑いしながら、俺はBBQの準備に取り掛かった。
「朝のヒッコリーの匂いは格別だぜ」
清々しい空気の中、昨日から仕込んでおいたBoston Butt(肩ロース)とPicnic Shoulder(前脚)をスモーカーにセットする。ここから12時間以上かけてじっくり火を通す『Low and Slow』の始まりだ。
ふと周りを見回すと『葬送のフ●ーレン』の最新巻を読み終えたエルナが、空に向かって杖を構え、一般攻撃魔法(ゾ●トラーク)?の練習をしている。
:『エルナちゃん完全に影響されてて lol』
:『異世界の魔法体系、終わったな lmao』
◆◆◆◆◆
夜。
スモーカーから漂う強烈に甘美な香りが辺りに漂う頃、ついにPulled Pork (プルド ポーク)とChopped Pork (チョップド ポーク)が完成した。
「Alright, Everybody! お待ちかねのディナータイムだ!」
俺がスモーカーから取り出した肉は、まるで真っ黒な隕石のようだった。
だが、これは焦げじゃない。肉の表面に擦り込んだスパイスと溢れ出た肉汁が、長時間のスモークによってキャラメリゼされてできた『Bark』と呼ばれる極上の旨味の鎧だ。
俺は金属製のミートクロウ(熊手のようなBBQツール)を両手に持ち、真っ黒な肉塊に突き立てた。
ズバァッ!
「見ろ!肉汁が滝のようだ!」
:『キターーーー!!! ミートクロウ最高!!!』
:『うわあああ引き裂かれたい(錯乱)』
:『これはナイアガラ。完全にナイアガラ。』
力を入れるまでもなく、肉はホロホロと繊維状に引き裂かれ、中からは閉じ込められていた大量の湯気と、キラキラと輝く肉汁がナイアガラの滝のように溢れ出した。
細かくほぐした豚肉に、特製のKCスタイルBBQソースをたっぷりと絡め、コールスローサラダと一緒にふかふかのバンズに挟み込む。
「カンザスシティのソウルフード、プルドポーク・サンドイッチの完成だ! 食べてみな!」
ガンツ、トーマス、エルナの三人が、こぼれ落ちる肉に噛み付く。
「うおおおっ!? なんだこの柔らかさは! 歯がいらねえぞ!」
「濃厚で甘辛いソースに、このシャキシャキした野菜の酸味が完璧なバランスですぞ! いくらでも食べられそうです!」
「スモークの香りが口いっぱいに広がって……すっごく美味しい!」
:『深夜のこの時間に Pulled Pork はテロすぎる 』
:『コールスローの酸味がまた合うんだよなぁ!分かってるわトーマスさん』
:『異世界人が完全にKCスタイルに調教されててワロタ lol』
極上のBBQとスポンサーから無限に供給される冷えたエールで、今夜も広場は盛大な宴となった。
宴もたけなわになった頃、商人のトーマスがふと真面目な顔で尋ねてきた。
「我々は、この町での商談が終わったので明日には次の町へ出発しますが……Ken殿はどうなさいますかな?」
「Hmm……そうだな。神様に『BBQを広めろ』って言われてこの世界に来たからな。俺も一緒についていっていいか?」
「おお! それは大歓迎ですぞ!」
「よっしゃあ! これで旅の間も美味い肉が食えるぜ!」
ガンツがガッツポーズをしていると、それを聞いていた門番や町の人々が、一斉にブーブーと文句を言い始めた。
「おいおい嘘だろ! 明日からこの美味い肉が食えなくなるのか!?」
「そんなの耐えられねえ! なあ、俺たちも次の町についていくか!?」
:『肉のために集団移住すな ahahaha』
:『BBQで大移動が起きる異世界 lmao』
:『ギルド長が泣いちゃうからやめてあげて lol』
周囲の冒険者たちが、本気で移動を計画し始めている。
暴動一歩手前の異世界人たちを前になんとか宥めるため、俺はスポンサーロゴだらけのTシャツの胸を叩き、カメラと群衆に向かってサムズアップして最高のキメ台詞を放った。
「HAHAHA! 心配するな、また来るさ! I'll be back!」
:『シュワちゃんかよwwww』
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次話明日7:00に公開予定。




