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031 レッツター・ビッセン

「いくわよ! 『アイス・バインド』!」


エルナが杖を振り下ろすと、ビッグホーン・ディアーの足元の地面が急速に凍りつき、その巨体を地面に縫い留めた。


「Nice、エルナ! さあ、オープン・ファイアだぜ!」


俺のウィンチェスター、ピエールのシャピュイ・アルム、クラウスのブレイザー。

三つの全く異なる哲学で作られた銃から、ほぼ同時に弾丸が放たれた。


森に轟音が響き渡る。


巨大な鹿は、苦痛の悲鳴を上げる間も与えられず、ズドーン!と重い地響きを立てて倒れ伏した。


「Phew! 見事な一撃ワンショットだったぜ!」


俺は二人に親指を立てる

ピエールは当然とばかりにうなずき、クラウスは静かに銃を下ろして倒れた鹿の元へと歩み寄った。


クラウスは近くの木の枝を一本折り取ると、巨体の前でひざまずき、静かにその枝を鹿の口にくわえさせた。そして、黙祷を捧げるように目を閉じた。


「クラウス、今のは何の儀式なんだ?」


俺が尋ねると、彼はゆっくりと立ち上がり、振り返った。


「これは『レッツター・ビッセン(最後の食事)』と呼ばれる、ドイツに伝わる伝統的な狩猟儀式だ。命を奪った獲物への敬意と感謝の印として、最後に森の恵みを食べさせる。そして、獲物の魂が安らかに森へ還るように祈る。我々ハンターが絶対に忘れてはならない『ヴァイトゲレヒトヒカイト(狩猟道徳)』だ」


ピエールも優雅に帽子を取り、静かに頷いた。

「Très bien!(素晴らしい) 命をいただく重みと自然への畏敬。これこそが真のハンターの証だね」


:『おお、なんか神聖な儀式だな』

:『ドイツの狩猟文化、深いわ』

Mama:『獲物の魂に祈りを捧げて、命に感謝していただく……まるで日本のアイヌの教えね! ヒンナ ヒンナ! Mamaもアニメを観て勉強したわ!』

:『Mama金カム観てて草』

:『Hinna Hinna!』

:『命に感謝していただく。大事なことだね』


俺達は血抜きを手早く済ませ、『ガレージ・リンク』を発動させた。


「Hey Dad Mama! あとで町に着いたらすぐ引き出すから、ちょっとガレージ借りるぜ!」


俺は巨大なビッグホーン・ディアーをガレージへと一時転送してから、森をあとにした。




◆◆◆◆◆




町へ戻った俺たちは、ギルドの裏手にある解体場を借りた。


「Alright! それじゃあ、ビッグホーン・ディアーを出すぜ」


俺が『ガレージ・リンク』を発動させると、光と共に巨大な鹿が姿を現した。

そのまま、俺、ピエール、クラウスの三人がかりでナイフを振るい、皮をはぎ、巨大な肉の塊を手際よく部位ごとに分けていく。


「よし、分け前を決めようぜ!」


ピエールが一番に上質な背肉ロースとヒレを指差した。

「私はこの柔らかく美しい部分をもらおう。赤ワインとベリーのソースで、最高にエレガントな一皿に仕上げるよ」


クラウスは、しっかりとしたモモ肉と肩肉を選ぶ。

「俺はこれだ。じっくりと煮込ぬグーラッシュと、スパイスを効かせたヴルスト(ソーセージ)を仕込むとしよう」


「HAHAHA! なら俺はこの骨付きのリブ(バラ肉)をいただくぜ! 特製ソースをたっぷり塗って、豪快なスモーク・バーベキューにしてやる!」


それぞれの取り分を決めた後も、巨大なモンスターゆえに大量の肉が余った。


「それで、残った肉だが実家に送っていいか? ご近所さんにもおすそ分けすると思うが?」

Ouiウィ! もちろん。私が華麗に仕留めた獲物をご馳走しよう」

Jaヤー! 命に感謝して残さず食べる。当然だ」


俺は再び『ガレージ・リンク』を発動させ、余った肉をビニール袋に詰めて実家に送った。


「Hey、Dad、Mama! 極上のベニソン(鹿肉)のお届けだ! ご近所さんにもお裾分けして、BBQでも楽しんでくれ!」


Dad:『HAHAHA! ガレージにいきなり巨大なモンスターが現れた時は腰を抜かしかけたぞ! さっそくスモーカーに火を入れてくるぜ。ご近所さんを呼んでビッグ・パーティーだ!』

Mama:『Oh my……また冷蔵庫がパンパンになっちゃうわ! ありがとねKen!』

:『親父さん、いきなりモンスター送られてきて草』

:『実家のガレージをアイテムボックス代わりにするなww』

:『実家への仕送りが異世界の巨大鹿肉lol』


その後、俺たちはそれぞれのスタイルで肉の下ごしらえを進めた。

ピエールは肉をワインと香草でマリネして寝かせ、クラウスはこだわりの塩とスパイスで肉を揉み込む。俺もリブ肉に特製のラブ(スパイスミックス)を隅々まですり込み、明日の本番に向けて準備を整えた。


「下ごしらえもバッチリだ! 残った立派な角と毛皮はギルドに買い取ってもらおう!」


俺たちは冒険者ギルドのカウンターへ赴き、巨大なビッグホーン・ディアーの角と毛皮を提出した。

生態系を脅かしていた害獣の討伐ということもあり、ギルドの受付嬢は目を丸くして驚いていたが、すぐに高額な報酬と討伐完了の証明書を手渡してくれた。


「よし! 報酬もガッツリ入ったし、今日のところはこれで任務完了だな!」


俺たちはそのままギルドに併設された酒場へと移動し、大きな円卓を囲んだ。

ジョッキになみなみと注がれたエールが、全員の前に運ばれてくる。

エルナが笑顔でジョッキを持ち上げた。


「Ken、ピエールさん、クラウスさん、討伐お疲れ様! 息の合った見事な腕前だったわ!」

「HAHAHA! エルナの完璧な魔法サポートがあったからこそさ!」

「Oui。素晴らしいチームワークだった。我々の出会いと、森の命に感謝しよう」

「Ja。明日は最高に美味い肉が食えそうだな」


俺たちはジョッキを中央に掲げ、高らかに声を合わせた。


「「「「CHEERS(乾杯)!!」」」」


木製のジョッキがぶつかり合う小気味良い音が、賑やかな酒場に響く。




お読み頂きありがとうございます。

ブックマーク、★ボタン、できたらよろしくお願いします。


次話明日7:00に公開予定。

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