034 キノコ
助手席で地図を広げながら、エルナが顔を上げた。
「この先の森を抜ければ、次の町に出るわ。でも気をつけて、あの森は厄介な魔物が多いから」
「OK! どんな魔物が出ようと、俺のランクルなら問題ないぜ!」
俺たちは鬱蒼と茂る薄暗い森の道へと車を進めた。
しばらく進むと、突如前方の茂みがガサガサと揺れ、奇妙な姿の魔物が飛び出してきた。
それはバスケットボールほどの大きさがある、二足歩行の巨大なキノコだった。
「Whoa! 見てみろEverybody!」
俺は急ブレーキを踏み、ダッシュボードのスマホに向かって叫んだ。
:『キノコ歩いてるww』
:『完全にマリヲのクリボウじゃねーか lmao』
:『異世界クオリティ高すぎ lol』
「HAHAHA! マジでクリボウ発見だ! これは踏めばいいのか!?」
俺が面白半分にドアを開けようとした瞬間、エルナが血相を変えて俺の腕を掴んだ。
「やめて! 踏んだら胞子が飛び散って、身体中からキノコが生えて大変なことになるわよ!」
「Oh my god……そいつはホラーすぎるぜ」
「はいはい、見てて! 『氷結』!」
エルナが杖を振るうと、冷気がクリボウを瞬時に凍らせた。
俺は車を降りて、その凍ったキノコをツンツンと小突いた。
「見た目、完全に巨大なマッシュルームだな。これって……食べれるのか?」
「毒はないから食べられるけど……」
エルナは顔を引きつらせた。
「本当に食べる気?」
「もちろん! 食材を無駄にするのはBBQMANの恥だからな!」
◆◆◆◆◆
その日の夕暮れ。森の開けた場所で野営地を設営した俺たちは、早速マッシュルームの調理に取り掛かった。
「今日は巨大マッシュルームのBBQ料理だ! スタイルはもちろん、カンザスシティBBQ風で行くぜ!」
俺はマッシュルームを分厚くスライスし、グリルに並べた。
そこに、ブラウンシュガーの甘みとビネガーの酸味が効いたKCスタイルの特製BBQソースをたっぷりと刷毛で塗り込んでいく。
ジュワァァァッ! という音と共に、甘辛いソースが焦げる強烈に食欲をそそる匂いが森の中に立ち込めた。
Dad:『Ken! 野菜のBBQも温度管理が命だぞ! 焦がしすぎるなよ!』
:『美味そう……肉厚なシイタケみたい』
:『ソースの照りがヤバい』
「Alright! 完璧な焼き上がりだ!」
俺が皿に盛り付けようとしたその時――。
背後の茂みがカサリと鳴った。
「……誰だ?」
ガンツが大剣に手をかけ、警戒する。
木陰からゆっくりと姿を現したのは、弓矢を手にした一人の女エルフだった。
「エルフ!? なんでこんな所に?」
長い耳と美しい金の髪。しかし、その視線は俺たちではなく、グリルの上のマッシュルーム料理に完全に釘付けになっていた。
ゴクリと生唾を飲み込む音が静かな森に響いた。
「Hey! 腹が減ってるのか? できたてホヤホヤを食べてみな!」
俺が紙皿にマッシュルームを乗せて差し出すと、女エルフは素直に皿を受け取った。
そして一口かじると、ぱぁっと花が咲いたように表情を輝かせた。
「……美味しい」
「HAHAHA! 気に入ってくれて最高だぜ! BBQにはこれも必須だ!」
俺はガレージ・リンクから、冷えたBale Aleを取り出して渡した。
女エルフは不思議そうにアルミ缶を受け取り、口をつける。
途端に、綺麗に整った顔をくしゃっとしかめた。
「……苦い」
そう言って、飲みかけの缶を俺に差し出してくる。
「HAHAHA! 慣れないうちはそうかもな。でも飲みなれると美味いんだぜ?」
俺が笑いながら、エルフが口をつけたばかりの缶を受け取り、そのまま飲もうとした瞬間――。
:『おい! それ間接キスだぞ!』
:『エルフちゃんとの間接キス羨ましすぎ! グギギ』
Mama:『あらあら、Kenったら大胆ね』
リスナーたちのコメントが流れたのとほぼ同時だった。
「ビ、ビールおかわり!」
突如、横から猛烈な勢いでエルナが飛び込んできた。
彼女は俺の手からエールを即座に奪い取ると、一気に喉に流し込んだ。
「Whoa!? ちょ、エルナ、お前自分の分があるだろ!」
「の、喉がすごく渇いてたのよ! 文句ある!?」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くエルナ。
:『エルナちゃんの鉄壁のディフェンスwww』
:『間接キス阻止キターーー! lmao』
:『魔法使い(物理ブロック)』
「まあいいか。エールはまだたくさんあるからな」
俺が新しくBale Aleを開けて乾杯している間に、女エルフはあっという間にマッシュルーム料理を完食してしまった。
彼女は指についたBBQソースをペロリと舐めると、真っ直ぐに俺の目を見た。
「……あなたの料理、気に入った。旅について行く」
「Oh! それは大歓迎だぜ! そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はKen、流れ人だ!」
エルフは少しだけ胸を張り、静かに自己紹介をした。
「……私は、ファラ」
「Alright, ファラ! よろしくな!」
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次話明日7:00に公開予定。




