033 赤ワインとイエーガーマイスター
翌朝。
澄み切った青空の下、町の門前には出発の準備を整えた俺のランドクルーザーと、トーマスの馬車が停まっていた。
町に残って別の依頼を受けるというピエールとクラウスが、俺たちを見送りに来てくれている。
「ふぁ〜あ……。クラウスのソーセージ、もう食えないと思うと寂しいぜ」
大あくびをしながらお腹をさするガンツに、クラウスが微かに口角を上げて鼻を鳴らした。
「Hmph。お前がもう少しはまともな戦士の顔つきになったら、今度は好きなだけ食わせてやるさ」
「そいつは楽しみだな! 」
「ピエールさん、クラウスさん。短い間だったけど、本当に楽しかったわ。あなたたちの自然への敬意と、料理にかける情熱……すごく勉強になったわ」
エルナが丁寧にお辞儀をすると、ピエールが優雅に歩み寄り、彼女の手の甲に軽くキスを落とした。
「Merci、マドモアゼル・エルナ。君の美しさと完璧な魔法のサポートこそが、我々の狩りを最高にエレガントな芸術にしてくれたのさ。どうかお元気で」
「Hey、ピエール! クラウス! ちょっと待ってくれ」
俺は『ガレージ・リンク』を発動させ、James Bang Rye Whiskeyのボトルを二本取り出した。
「俺からの餞別だ。夜にでも、ちびちびやってくれ」
俺がそれぞれにボトルを手渡すと、二人は嬉しそうに目を細めた。
「Oh、これは素晴らしい。ならば私からも、君たちのこれからの旅に華を添える贈り物をしよう」
ピエールがガレージ・リンクから取り出したのは、美しいボルドー型の瓶に入った高級な赤ワインだった。
「極上の肉には、やはりこれが必要だからね。次のキャンプで開けてくれたまえ」
「ならば、俺からも渡しておこう。ドイツのハンターが狩りの後に飲む、伝統的な薬草酒だ」
クラウスが差し出したのは、深緑色の無骨な四角いボトルだった。
「おっ? なんだこのラベル……鹿の絵が描いてあるな」
俺がボトルをまじまじと見つめると、クラウスは静かに頷いた。
「Ja。狩りの獲物に対する感謝と祈り……昨日見せた『レッツター・ビッセン』を象徴するラベルだ。真のハンターにしか飲む資格のない、誇り高き酒だ。アルコール度数が高いから、気をつけて飲めよ」
「Awesome……! 最高のプレゼントだぜ、クラウス! ピエールも、本当にありがとうな!」
俺たちは男三人で固く握手を交わし、互いの肩をバンバンと叩き合った。
国籍も、狩りのスタイルも、料理の哲学も全く違う俺たち。だが、焚き火と肉を囲んだ絆は、確かに本物だった。
「Alright! それじゃあ俺たちは行くぜ! またどこかの空の下で、一緒にBBQしようぜ!」
「Au revoir、友よ! 良い旅を!」
「Auf Wiedersehen(また会おう)。狩猟の女神の加護があらんことを」
俺はランクルに乗り込み、エンジンを掛けた。
V8エンジンの力強い重低音が静かな朝の町に響き渡る。
バックミラー越しに、小さくなっていくピエールとクラウスの姿が見える。二人は俺たちが見えなくなるまで、ずっと手を振ってくれていた。
町を出てしばらく進むと、窓から吹き込む風が次第に森の青葉の匂いへと変わっていった。
「さて! 最高の酒も手に入ったことだし、次の町へ向けて出発進行と行くか!」
俺がアクセルを踏み込むと、助手席のエルナがくすくすと笑った。
「ふふっ。Kenったら、もう次のご飯のこと考えてる顔してるわよ」
「おう! 次はどんな美味いモンスターが待ち構えてるか、楽しみだぜ!」
異世界の風を切り裂きながら、俺たちの賑やかな旅はまだまだ続いていくのだった。
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次話明日7:00に公開予定。




